暗黒城リアルタイムアタック、はーじまーりまーすわー

 仲間を見送った後、青年はミレイアに礼を言った。


「助けてくださってありがとう。ボクはオーレリアン、ダラス国の王子です」


「トゥーリ男爵のもとでメイドをしております、ミレイアと申します」

 ミレイアも頭を下げる。


「すごい治癒魔法ですね、どこでその技を?」

「故郷が、聖女を育成しておりまして。ワタクシも、少々かじっておりました」


 嘘は言っていない。

 実際、アニタとは共に訓練をした仲なのだから。


「勇者と並び称される聖女。その訓練場が、エルヴィシウス以外にもあるのですね?」

「ええ。世界は広いので」


 よくもまあ、勇者の前でウソがつけるものだ。


「自己紹介はこの辺にして、急ぎましょう。ポーラ姫を救わねば」

「そうだね……あれを見て!」


 王子が、天井を指し示す。


 何もない虚空に、映像が浮かび上がった。

 人間サイズの鳥かごに入れられている女性と、隣のソファに寝そべるアフロの男性が映っている。


「ようこそ暗黒城へ。オレサマがこの城の主、ラファイエットだぜ!」


 ラファイエット侯爵が、グラスに入った黄金色の液体を煽る。

 アフロの衣装は、胸元のあいた純白の背広を地肌で着ていた。胸毛が全開だ。下は、白いパンタロンスタイルである。背中ではためくは、漆黒の翼だ。


「ポーラ様!」


「オーレリアンさま逃げて!」

 鳥かごから、ポーラ姫が叫ぶ。

 幽閉されて入るが、ドレスは清潔に保たれていた。ラファイエットが魔法で汚れをとっているらしい。


「黙れ! テメエはこの惨劇を見続ける義務があるんだよ!」

 アフロが鳥かごにケリを入れた。


「姫をどうなさるおつもりで?」


「どうもしねえよ! 精神的に痛めつけているだけだ。こうやって、自分を助けに来た冒険者をいたぶってる様を見せつける。姫様は罪の意識にさいなまれる。オレサマメシウマってわけだ! ギャハハ!」


 下劣な趣味を持っている。


「お前らの様子は、中継させてもらう。魔界ちゃんねるでも再生数がうなぎ登りなんだ。今んところ、オレサマがもっとも魔王に近づいている。たとえ魔女と言えども、オレサマの牙城は崩せねえ! カモン!」

 アフロが指を鳴らした。


 エントランスから、異様に巨大なドクロが襲いかかってくる。


「あれはエルダー・リッチ。アニタさんを半殺しにした魔物です! それが三体もいるなんて!」


 王子が、ミレイアをかばって前に出た。

「おのれ化け物! みすみす死んでたまるか!」

 剣を抜き、王子がドクロを威嚇する。


 しかし、ドクロ共はあざ笑っているかのようだ。  


「旅の人、王子を連れて逃げてください! そしてお伝えください。汚染魔法でもなんでも使いなさいと! 私は、どうなっても構いませんから!」

 必死の形相で、姫が訴えかけてくる。




「ご安心を。あなたは一時間でお助けいたします」




「ああ? てめえ、なんて言った?」



「豚には聞こえませんでしたか? 一時間でこの城を落とすと申したのです」


 正直、頭にきていた。フロアを一つずつ壊してドヤ顔してやろうかと思ったが、やめだ。


 徹底的に潰す。最短で。


 短い間とは言え、同郷の友を殺しかけた罪は重い。


 わからせれやらねば。


「イヒヒ! おもしれー女! そんな減らず口をたたく女はいたけど、みーんな最期は悲鳴を上げて助けを乞いていたぜ!」


「寝言は、寝てからおっしゃいませ」

 まずミレイアは、王子を白い魔法障壁で包み込んだ。


「ミレイアさん⁉ どういうことです? ボクも戦います!」


「ちょっと黙っててくださいますか?」

 きつい言葉で、王子を制する。


 たとえ偉い人であっても、それはそれ。命がかかっているなら、あまり前に出ないでほしい。やりづらいから。


「その威勢もどこまで続くかね? まあ、お前らの人生はここで終わるんだけどな? せいぜいこの玄関から抜け出せるようにあがきな! ギャハハハーッ……はあ⁉」


 アフロの高笑いが、驚愕へと変わる。


 ミレイアが、ドクロ共を一瞬で灰にしたからだ。


 ムチを浴びせて、ミレイアはドクロ三体を同時に撃滅する。



 しまった。もっといたぶって殺すつもりだったのに。


 つい、本気で消滅させてしまった。

 感情のコントロールが効かない。


「助けを……いいえ。許しを乞うのは、あなたの番です」


「これが、魔女の力かよ! 半端ねえ!」

 絶句しながら、ラファイエットが酒をヤケクソで煽った。


「ば、バカな。アニタさんが全身全霊をかけて滅した怪物を、一撃で撃破するなんて⁉」

 白い球体の中で、王子は膝から崩れ落ちる。


「王子はそこでワタクシを追随していてくださいな。そこは安全ですので。その間に、ワタクシがこの城を完膚なきまでに破壊いたしますので」


 主役は王子だ。彼に死なれては困る。


「ざ……っけんなてめえ! まだまだ、オレサマの魔力を削って召喚した、凶悪な魔物が各フロアにうじゃうじゃいる。そいつらを倒して三つのオーブを手に入れない限り、オレサマの元へはたどり着けねえ!」

 説明ゼリフで、侯爵はこの城の落とし方をわざわざ解説してくれた。


「攻略法をどうも。聞いていましたね王子? オーブの管理は、あなたにおまかせしてもよろしくて?」

「は、はあ」


 オーレリアン王子も、呆気にとられている。


「では、暗黒城リアルタイムアタック、はーじまーりまーすわー」



 ミレイアによる、RTAが始まった。

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