痴女チェイス
最速でかっ飛ばしながら、バイクを反転させる。追跡するは、先を走るオープンカー、レトロなカブリオレだ。
ボンネットに足を広げて座っているオンナが、指を鳴らす。
千体を超える魔物が、空から降ってきた。ミレイアに狙いを定め、槍や剣の先を突き立てている。広い荒野のような道路が、一気に魔物で埋め尽くされてしまう。
上等だ。
「運転を代わりなさい」
グリップから手を放し、ミレイアはハンドガンを構える。
『よっしゃ』
ミレイアのバトルスーツから生えている無数のムチが、グリップに絡みついた。残りのムチも、ハンドガンで武装する。
「ショータイムですわ」
魔族の群れに向けて、引き金を引きまくった。上空にも、背面にも側面にもスキはない。
道路は血で染まり、ガレキに魔物たちの残骸が加わった。
「面倒ですわ」
ミレイアが、上空に向けて一斉掃射した。
空に爆煙が舞い上がる。
誘蛾灯にやられた虫のように、ボトボトと魔物たちの死体が落ちてきた。
一部の魔物が、ニコへと標的を切り替える。
球体から、電流の槍が発生した。紫電の槍が、魔族の心臓を串刺しにする。この際だ。ニコにも手伝ってもらう。
「たったこれだけの数で、わたくしを押さえられるとでも?」
この一〇倍でも、おそらく足りない。
ミレイアは、ボンネット痴女の横につけた。
痴女が、ハート型のサングラスを指で下ろす。赤い瞳が、ミレイアを捉えた。
胸元が大胆に開いた白いボンテージ姿で、白い革製のニーソックスを履いている。見た目から、セクシャルなナース服に近い。髪はツインテールで、ピンク色である。
いわゆる「淫ピ」、「淫乱ピンク」と呼ばれるタイプの女性だ。
ボンネット痴女が、廃車を持ち上げた。ミレイアに向けて、ノールックで投げ捨てる。
魔物に対処しながら、ミレイアも触手状ムチで廃車を投げた。
二台の乗用車が、弾け飛ぶ。
ミレイアのバイクが、カブリオレと肉薄する。その直後だった。
大地、山のようにがせり上がる。
建物の残骸が降り注ぎ、ミレイアは回避せざるを得ない。
大型の魔族の手が、地面を突き破った。建築物より大きな腕が、バイクを握りつぶそうと迫る。
はあ、とため息をつきながら、ミレイアは腕を避けた。
標的を見失った魔族が、腕を地面に叩きつける。
反動で、ミレイアのバイクが浮く。
ごおお、と騒音のごとく奇声を撒き散らしながら、魔族が全貌をさらけ出した。斧を持ったマッチョという、旧時代の蛮族めいた出で立ちである。
図体がでかいだけだが、リーチが長い。いくら走っても攻撃が届いてきそうだ。
上空には無数の魔族、地上には大型の魔族と、忙しい。
「あなたの相手をしている場合では、ございませんの」
ミレイアが、シートの上に立つ。ハンドガンを手放して、アイテムボックスから刀を取り出した。
肉弾戦を挑んできた魔族を切り刻みつつ、ミレイアは巨人を迎え撃つ。
巨人が、足払いを放った。
ミレイアはバイクを蹴り足に近づける。刀で脚を切り飛ばした。
丸太のように、巨人魔族の脚が転がっていく。数体の魔族を下敷きにして。
しかし、巨人の脚が一瞬で再生した。よく見ると、あの巨人は魔族が寄り集まって巨大化しているではないか。
「面倒くさい敵ですわ」
『なんか、核があるはずや。そこを狙ったらええ』
「そういたします」
刀を肩に担ぎながら、ミレイアは巨人を挑発した。
巨人が、斧を振り下ろす。ミレイアが避ける素振りを見せないため、口がつり上がった。
ドン、と刀が魔族の耳を貫く。
ミレイアは、武装をムチに移動させていたのだ。相手をミレイアに注目させて、触手を巨人の耳に滑り込ませたのである。
不快感をあらわにして、巨人は斧を手放す。両耳を押さえながら、悶え苦しんだ。
「すぐ楽にしてあげますわ」
巨人が捨てた斧を、ミレイアはムチだけで持ち上げる。そのまま、巨人に投げつけた。
すぐ反応したが、巨人の身体は真っ二つに。波にさらわれていく砂の城みたく、巨人の肉体は溶けていく。
「ついでにあなたも消滅なさいな」
ムチで斧を回収し、先を走るカブリオレに投げ飛ばす。
しかし、カブリオレのオンナもムチを召喚した。音速を超えるスピードで飛んできた斧を、ズタズタに切り刻む。
斧の残骸、オンナがムチを振ってミレイアに弾き飛ばしてきた。
こちらも、ムチを振り回してガードする。
カーブに差し掛かって、ミレイアが再度肉薄した。ハンドガンを両手に持って、引き金を引く。
ムチでカブリオレのドアを引っこ抜き、オンナはミレイアの銃撃をすべて受けきった。フロントガラスに腕をもたれさせながら、余裕の表情を見せている。
向こうも、ハンドガンを持ち出した。ミレイアの所持しているものとは、形状が違う。立て続けに二発、銃を撃った。すべて、ニコに向けて。
ミレイアも発砲した、ニコを狙う銃弾を、返す銃弾で弾き飛ばす。
狙いは、痴女ではない。
銃弾の破片が、スケルトンに直撃した。ガイコツの頭が弾け飛ぶ。
そのままバランスを失って、カブリオレが横転した。痴女をボンネットに乗せたまま、崖を飛び越える。
「このまま、死んでもらえるといいのですが……」
『終わるわけ、ないわなぁ』
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