剣を振り下ろすだけの簡単な仕事 -ソニエール城-
オーレリアン・ダラスは、ポーラと共にソニエール城の中庭に出た。
「王子⁉」
「オーレリアン様⁉」
そこにいたのは、エリザ隊長とイルマ副隊長である。
二人は王と大臣を守りながら、魔法陣を維持していた。
魔物の勢いは、とどまることを知らない。なおも増え続けているようだ。
「どうなさったの、王子? メイドは⁉」
オーレリアンは首を振る。
『王子、聞こえますでしょうか?』
「ミレイアさん、ご無事でしたか⁉」
『問題ありません。それより、そこにエリザ姫はいらっしゃいますか?』
「います!」
エリザ隊長が、耳あてに手を添えた。
「メイド、どういうこと⁉ 王子たちだけ帰すなんて!」
『もうすぐ、そちらに【招かれざる客】がお見えになるからですわ』
「どういうこ……」
エリザ隊長の言葉は、目の前の光景に遮られた。
ミレイアの言う通り、ラファイエットが現れたからである。
「ちょちょちょ、メイド! どういうことよコレは⁉ どうしてラファイエットなんかがこんなところに現れるのよ⁉」
『うるさいですね。すべては仕組まれていたというだけですわ。こちらにいる侯爵は偽物。本物が、そちらに襲来したということですわ』
「だからぁ! 説明しなさいっ、て言ってんの⁉」
『すべてが終わり次第、ご説明いたします』
状況を見てこなかったエリザ姫にいくら説明をしても、チンプンカンプンだろう。
だが王子は、瞬時にミレイアの思惑を見抜いた。
なぜ彼女は、あんなにも急いでいたのか。なぜ、自分は守られたのかを。
それはすべて、ラファイエットを討つため。そうとしか考えられない。
しかし、彼女がこの事態を想定していたなら、すべて辻褄が合う。
「んだよ、つっかえねーな! あの魔族野郎! ソニエールがガラ空きになるって言うから、作戦に乗ったってのによぉ!」
地上に降り立ち、ラファイエットが悪態をつく。
「たとえボク一人になったとしても、ボクが必ず、あなたを止める!」
ポーラ姫を王に預け、オーレリアンはひとり先頭に立つ。
「んだぁ? ちょっとくらい強くなった程度で、オレサマを止められると思ってんのかぁ?」
「止めるよ。止めてみせる!」
オーレリアンは剣を構えた。
今まで、自分は相手にここまでの敵意を向けたことはない。
しかし、この男だけは許せなかった。
ポーラ姫をかどわかし、悲惨な光景を見せて喜ぶようなこの男を。
「ミレイアさん。これで、いいんですよね?」
このオーレリアンを信じて、ミレイアは送り出してくれた。
『ええ、王子。自信を持ってくださいませ。今のあなたなら、侯爵ごとき敵ではありません。必ず勝てます』
ヘッドセットから聞こえてきたミレイアの発言に、侯爵が反応する。
「オレサマに王子が勝てるだと? 笑わせるな!」
アフロをバウンドさせるかのように揺らしながら、ラファイエット侯爵がゲラゲラと笑い出した。
「メイドやディザスターが相手なら、オレサマに勝ち目はねえ。でも王子が相手となりゃあ、話は別だ! オレにもツキが回ってきたぜえ!」
侯爵が胸を張り、黒い翼を展開する。
「ジャッ!」
侯爵の翼が、ヘビのように王子へと迫った。
王子は攻撃をかわす。
黒い翼が、王子のいた場所を薙ぐ。
漆黒の翼は街の一角や山々の存在すら消滅させた。まるでそこに何もなかったかのように。翼自体が、魔力の集まりなのだ。盾にも刃にもなる。
「王子、オレサマがてめえを殺して聖剣を手に入れたら、他の魔王共をその剣でぶち殺せる。そしたら誰も邪魔者はいなくなるんだ」
翼が螺旋を描き、特大の槍と化す。
『恐れてはなりません、王子。あなたなれ勝てると申しました。その場で、思い切り剣を振り下ろしてください』
「えっ、ここでですか?」
それでは、素振りではないか。
『言うとおりになさってくださいませ。王子の手にかかれば、あんなアフロ猿など一撃です』
「だれがサルだあああ!」
侯爵の翼が、まっすぐオーレリアンに振り下ろされた。
オーレリアンは、半信半疑だ。しかし、やるしかない。
『今です。ダラス王家に伝わる秘伝、【Awake Slash】をお見舞いする時!』
ミレイアから真剣な声で言われて、決意を新たにした。
「は……っはい! 【Awake Slash】! やあああ!」
王子は、剣を振り下ろす。
「そんな間合いで……でええええええ⁉」
侯爵の声が、王子の攻撃によって途切れた。
王子の剣が膨大な光を放ち、侯爵の身体を真っ二つにしたのである。
その大きさは、城すら大きく凌いでいたほどだ。
ラファイエットも、黒い翼で青い閃光を防いでいた。だが、その翼すら、オーレリアンの閃光が切り裂いたのだ。
「ちくしょおおおおおおお!」
侯爵の身体が、崩れていく。原型すら留めなくなった。
もう二度と、暴君ラファイエットは復活できないだろう。
『お見事でした。王子』
「たった一撃で……」
『これが、レベルマックスになった王子の必殺技でございます』
この技を会得させるため、侯爵に絶対負けない力を王子に与えるため。
ミレイアはあえて、王子を安全な場所に閉じ込めた。安定して経験値を、供給してくれたのである。
おかげで、ダラス家のひ弱な王子は、英雄となった。
「ミレイアさん。そろそろ、種明かしをしてください。どの辺りから、侯爵がそこにいないと判断したんです?」
『最初からです。アニタが瀕死になった辺りから』
序盤も序盤じゃないか。
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