あんたんトコのメイドでしょ⁉ はやくなんとかしなさいよ!
「はい。先程お話は伺いました」
ミレイアの返答に、エリザはまたも激昂した。
「彼女だけじゃない! ライカンは暗殺ギルドを隠れ蓑に、民間人を次々と手にかけて」
「違う。あたしたちはやっていない!」
アメスが、エリザに反論する。
「たしかに、アタシらは暗殺集団だった。要人も殺した。けど、それはライカンを迫害した者たちばかりです! 民間人は手を出してません」
必死に、アメスは訴えかける。
「姫様、ここは私に免じて、引いていただけないでしょうか」
「聴取なら、こっちで取るわ。引き渡しなさい」
エリザが、アメスを捉えようと歩み寄ってきた。
すかさずミレイアが前に立ち、妨害する。
「そこをどき||」
「どきません」
「いいから」
「どきません」
頑として、ミレイアは道を譲らない。
アメスを連れて行く道理なんてないから。
「メイド、あんたもしょっぴくわよ! あたしの話を聞いてなかったの⁉」
「あなたこそ、ワタクシの姿を見ていませんでしたの?」
よくわかるように、ミレイアはブローチをエリザに見せる。
「あんたじゃ、話にならないわ」
呆れ返ったといったふうに、エリザは男爵に詰め寄った。
「ちょっとトゥーリ男爵! あんたはお父様と仲がいいのでしょうけど、あたしはそうはいかないわ! あんたんトコのメイドでしょ⁉ はやくなんとかしなさいよ!」
しかし、男爵は微笑むばかりである。ミレイアの意見を、汲んでくれたのだ。
「アメスの容疑は、さっき晴れたじゃないですか。このブローチで」
「はあ⁉ あんたマジで言っているの?」
「ワタクシはいつだって、大真面目です。たとえ姫騎士様といえど、間違いは正さねば」
姫を相手に、ミレイアは決して屈しない。
「あたしの何が間違っているというの⁉」
あまりにも頭の回らないエリザに、ミレイアはため息をつく。
「ミレイア、エリザ姫をこれ以上、侮辱なさるな」
「失礼。母に似ていたもので、感情的になりました」
ミレイアは、チビで偉そうな女が大キライなのだ。
高慢ちきな母を思い出すから。
「では、チビにもゴリラにもわかりやすくご説明いたします」
見下すように、ミレイアはエリザを上から見下ろす。
「このブローチですが、獣化機能がございました。認識阻害の方法は、おそらく獣化。つまり、一時的にライカンの姿となる魔法が施されている」
「それがどうしたのよ?」
「おやおや? 大問題ではありませんか。もし、その姿で犯罪なんて行われたら、真っ先に疑われるのは?」
エリザより先に、イルマが答えた。
「……ライカンです!」
「はい。デメリットを被るのも、ライカンでございます」
民間人に手をかけたとあっては、せっかくの義賊行為も水の泡となる。疑われてしかるべしだ。
「待ってよ。まさか」
ようやくエリザが理解したらしい。
「はい。一連の事件は、自身の罪をライカンにすべてなすりつけようとする、魔族側の作戦だったのです」
「そ、そんなのデタラメよ!」
「では、これほど精巧な獣化を可能とする秘術を、魔族以外が作ったとでも?」
「ぐっ!」
「ライカンの仕業にしようにも、ここまで巧妙にする理由が、他にございますでしょうか? ネコ耳をかぶればいいだけなのです。どうして、完全な獣化が必要なのか」
さしものエリザも、言い返してこない。
「ライカン側に、見知った人がいたのかもしれないじゃない!」
「なるほど。痴情のもつれ、だとおっしゃるので? だったら、どうして皆殺しにする必要が? 対象者だけ殺せばよいのです。そんなまわりくどいことを、なぜ? 足がつく恐れがありますのに」
イルマが、「まさか」とつぶやく。
「はい。イルマ様。ご想像のとおりです。今回の事件は、始めからライカンを始末するために仕組まれた計画でした」
「どうして、ライカンを絶滅させる必要なんかあったの?」
「伯爵のご令嬢がヴァンパイアだという告発を聞きましたら、よくおわかりかと」
「ヴァンパイア! となると、ライカンとは、昔から敵対関係よね?」
アメスが、「はい!」と大声を上げた。
「もともとあの地は、ライカンと共存によって成り立っていました。あのブローチだって、友好の証として街の代表が献上したんだ」
伯爵と街の住民とが写った写真には、たしかに令嬢が胸にブローチを付けている。
「なのに、伯爵から突然迫害を受けるようになって。街の協力者も、次々と殺されて。それであたしたちは、暗殺ギルドというレジスタンスを結成した」
ミレイアは、アメスの言葉を手で制した。
「証拠はあるの?」
「このブローチから、別の魔物の気配を感知しました。お手をどうぞ」
エリザとイルマに、ミレイアはブローチを渡す。
「これは……」
「高位の、ヴァンパイアの魔力痕跡です」
事実を知り、エリザは顔を歪めた。
「あとは現地に向かい、調査するのみ。もう、手遅れかもしれません」
「どういうことよ?」
「邪魔者はいなくなったのです。あとは、やりたい放題でしょう」
「街が、襲われるというの?」
「ええ。すでに無法地帯と化している可能性も」
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