幻想世界での死闘。魔女アジ・ダ・ハーカ戦!

 ミレイアは、何もない荒野に立ち尽くしている。


 たしか、自分はプーヤンという魔物に眠らされたはずだ。


「ここは夢の世界や。ミレイア」

 刀を肩に担いだ壮年の女性が、ミレイアの前に立っている。

 ミレイアの故郷で身につける、聖女の衣装を着て。


 ミレイアは、その女性の顔をよく知っていた。

 生まれ故郷に、彼女の銅像が立っているから。


「あなたは、ミフネ・コージ⁉」


 まさか、魔女の正体はミフネだというのか?


『ちゃうちゃう。我は、あんたが一番恐れている相手の形を作っているだけや。ウチは実体なんかないんよ。イメージを借りとるだけ』


 ミレイアが唯一尊敬し、唯一勝てないと思っている女性だ。 


『ウチはもう、自分の魔力を抑えられん。これは試練や。ミレイア』


 そういえば、魔女は「アジ・ダ・ハーカが制御できなくなると」と話していた。

 夢の世界で押さえ込まないと、現実世界でミレイアの身体を乗っ取ってしまうだろうと。


「会話は、可能なのですわね?」

『それくらいはな。せやけど、衝動は抑えられへん。これでも、フェアにやろうって必死なんや。無理からに襲いかかってもよかったんやで』


 鞘を口にくわえながら、ミフネが足を曲げた。踏み込みの力を貯めているのだ。


『ちゃんと対処しいや。せやないと、夢でホンマに死ぬで!』


 スタイルもなにもない居合い斬りで、ミフネが飛び込んでくる。

 口で居合いを繰り出す人間がいるとは。



 ダブルトリガーで、ミレイアはミフネの太刀筋を弾き飛ばす。


「武器は使えるようですわ」

『魔女の力を制御するんやからな。使いこなせれば、もっと強くなれるで。飼い慣らせればやけど!』


 側転し、ミフネがカカトを突き上げる。狙うのはミレイアのアゴだ。


 手を狙って、銃を放つ。


 ミフネの反応が早い。すぐに手を放し、腹蹴りに移行する。


「ならば!」

 ミレイアは触手を展開した。


 だが、ミフネの背後からも触手が飛び出す。


 触手だけで打ち合いの応酬が始まる。


 こちらが攻撃をする度に、ミフネの触手がはじけ飛ぶ。


「全盛期のミフネ・コージも、これくらい強かったのかも知れませんね!」

「せやろな。アンタはどこまで、ついてこられるんや?」


 ミフネが斬りかかろうとしても、ミレイアは二丁拳銃でけん制する。


 しかし、ミレイアの方も攻めあぐねていた。隠し腕の銃撃も合わせても、ミフネには届かない。


 触手の数はミフネの方が上だ。魔力にモノを言わせ、圧倒的な物量で押しつぶす。


 精密さは、戦闘経験のあるミレイアの方に部がある。

 ミフネの攻撃を退けながら、ダメージを確実に与えていた。


 しかし、数がまったく減らない。これが魔力量の差か。


「再生していますの?」


 激しい攻撃をしながら、ミレイアは冷静に状況を分析していた。


 どれだけ撃退しても、ミフネは触手を蘇生させてしまう。


『さすがやで、ミレイア。よくここまで魔女の力を使いこなしとる。ウチの目に狂いはなかった。せやが、所詮は人間や!』


 ミレイアの足首に、触手が絡まる。

 首にまで巻き付いてきた。

 こちらの攻撃は、すべて止められる。

 全身にも触手がまとわりつき、身動きが取れない。

 息が詰まってくる。あと一押しで、窒息してしまうだろう。


『堪忍な、ミレイア。ウチかて、外の世界に未練がないワケやないんよ。これはウチにとってもチャンス。逃すわけにはいかんねん』

「それがあなたの本音ですか?」


 随分と、心のこもっていない口調だ。


「いつものあなたなら、口先だけでなく本気でわたくしの首をはね飛ばしていますわ。今まで倒してきた魔族のように」


『手加減は不要なんか。せやったら、望み通りにしたるわ!』



 触手の力が強まる。このままでは……。


 四肢が切断されるほどの強い力で締め上げられた瞬間、ふと身体に自由が戻った。


 ミレイアの視界に、刀が舞い降りてきたのである。


 見覚えがあるのだが、どこで見た刀だったか。


『なんや、この刀は!?』


 確認しようとミレイアも刀に手を伸ばそうとした。


 しかし、刀は光を放ってフッと消える。


 不思議な現象だったが、この好機を逃すわけにはいかない。


『こんな奇跡なんて、一瞬や! もっぺん!』


 再度、ミレイアに触手が殺到する。


「イキなさい、ジャベリン!」


 ミレイアは、ヒールを飛行ユニットに変化させた。

 魔法によって、ゴツゴツしたユニットをヒールへ物質変換していたのである。


 ユニットが、ミレイアを拘束する触手を切り裂く。


『くう!』

 ミフネが、ミレイアに斬りかかった。


 サーフボードの要領で、ミレイアはユニットに乗る。

 わざと相手の懐に飛び込むという、暴挙に出た。


 容赦のない刃が、ミレイアを真っ二つにせんと振り下ろされる。

 冷たい感触が、ミレイアの胸板に当たった。


 だが、切り裂かれたのはミフネの方だ。


『なんやと……』

 刀が自身に触れた瞬間、ミレイアは身体を斬る流れに沿ってそらした。

 同時に、ユニットをミフネの腕に叩き込んだのである。

 ユニットの一つはミフネの腕を破壊し、もう一つが翼でミフネを逆に袈裟斬りした。


「イキましたわね。勝負ありですわ」

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