僧侶枠 ―暗黒城 中心部―
「すべては、仕組まれたものでした」
おかしいと思ったのだ。
どうして「勇者に匹敵する力を持つ」聖女アニタが、ああも簡単に致命傷を負ったのか。
王子のパーティを襲ったとされるエルダー・リッチに、アニタを取り囲む分厚い防御障壁を撃ち抜けるほどの攻撃力はなかった。
聖女は、能力的にいえば僧侶に近い。
「王子、僧侶と言えば、何を連想なさいますか?」
ヘッドセット通信機越しに、ミレイアはオーレリアン王子に問いかけた。
『治癒魔法に、デバフ。それと……えっと』
『破邪。つまりアンデッド特攻ですよね?』
イルマの声が、割り込んできた。
僧侶枠は悪魔や霊体、アンデッドに対して高い攻撃力を持つ。
「そうですわ。いってしまえば、聖女は僧侶枠の上位存在ですのよ」
ミレイアが一撃でリッチを倒したのが、いい証拠である。
ましてアニタは、聖女の中でもミレイアと並ぶ実力者なのだ。
『たしかに、そのアニタさんがアンデッドに負けること事態、ありえませんね?』
「でしょ? どれだけ敵が強かろうとも、聖女がアンデッド『ごとき』に遅れを取るはずがないのですわ」
なのに、アニタは負けた。よりにもよって、アンデッドに。
これが、何を意味するのか。
「ワタクシは、ある疑惑を持ちました。おそらくアニタは、別の何者かから攻撃を受けたに違いない、と」
アニタを治療しながら、ミレイアはそんな疑惑を抱く。
疑惑は、攻略していって確信へと変わった。
やはり、アニタを襲った攻撃はルドラの矢によるものだったのである。
ルドラの矢をわざと浴びて、ようやく「ルドラの横やりがあった」と気づく。
あれだけ巨大なリッチを喚び出したのも、自分の関与を隠すサイズが欲しかったのだろう。
「ルドラの目的は、王子だけではなく国全体に絶望を与えること。手っ取り早いのは、侯爵になりすまして、この城で我々を足止めすることでした」
律儀にミレイアたちが、暗黒城を攻略している間に。
『だから、あなたは攻略を早めたのですね?』
いかにも。異国も早く王子を一人前にするためと、事件の背景にいる黒幕を暴くために。
「手応えがなさすぎると思っていたのです。本隊は、ソニエールの城に集結しているのではないかと」
はじめから、ラファイエットの狙いは王子の剣だった。
あの剣は、侯爵を殺すために作られている。
だが過去にラファイエットを討伐した際に、剣の力は分解された。
オーブとして、暗黒城に封印されていたという。
それがなければ、ラファイエットは消滅させられない。
やりたい放題だ。
ミレイアがいなかったら、どうなっていたか。
たとえルドラの思惑を解明したとしても、時すでに遅かったかもしれない。
侯爵打倒のみに焦点を絞っていたら、ソニエール城が全滅するところだった。そうなっていれば、目も当てられない。
「今思えば、それこそ相手の狙いだったのかもしれません。王子か姫様、どちらかを絶望の淵に叩き込んで、どなたかを魔王に仕立て上げるつもりだったのかも」
多分、候補は姫だろう。いちいち拷問の動画を見せていた辺り、周到である。
「騎士団のトップが、エリザ姫でよかったと思っています。彼女たち騎士団の力がなければ、ワープ用の魔法陣で連れて帰った人質も、壊滅していたでしょう」
通信機の向こうで、エリザが息を呑む声が聞こえた。
『フ、フン! 当然でしょ? 褒めたって何も出ないわよ!』
『照れなくてもいいんですよ、たいちょー』
『うっさいわね!』
とはいえ、ソニエールの方はもう大丈夫だろう。
「ご理解いただけましたでしょうか?」
『はい。ありがとうございます。で、あなたはどうなさるおつもりで?』
「アニタを辱めた相手に、
あと数秒遅ければ、ミレイアは親友を亡くしていた。
絶対にルドラを許すわけにはいかない。
『お一人で⁉ ムチャでは⁉』
『王子。コイツは、何を言っても聞かないです。あの女は規格外の化け物よ。あたしたちの常識で測れる相手じゃないのです』
今すぐにでもこちらに戻ってこようと考えていたらしき王子を、エリザ姫が引き止める。
『というわけでメイド。後は任せたわ。こっちもあらかた片付いたから。それと、アンタのお友達が意識を取り戻したわ』
騎士団総出で、治療にあたってくれたらしい。
「左様ですか。感謝いたします」
『いいってば。それよりメイド、帰ってきなさいよね。そんなゲスと心中なんて、考えてないわよね?』
「もちろん」
男爵が待っているのだ。死ねるか。
『安心したわ。じゃあ。エリザ、アウト』
エリザの魔力が消えた。
「では王子も、すぐ戻りますので」
『ご無事で』
「必ず、顔を出しますわ」
王子との通信を終える。
「さて、あとは邪魔者を排除するのみですわ」
今、ミレイアの目の前には、ダークエルフの姿をしたルドラが。
「だが、そううまく行くかな?」
余裕の笑みを、ルドラが見せた。
肉壁によって出口がなくなる。続いて玄関も閉まった。
完全に、王の間に閉じ込められた状態である。
王の間は内臓のようなつくりになった。壁は肉塊に。
「さあ、始めようぜ。攻略二周目をな!」
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