煉獄《レンゴク》

 キアーラの召喚した炎は火球となり、このまちを覆い尽くすほど巨大化していく。

 太陽の如き熱量なのに、辺りは黒い影に覆われた。この疑似太陽は、暗黒の結晶なのだろう。


「なるほど。それなりの力はあるようですわね」

 ミレイアは、キアーラが操る黒い炎に感心した。


「何を悠長な! みんな、逃げなさい! 街が崩壊するわよ!」

 エリザが、周囲に注意を呼びかける。


「もう遅い! この都市もろとも、消し炭にしてあげるわ!」

 黒い炎の塊を、キアーラはミレイアに向けて投げつける。


 ミレイアは避ける動作すら見せない。


「アハハ! ビビって動けないでやんの!」


「動くまでもないのですわ」

 ムチを振り回しただけで、ミレイアは漆黒の闇を弾き飛ばす。


 疑似太陽とも言うべき黒の火球は、人間の放った一撃によって霧散した。

 まるではじめから、存在すらしていなかったかのように。


「なにい⁉」

「え、どういうことよメイド⁉」


 キアーラより、同行してきたエリザの方が驚いている。


「さっきの攻撃、街一つ消滅するくらいの魔力はあったわよ! なのにあんた、逃げも隠れもせず一瞬で攻撃をかき消すなんて! 相手はトップクラスのヴァンパイアよ⁉」


「街を一つしか消滅させられない程度の攻撃をうったくらいで、あの女は威張ってらしたのですね?」


 これなら、男爵が手を下すまでもない。


「ウソだ。あたしの最強魔法が……」

 さっきまで余裕だったキアーラの顔が、絶望に染まっている。


「あれで全力でしたの。なんだか、拍子抜けでしたわ」

 上位のヴァンパイアと聞いて気合を入れてきたのに。ミレイアは、あくびを噛み殺す。


「もう、あなたに用はありませんわ。さっさと抹殺o・si・o・kiします。泣いて謝るのでしたら、今のうちですわよ」


「誰が謝罪なんて……わあ! やったぁ!」


 空から、四体の巨体が舞い降りる。 

 どの魔族も、大きな体に不釣り合いな、白い羽根が生えていた。


増援コラボだわ! それも上位種グレーターデーモンとセッションできるなんて!」

 キアーラが歓喜する。


 上位種たちは、斧や槍、大剣で武装していた。

 どれも、一〇メートルの巨体に合わせたもので。


「手強いですの?」

『エサが増えただけや』


「じゃあ、ティータイムと行きましょ」

 ミレイアは、ムチを取った。


『その前に、戦う場所を変えるで』

 このままでは、街に被害が及ぶと。


「できますの? 相手の承諾も必要なのでは?」

『いらん』

 ミレイアの指が、勝手に鳴る。


 紫色のモヤが、辺りを包む。


「な、なんなの⁉」


「ひええ、たいちょーっ!」

 イルマが、エリザの腕にしがみつく。


 たどり着いたのは、活火山の近くだ。空の色も、紫に染まっている。


「メイド、ここはどこなの?」


『魔界や』


 人間界と魔界を繋ぐ空間である【煉獄レンゴク】を伝って、魔界に堕ちた。

 なお、街とは繋がっているらしい。

 帰ろうと思えば、すぐあの街に戻れるとか。


『ここやと、人間界に被害が出えへん」


 上位種魔族グレーターデーモンの力は、強大だ。ミレイアの敵ではないが、それでも街に被害が及ぶ。


「ただし、ここやとこいつらの力も増幅されるけどな』

「ダメじゃない! 逃げなさい! ここはあたしが」


 剣を構えたエリザを、どけさせる。

「誰が逃げますか。あなたは人間界で避難を優先してくださいませ」

 エリザを煉獄から突き飛ばし、人間界へ返す。


「ちょっとメイド! 一人でどうする気よ⁉」

「どうもいたしません。住民の避難を!」

「ああもう、わかったわよ!」


 イルマと共に、エリザは人々を街から避難させた。


「バカじゃん⁉ みすみすあたしらのホームグラウンドに足を踏み入れるなんて! 逃げるチャンスも逃して!」


「逃げた方がいいのは、あなたの方ですわ」


「忌々しい。調子に乗るのも今のうちよ年増!」

 キアーラが、上位種に号令をかけた。


「ぶちのめして!」


 六体の上位種が、ミレイアに襲いかかる。


 上位種の槍が、ミレイアを切り刻もうと迫った。


「アハハ! 避けられるわけないわ! 上位種の力は、あたしと同等! この魔界では、数倍にも跳ね上がっている! いくらあんたが強くてもこの数は||」 


「この程度ですって?」


 髪の毛一本の差でかわして、ミレイアは上位種の角を撫でてあげる。


 それだけで、上位種は死んだ。


 魂を砕く光弾で、脳を撃ち抜かれたのである。


 だが、その顔は恍惚感で満たされていた。

 すべての生命力を絶たれた瞬間、この個体は絶頂したのだ。


「まず一匹ですわね。次は、あなたで」

 死んだ個体を蹴り飛ばし、ミレイアは別の個体の懐に飛び込む。ヘソの下から、相手の筋肉美を手でなぞる。普通の人にはそう見えるだろう。だが、腹パン一〇〇連発を食らわせているのだ。


「最後の一発、くれて差し上げますわ!」


 ミレイアが顎に手を当てた瞬間、ビクン! と、魔族の身体が跳ね上がる。ミレイアの情熱あふれるアッパーを食らって、上位種は魂と情欲を解き放った。逝きながらにしてイき、ヒザから崩れ落ちる。



 斧を持った個体が、ミレイアを上位種ごと切断しようとした。


 腹上死した上位種の、上半身が下半身からサヨナラする。


 だが、ミレイアはすんでのところで跳躍した。斧の上に立つ。


 上位種は斧を振り回そうとするが、動けない。

 いつの間にか、ムチで全身を締め付けられていたのである。


「この程度で上位種を名乗ってらっしゃったの? 下等生物と改名なさったら?」

 ミレイアは、上位種に投げキッスを送った。


 絶頂しながら、上位種は絶命する。

 全身から血を吹き出して、それでも快感で緩んだ笑顔を浮かべながら。


 一瞬で、上位魔族が三体もアヘ顔を晒して死んだ。他の上位種たちは、ワケが分からず身動きが取れない様子である。



「さてお嬢様、抹殺オシオキの時間ですわ」

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