泳ぐ公然わいせつ

「いかがでしょう、男爵様?」

 赤いツイストスリングショットの水着を、ミレイアはポーズを取る。


 ここは、ホホヤのプールだ。貸し切りのようで、ミレイアたち以外は誰もいない。


「えらく攻めたな……」

 クーゴンが、ミレイアの着ている水着に唖然となる。


 素材は長く赤い布一本だけだ。背中と両の脇腹で、布はクロスしている。

 ヒップなどは、モロに食い込んでいた。

 こんな水着を大衆の前で着ていたら、公然わいせつで退場させられるだろう。


「よくそんな水着があったね」

 男爵も、クーゴンと同じ様にアゴを開いている。


「特注ですの」

「なんか、縄で縛っているだけみたい」


 アメスの言葉に、ミレイアはまた身体をくねらせた。

「特注ですもの」


 ミレイアの隣には、アメスがいる。

 水色のワンピース水着を着て、準備運動をしている最中だ。


「ママ、そんなかっこうで、泳げるの?」

「泳げますわ。耐水性をシャワーで調べたら、バッチリでしたわよ」


 意外としっかりしていて、驚いている。

 正直、隠すところがほとんどなくて心もとないと思っていたが。


「そういう皆さんは、随分と控えめですわね」


 クーゴンたちも、泳ぐスタイルになっている。

 が、上にパーカーを羽織って露出は抑えていた。


「今日はレディたちが主役だからな。オレたちは隣の食堂でくつろいでいようと」

「ほほう。いつぞやの勝負、また決着はついておりませんわ」


 前回の朝、ミレイアはクーゴンにケンカをふっかけている。

 その争いはまだ終わっていない。


「もう忘れた。さっさと泳いでこいよ」


「随分と引き際がよろしいことで。ゴリラのことですから、もっと頭に血が上っているのかと」

 調子の狂ったミレイアは、挑発を試みる。


 だが、クーゴンは露骨にフードコートへと急ぐ。ロクに話を聞かない。


「ああなったら、聞かないよ。クーゴンさんは」

「ほっといて泳ぎましょう、アメス」


 アメスも肯定し、二人でプールの中へ。


「気持ちいいですわ!」


 ほどよく温かくて、気持ちよかった。かといって、のぼせるほどではない。


 アメスが泳げるか心配だったが、こちらが手本を見せるとすぐに覚えた。


「その調子ですわ、アメス」

 物覚えがいいアメスは、あっという間にコースを一周泳ぎ切る。


「お見事ですわ!」

「やったー」


 ハイタッチして、ミレイアはアメスを祝福した。


 泳ぎ終わった二人は、プールの中でたゆたう。


 相変わらず、クーゴンは機嫌を損ねている。

 輪の中に入ろうとしない。酒を飲んでいるから、水に入る気もないだろう。


「クーゴンは、まだ気にしているのか」

「イヒヒ。どうやら旦那は、早く帰りたがっているでヤンス」



 男爵とピィは、ワケを知っている様子だが。



「クーゴンの旦那は、実家から追い出されているでヤンス。イヒヒ」

「ボクに協力をする代わりにね」


 ブラックドラゴンは、あまり人と交流したがらない。

 このプールも、ドラゴンの山から随分と離れた場所で建築した。

 彼らの聖域を邪魔しないように。


「少し話がこじれたんだよね。けど、あんたが街を救ったと知って、向こうも折れたのさ。ドラゴンの領域も守ってもらったわけだから」


 言ったのは、シオン博士だ。

 プールサイドのベンチに寝そべり、トロピカルジュースでノドを潤す。

 博士は童顔巨乳を存分に活かした、ややスポーティな水着を着ていた。

 かわいらしさより、機能美を選んだつもりらしい。しかし、扇情さの方が勝っている。


「どうして、ブラックドラゴンは人間と仲よくできないの?」

「それはねアメス、ブラックドラゴンは」



 男爵が説明を仕掛けたとき、ホイッスルが鳴った。 



「ちょっと、そこ! そんな水着は公然わいせつ罪よ!」


 セパレートのピンク水着姿で現れたのは、エリザ姫だ。お供のイルマもいる。


「どうしてあなたがこちらに? ここを使うのは、我々だけでは?」

「あたしが王族だからよ! 当然でしょ?」


 王族たるもの、民の安全を預かる義務があるのだ。

 民の使うことになる施設は、チェックせねばならない。


「だから、警備員として使用させてもらうのよ」

「せっかく、男爵様とのスキンシップに勤しもうと思ってましたのに」


「あんたからは、卑猥な想像しかできないわよ」

 エリザが、眉間にシワを寄せる。


「イルマお姉ちゃんも、すごい」

「いえいえ、とんでもないですよ! ミレイアさんには及びません」


 謙遜しているものの、イルマの胸は自分といい勝負だ。

 フリルの着いた白のヒモビキニで隠しているが、張りはイルマのほうが上かも。


「形も良くて、かわいく隠しているのはもったいないじゃん。もっとバッチコーイって感じで見せびらかしても良かったんじゃない?」

「もしよろしければ、ワタクシの水着と交換なさいますかしら?」


 どうも男爵は、おとなしめの水着をご所望のようだから。 


「ムリムリ! ムリですっ! そんな挑発的すぎる水着、普通の人には着られませんもん!」

 手をバタバタさせて、イルマは恥ずかしがる。 


「まるで、ワタクシが普通の人ではないような物言いですわね?」

「あんたが普通だなんて、誰も思ってないわよ」



 ミレイアは、周りに視線を向けた。

 


「だ、男爵さま。お話の途中だった」

 さりげなく、アメスが話題をそらす。



「今では中庸の立場にいるけど、ブラックドラゴンは元々魔王側についていたんだ」

「えっ⁉ ということは」



「そうさ。ボクとクーゴンは昔、敵同士だったんだよ……」

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