失われた理性 ー王の間ー

 王子とともに、廊下を進む。


 堕天使の間に続く道には、血でできたレッドカーペットが敷かれていた。


「あなたは、太古の魔王直属の魔女だったのですね?」

「ええ。今は寝返って、男爵に味方していますわ」


 しかし、魔女を抱えているせいで男爵にうまく接近できていない。

 魔女がまだ、魔王に従っているかもしれないと思うと。


「魔女、ワタクシはまだ、あなたを信用しているわけではありません。ですが、あなたが悪人とも思えませんんの」


『それでええ。構わへんよ』

 魔女はしれっとしている。


 王の間にたどり着いた。


 ソファから、堕天使ラファイエットが立ち上がる。


 姫の姿はない。


「ようこそ王の間へ。チッ。よくたどり着いたもんだぜ。一三分しかかかってねえ」

 懐中時計を睨みつけながら、侯爵は舌打ちをする。


「侯爵、姫はどこだ⁉」


 王子が剣を構えた。障壁からは、まだ出られていない。


「これを見ろ!」

 王子の後ろにあるカーテンが、開いた。


 そこには、ポーラ姫の姿が。

 上位デーモンによって両足を抱え上げられて、姫は大股開きのポーズをさせられていた。


 デーモンは全裸状態で、姫に下半身を押し付ける形で立っている。鼻息が荒い。今にも、姫を穢してしまいそうだ。


「姫⁉ そんな!」


 失意の王子を尻目に、侯爵はクククと愉快そうに笑う。


「オレサマはなあ、希望を絶望に塗り替えるのが好きなんだよ! 死ぬ思いでここにたどり着いた英雄サマの前で、囚われのお姫様が純血を散らす。NTR的展開サイコーッ!」


 ゲスな趣味だ。ついていけない。


「きさま、許さん!」

「おっと手を出すなよ。うっかり魔物が手を滑らせて極太肉棒が姫様にずっぽし入っちまうかもしれんからな!」


 デーモンが、姫をさらに上へと持ち上げた。


 純白の下着が顕になる。


 あられもないポーズを取らされ、姫は目に涙を浮かべていた。


「卑劣な!」

「といっても、目の前で姫様はいただかれちゃうんですけどぉ! デーモンやっちまえ!」


「やめろおおお!」

 王子の悲痛な叫びが、王の間にこだまする。


「あひいいん!」



 同時に、「後ろの処女をいただかれた」上位デーモンが嬌声を上げた。



 ポーラ姫が、ではない。



 上位デーモンが何者かによって背後から抱え上げられ、極太うっとり射突型兵器を打ち込まれたのである。



「ちょ、姫はどこへ行った⁉」

「こちらです。あなた方がモタツイている間に」


 ポーラ姫は、ミレイアがムチを使ってこっそり奪い返していた。その時間は、一秒も用いていない。


「じゃあ、デーモンの動きを止めてやがるのは……なあ、てめえは⁉」

 今度は侯爵が、絶望する番だった。


「ミレイアのお嬢ちゃん。上位デーモンを掘れるなんざ、こいつぁ運がいいでさぁ」

 屈強な魔族の男性が、上位デーモンの後ろを掘っている。

 片手に、撮影用の水晶が付いた自撮り杖を持ちながら。


「どうぞ運営さん。あとはお任せします」


「そうさせてもらいやすぜ。ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥエ!」


 デーモンをいたぶっている相手を見て、侯爵は膝から崩れ落ちた。

「う……運営だと⁉」


 どうして「ちゃんねる」の運営が、ミレイアに味方しているのか、ラファイエット侯爵には理解できないらしい。


「ご存じないのですか? 彼の本職は『AV監督タネツケオジサン』ですよ? 殿方専門の」


 よって、特別ミレイアに手を貸しているわけではない。「いい男優がいる」と教えてあげただけだ。


 それに侯爵は今回、王子の手で死んでもらう。


 よって今回、運営に出番はない。


 仕方がないので、男優提供で手を打った。


「あららぁ」

 両手で顔を覆いつつも、ポーラ姫は指の隙間から成り行きを覗いている。


 彼女の視線の先には、まぐわう裸の男二人が。


 これは……なにかに目覚めたか。 


「卑怯だおええええ!」

『魔界ちゃんねる』の運営が撒き散らす腐臭に、侯爵は鼻を押さえた。


「おいメイド、コイツを止めやがれ! こん……臭っさ! こんなやつが臭っさ! これじゃあ、腐食魔法を打ち込まれたほうがマシだ臭っさ!」

 あまりの悪臭に、侯爵が吐き気をもよおす。


「では運営さん、これで」


「へい。AV監督はクールに去りやすぜ」

 別世界のゲートを開き、運営が亜空間へ消えていく。腕に上位デーモンを抱えながら。


 上位デーモンは掘られた状態で、恍惚の表情を浮かべていた。こちらも目覚めたらしい。


「では侯爵。今、楽にして差し上げます。では王子、どうぞ」

 ようやく、ミレイアが王子を解放した。


 王子は聖剣『青い鋼鉄の意志』に、今まで集めたオーブをはめ込む。


「おふたりとも、準備はよろしいですね?」

 ミレイアは、オーレリアン王子とポーラ姫に呼びかけた。




 王子も姫も、うなずく。




「では……さようなら」

 ミレイアは、二人を谷底へ突き落とした。



「ど、どういうわけですか、ミレイアさん⁉」

 落ちていきながら、王子がミレイアの名を叫ぶ。



「ご安心を。落下地点にソニエール城へ続くゲートがございます! 急いでお帰りくださいませ!」

「なぜです⁉ 侯爵はそこにいるではありませんか!」

「戻ればわかります! 不明な点がこざいましたら、サヤに語りかけてくださいませ! お気をつけて!」


「ミレイアさ――!」


 王子と姫の姿が消えた。



「てめえ、『気づいてやがった』な⁉」



「ええ。何もかもお見通しでございますよ、侯爵」


 ミレイアは、首を振る。


「いいえ。ルドラ」

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