散華など、させるものか(第三話 完 

「さあ、トドメを。武人として、死なせてくれ」

「はあ? あなたを抹殺オシオキするのは、ワタクシではありませんわ」


 死を懇願するアエーシェマに対して、ミレイアは吐き捨てる。


「なんと? 聖女でなくして誰が--」

 いい切る前に、アエーシェマの腹に「避雷針」が突き刺さった。


「な、バカな」

 落下には気づいていただろう。しかし、アエーシェマは「どこへ落ちているか」までは気づいていなかったらしい。


 アエーシェマが背後を振り返る。シオン博士と目があった。


 ゴーレムの手を取り、博士はアエーシェマに避雷針を突き刺している。


「ナイスでした。シオン博士」


 避雷針で敵を貫いたのは、シオン博士である。


 博士の研究所へ、アエーシェマは落ちていたのだ。


 博士は友だったゴーレムを殺された。復讐する権利は博士にある。


 よって、ミレイアは抹殺オシオキの役割を譲ったのだ。ヘッドドレス型通信機で連絡を取って。


「む、無念!」

 アエーシェマは武人としてではなく、ただの霊体として生涯を閉じた。

 意識のない、単なるエネルギー体となって。


 

 普通には殺さない。

 今後は、街の電力としてこき使う。 



 回収して、魔界ちゃんねるへ引き渡しすらできなかった。


 アエーシェマは背信者ではないから、配信活動も不可能だが。


 散華など、させるものか。



「まったくメイド! あんた相変わらず、メチャクチャするわね!」

 腰に手を当てながら、ヴァルカマ王国騎士隊長エリザ姫がため息をつく。


「あんたが博士の護衛を頼んできたから、救助に向かったらこの有様よ」

 エリザが周囲を示す。


 見渡す限りの焦土が広がっていた。街の施設そのものに大きな被害こそ出ていない。

 しかし、山は崩れあちこちに地割れが起きていて、移動手段が絶たれている。


「ですが、彼女がいなければアエーシェマなんて大物、倒せませんでしたよ。たとえ倒せたとしても、犠牲者が出ていました」

 副長イルマが、惨状を前に意見をした。


「街がボロッボロなんだけど? どうしてくれるのよ?」


 街には、大きな亀裂が走っている。人の住める状態ではない。

 橋をかけてどうにかなる状態でもなかった。

 騎士団の働きで、死人が出なかっただけマシであるが。


 シオン博士の研究所も、魔獣の下敷きである。いくらミニマリストと言えど、この状態では住めない。


「ワタクシに言われても……そうですわ」

 ミレイアは、ヘッドドレス型通信機を動かす。


「イヒヒ。あっしに連絡なんて珍しいでヤンスね」

「あなたの元飼い主と替わりますわ」

「シオン博士でヤンスか? イヒヒ」


 ミレイアは、ヘッドドレスを渡す。


「ご無沙汰だね、ピィ。それでミレイア、何を話せば?」

 ヘッドドレスを耳から離し、シオン博士はミレイアに尋ねる。


「そちらのお部屋ですが、随分と空き部屋がございますわよね? 博士のために、一部屋都合いただけないでしょうか」


 ピィに、ミレイアは事情を話した。


「旦那様のご意思も聞かずに、でヤンスか?」

「帰宅後、男爵様にはワタクシからお話します。ご無理だとしても、せめてお風呂くらいはご用意差し上げたいのですが……」

「承知したでヤンス」


 通話を切る。


 後始末をするという騎士団たちに別れを告げ、一足先にミレイアは博士を連れて帰宅した。




「というわけでして」

 シオン博士を入浴させている間、ミレイアは男爵にコトの成り行きを話す。


「なるほど。魔王直属の配下が襲ってきたと」

 アゴに手を当てながら、男爵が考え込む。


「オマエさんが、アエーシェマを殺すとはな」

「そんなに、強かったので?」


 クーゴンが渋い顔をしたので、意外だった。


「魔王の加護がなくても、相当強い相手だったんだぜ。それを一人で撃退するなんてな。とんでもないやつだ。聖女の力でなければ、消滅させられないってのに」


 疑惑の視線を、ミレイアはクーゴンに向けられる。


「まあ、運が良かったですわ。敵には弱点がありましたから。ゴリラにはできない発見だっただけのこと」

「ゴリ押しでも倒せたからいいんだよ」


 強い攻撃があった分、弱点が脆かったのは救いだった。


「それより、敵が強くなっています。お仲間は集結させておいたほうが、何かと都合がよろしいかと」


 ヘタに戦力を分散させていると、各個撃破される可能性が高い。


 なにより、あちこち回らされなくて済む。

 

 こちらは男爵のお世話をするためにいるのだ。

 男爵以外の相手をするのは大変である。


「キミの案を採用しよう。シオンは、うちで面倒を見る」


「ありがとう、トゥーリ」

 バスローブ姿のシオンが、湯気を連れて現れた。


「滞在費用は研究で返すからさ。よろしくね」


「どうせ部屋は余ってるんだ。ゆっくりしてくれ。ピィと積もる話もあるだろう」


 男爵が言うと、ピィも賛同する。


「イヒヒ。夕飯の支度ができたでヤンス。博士、お酒なら付き合うでヤンス」


「ウフフ。久々に飲み明かそっか!」


 ミレイアは、酒を嗜まない。けれど、二人の会話が少しうらやましいと思う。

 気心を許し合う関係とは、いかに心地よいのか。


 聖女の修行、男爵のお世話、魔物退治、どこへ行っても独走してきたミレイアにとって、対等の存在は憧れである。


 だが、自分は寂しくない。男爵と、仲間がいるから。


 第三話 完

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