パパパっとやって、終わりたいっ!

「愛する娘のためだ。私は伝令を出して冒険者や兵を派遣した」


 並の魔物なら軽くひねり潰せる、屈強な猛者ばかりが送り込まれた。

 実際に魔城の被害も大きく、中層の強い魔物は片付いたという。

 

 騎士団に匹敵する大群を引き連れた一団もいた。

 大物の魔物を倒せば、勇者に並び称されるに違いない。

 名を上げようと、更に冒険者達は増えた。


 なのに、姫は救い出されていない。


「帰ってきたのは、戦死者の灰ばかりでしたよ」

 大臣がミレイアに、小さな水晶玉を持たせる。


「生き残ったメンバーに、持たせたらしい。そのメンバーも、衰弱して死んでしまったが」


 ミレイアは、水晶玉を見せてもらう。


 遠くの出来事を幻視できるタイプである。「魔界ちゃんねるの閲覧」に、魔術師間で使われているものだ。


「拝見しても?」

「どうぞ。おすすめしませんが」


 水晶玉に魔力を込めて、映像を見せてもらう。


 冒険者に対して、拷問が行われれいる映像のようだ。男女問わず、非道な処刑が行われている。

 苦痛と快楽が入り混じり、悲鳴と嬌声が映像内でこだました。彼らも自身がどんな姿になっているかさえ、わからないだろう。


 王と大臣が目を背ける。

 自分の娘も、このような目に遭っているのではと、考えているらしい。


「魔界ちゃんねるですわね」


 今回も【背信者】の仕業らしかった。「配信ランキング上位になると、魔王になれる」と信じて疑わない連中だ。


「もう一週間も経っている。外部の王国に救援を要請したのだ」


「優秀なハンターを雇おうと考えた。それで来てくださったのが、お主だ」

 大臣が、そう告げる。


「通達には、騎士団がいらっしゃいましたが?」


「騎士団は【腐食魔法】に備え、住民の避難指示を依頼している。派兵はできないのだ」


 それだけ腐食魔法は危険であり、扱う側にも覚悟が必要なのだ。実にめんどくさい。


「もし姫を無事に助けてくだされば、褒美をとらせる。派遣してくださった男爵への待遇も考えましょうぞ」

「それはありがたきお言葉!」


 男爵様の地位が上がるなら、ミレイアの気合も入るというもの!


「大臣! ご報告が!」

 慌てた様子で、一人の兵士が現れた。


「なんと、国王、大変です!」

 兵士の一人と大臣が、言葉をかわす。


「何事か?」

「オーレリアン・ダラス王子が、制止を聞かず姫の救出に!」


「なんと⁉」

 王が動揺している。


「その王子とやらは、どなた様で?」

「姫の婚約者じゃ!」

「なんとまあ」


 ダラス王家は、この地方を統べた勇者の血筋だ。

 かのラファイエット家を打倒して建国された、由緒正しい一族といわれている。



「なるほど、因縁をお持ちだと」


 先祖代々、聖なる武具を装備できる王家だとか。武具の加護に守られているから、本人に大した損害は出ないはずだ。


「ですが、その偉大なる血統も年を追うごとに衰えていき、オーレリアン様も、心優しく誠実なのはいいのですが、なんとも頼りなく」


 引き連れているお供のほうが、むしろ心配だという。


「配下の足を引っ張っておらねばいいが」

「王子は、お姫様のオムコ様としてはふさわしくないと!」

「あれだけの人格者だ。民の安全を優先し、率先して内政を整えていらした。ダラスがもっとも、ラファイエットからの被害が少ない。我が娘を得るにふさわしい方だ。戦に出なければ、の話だがな」 


 国王は頭を抱え、大臣はミレイアに申し訳無さそうな眼差しを向けた。


「あの方は、後方で指示をなさってくださる方がいい。彼の命があるだけで、民は救われる」


 とはいえ、国王のオーレリアン王子に対する信頼は厚いようだ。


「あの、ハンター殿? 大変差し出がましいようですが」

「王子と姫の救出ですね。承知いたしました」


「察しが良くて助かります」

 ホッとした表情を、大臣が浮かべる。


 まったく、面倒事が増えた……。


「たとえ王子が拘束されても、武具がある限り手出しできぬ。姫も、清らかなままでなければ人質の意味がない。何もされていないと思うが」

「心得ております国王。ただ、こちらの都合もございます。期限は一日とさせていただきますので」

「な、なんと?」


 王と大臣が、ミレイアの発言で同じようなリアクションを取る。


「ですから、一日ですべて解決して差し上げましょう、と申したのです」


 あまり長い時間拘束されるのは、男爵養分が足りなくなってしまう。

 ただでさえ最近、スキンシップが足りない。

 暇さえあれば、男爵の代わりにハンター業をしている気がする。

 厄介払いなのかと思うほど。


 これでは、なぜメイドになったか分かったものではない。

 自分は男爵専用メイドだ。

 ここはパパパっとやって、終わりたいっ!



「バカな⁉ 精鋭部隊でも数週間で全滅した暗黒城を、たった二四時間で攻め落とすなど不可能です!」


 タダの人間が挑んだなら、の話である。


「惨状は大体わかりました。ならばなおさら、善は急げかと」

「よろしく頼む。ただ、あなたも安全を優先なされよ」

「心得ております。では国王、失礼いたします」



 兵士が、後ろに下がって道を譲った。



 しかし、ミレイアは助走をつけ、堂々と窓から飛び出す。



「なななっ⁉」


「明日の夕刻には戻りますので!」

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