パーティの始まり
ドクロの馬車に乗って、伯爵の統治する街まで到着する。
「何よこれ……」
エリザは絶句した。
街を埋め尽くさんばかりに、魔物が溢れかえっている。道にだけではない。空からも降下してきた。
インプやゴブリンなど、力の弱い魔物ばかりだが、量は計り知れない。街をあっという間に壊滅させてしまう数だ。
「おののくヒマはございません。パーティと行きましょう」
場に臆することなく、ミレイアは車を降りた。ムチを高々と上げて、勢いよく地面を叩く。
魔法陣がミレイアの足元に現れ、衣装を大胆なものに変形させる。ポニーテールの魔女が完成した。
「あんた、魔女だったの⁉」
あわあわと、エリザがうろたえる。
当然だろう。かつて魔王と双璧をなすといわれた魔女が、目の前に現れたのだから。
「まだまだ。新参者ですわ。それより」
カバンから突き出たのは、マシンガンだ。カバン自体が武器となるとは。
「ゴリラにしては、素敵なプレゼントですわね」
ミレイアは、カバンから飛び出ている銃身を突き出し、一斉掃射した。
魔族たちが、面白いようにハチの巣になっていく。反撃しようとした魔物には、顔に穴を開けてあげる。
「これは愉快ですわ!」
銃撃すると吹っ飛ぶ魔物たちを見ているのが、楽しい。思わず、撃ったままカバンを振り回す。踊るように。
「あっぶないわね! こっちに当たるところだったじゃない!」
跳弾にビックリしたエリザが、物陰に避難した。
「あら、いらしたんですね? ごめんあそばせ」
あれくらいなら、避けると思っていたのだが。
「さて、お手並みを拝見いたしますわ。エリザ様」
「ええ、まとめて蹴散らすわよ!」
エリザが大剣を構えた。柄に翼が生えている。エリザが羽根に吐息を吹きかけると、翼から刀身にかけて、炎に包まれた。
「天昇・炎武!」
空を埋め尽くしていた魔族が、一瞬で消し炭に。
「さすがお姫様ですわ」
大して感動していないが、乾いた拍手を送る。
「感心している場合じゃないわ! はやく伯爵を見つけないと!」
「待ってください、たいちょー。街の人の避難も大事ですぅ!」
そうだ。街に血を流させないために、ここまできたのだから。
「これだけの魔物も、早く撃退しないといけません!」
「ですわね。しばしお待ちを」
ハイヒールのカカトで、ミレイアは勢いよく地面を踏んづけた。
「終わりましたわ」
「はあ⁉」
ミレイアの報告を、ただのジョークと思ったのだろう。エリザが食ってかかる。
「遊びに来たんじゃないのよ! もう少し、まじめにやりなさい!」
「ワタクシは、至って大真面目ですわ」
「どこがよ!」
「ならば、ご確認あそばせ」
エリザは「ぐぎぎ」という擬音を口で言いながら、住民の避難を急ぐ。しかし、その足がピタリと止まる。
「あんた、何をしたの?」
魔物たちの様子を見て、エリザは絶句していた。
街中の魔物たちがすべて、亀甲縛りで壁にくくりつけられていたのだから。
「この街に潜む瘴気を確かめて、捕獲しました。魔力もすべて抜き取ってありますわ」
足で地面を踏み抜き、ムチを分散させたのである。
魔物たちを絡め取ったのは、ミレイアのムチだ。
「チートじゃないですか……一〇〇〇匹からいたんですよ? それだけの魔物を、三分も経たずに無力化するなんて」
「まだ、終わってはいません」
ミレイアは、道端で腰を抜かしている少女に歩み寄る。魔物に襲われそうになったらしい。
「どうぞ」
落ちていた短剣を、ミレイアは少女に持たせた。
「何をさせる気なの?」
「決まっているでしょう。魔物退治ですわ」
「こんな小さな子に?」
「親の仇を取らせるのです」
エリザが、おぞましい物を見る目でミレイアを見る。
少女の隣には、両親とおぼしき亡骸が。
「あんた、マジで言っているの?」
「この手の憎しみは、一生消えません。ならば、自らの手で葬り去るのが道理」
エリザの歯が、怒りで震えていた。
「こういう仕事のために、騎士団はあるのよ⁉」
「誰かが手を貸しただけでは、ダメな時があるのです。さあお嬢様、思い切って」
少女の瞳に、暗い色が映る。
意を決した小さな手が、魔物にナイフを突き刺す。
憎しみのせいか、すでに事切れているのに何度も刃物を突き刺した。
「もういいのよ。いいの」
エリザが少女を止めると、少女は膝から崩れ落ちる。
「弱体化させれば、人間でも殺れますね。お嬢さん、そうお伝え願えますか?」
ムチを分割して武器を拾っては、ミレイアは少女に持たせた。
少女は嬉々として、武器を住民に配り始める。
武装した街人たちの雄叫びと、魔物たちの断末魔が、街にこだました。
「正気なの、あんた⁉」
「いたって当然な行為かと」
ミレイアは、まったく悪びれない。
「家族を魔物に殺された子に、敵討ちさせようって気持ちはわかるわ。とはいえ、こんな非人道的なこと||」
唐突に、ミレイアは指を鳴らす。
なおも抗議しようと詰め寄ったエリザに、「本当の姿」を見せてあげた。
「こ、これは」
少女は丸太に向かって、一心不乱に刃を刺している。
魔物の方は丸太の隣にいて、すでに事切れていた。魔物の魔力を吸い尽くしたのだ。
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