エピローグ 枯れ専メイドに祝福を……!?

最終話 メイドの苦難は終わらない?

 山奥の修行場にミレイアはたどり着く。門の前で、重いスーツケースを下ろした。


「とうとう、帰ってきたのですね」

『せやな』


 ミレイアは、魔女アジダハーカと語り合う。 


 久々の故郷は、何も変わっていない。


 もう、何年も帰っていない気がした。飛び出したのは、ついこの間だというのに。


『あんたにしては、えらいセンチメンタルやな?』

「結婚式の前ですもの。そうなりますわ」

『よう言うで。婚前交渉で、いきなり妊娠したくせに』

「わたくしも驚きでしたわ。ご本人は、自信なさげだったのに」


 そう。ミレイアの胎内には、新しい命が宿っている。




 あのとき、「いっそ早いほうがいい」と、母が帰った直後に初夜を迎えた。まさか、初日でヒットするとは思ってもいなかったが。これも、愛の力ゆえか。


 現在、二ヶ月目である。




『無理せんときや』

「ええ。さすがに、疲れが出ていますわね」


 しかし、やるべきことはやらねば。


 式の前に、友人のアニタと語り合う。


「ポーラ・ソニエール姫の救出以来ですわね、アニタ」

「ああ。言っておくが、わたしはお妃様に告げ口はしていない」

「わかっておりますわ」


 母は自分の洞察力だけで、男爵の場所を嗅ぎつけたのだ。それくらい、娘ならわかる。 


「そのままの格好で、式をあげるのだな?」


 メイド状態のミレイアを見て、アニタは呆れていた。


「ええ。今では魔女こそ、わたくしの正装ですわ」


 男爵も受け入れてくれている。アジダハーカ共々、ミレイアは嫁ぐのだ。


「衣装部屋はあそこだ。案内する」


 アニタに付き添われて、ミレイアは衣装部屋へ。

 



 ミレイアは、純白のウェディングドレスに身を包んでいる。腹に子を宿しているので、ゆったりめにしてもらっていた。


「ママきれい」


 着付けを手伝ってくれたアメスが、うっとりしている。


「目に焼き付けておきなさいね。あなたも、近いうちに着るのですから」


 ミレイアが、アメスの頬に手を添えた。


「はいママ」


 アメスも近々、結婚する。お相手は、あのニコだ。ミレイアがアーリマンに捕まっている短期間で、アメスとニコは親しい間柄になったという。身分の差などはあったが、そこはニコが漢を見せた。両親を説き伏せて、結ばれたという。


「まったく、あんたの行動力には驚きだわ。最後まで、我を貫くなんて」

「エリザ姫ほどでは……」


 姫も、クーゴンとの婚約を結んだ。


「言ったじゃないですか。婿入りさせちゃえば、こっちのもんだって」


 クーゴンとの関係を説得できたのは、イルマの功績である。王族の親戚筋に当たるイルマは、王族や貴族とのパイプが太い。おかげで、エリザ姫はなんの後ろ指も刺されずにクーゴンと添い遂げた。


「ゴリ……クーゴンさんもココに?」

「客席で、あたしより泣いてるわ。あんなに涙もろい人だったなんて。それも素敵だけれど」


 相変わらずの、盲目ぶりだ。案外、いい夫婦かも知れない。


「あなたはどうなさいますの、シオン博士?」


 唯一浮いた話がないのは、シオンくらいだろうか。


「ワタシかー。全然興味ないなぁ」


 ピィも男爵の元を去り、シオンと街で暮らしている。二人は飼い主とペットの関係なので、それ以上進展はしない。


「まあ、元の環境に戻っただけだし。ワタシも研究に没頭しやすくなったよね」


 彼女にとっては、仕事こそ恋人のようだ。


「ささ、男爵がお待ちだ。行こうか」


 アニタに先導させて、ミレイアは式場へ。


 


 新婦の前で男爵と並び、共に愛を誓い合う。

 テンプレのようだが、ミレイアは幸せの真っ只中にいた。


「では誓いの口づけを……」


 もう何度もしたが、人前では初めてだ。

 男爵が、ブーケに手をかける。

 お腹が、急に熱を帯びてきた。何事だろう? 


「どうした、ミレイア?」


 心配そうに、男爵が聞いてきた。ミレイアがヘソの下をさすりだしたため、不安がらせてしまったか。


「いえ。ちょっとお腹の子が興奮してきたみたいですわ」


 構わず、口づけを済ませよう。そう思っていたときだった。


「イヒヒ。お嬢、旦那、大変でヤンス!」


 ヴァージンロードの入口が開き、ピィが式場に飛び出してくる。


「また魔族でヤンス!」


 純白のスカートをつまみながら、ミレイアは外へ飛び出した。

 空に、黒い雲がうずまいている。


「テメエ! あたしがあんな程度で死ぬと思ってたのかよぉ!」


 聞き覚えのある声が、渦の中心から聞こえてきた。Jである。


「ようやく身体がちょびっとだけ再生したぜ! テメエらの希望を全部絶望に変えてやるから覚悟しろぉ!」


 Jの巨大な腕が、渦から伸びてきた。周辺には、大量のデーモンを従えている。


「ミレイア、キミは身重だ。ここはボクが……ミレイア!?」


 男爵の静止を振り切って、ミレイアは教会の屋根を伝う。


「ボスを困らせるな! いいかげんにしろよミレイア!」

「ゴリラは奥様と、住民の避難をお願いしますわ!」


 このクソナースは、自分が引き受ける。


「しょうこりもなく、よくもノコノコといらっしゃいましたわね……」


 教会の屋根に立って、ミレイアは魔女の装束に着替えた。


「再びこの服を着るとは、思いませんでしたわ」

『せやな。また二人でモンスターをシバくことになるとは』

「マタニティ運動にもなりませんが、しばらくは退屈しなさそうですわ」


 ミレイアが、舌なめずりをする。手には、二丁の拳銃が。





「さあ、抹殺オシオキの時間ですわ!」

 

 



(END)

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枯れ専侯爵令嬢、自ら婚約破棄! ー元勇者の男爵様に、メイドとして一生仕えますわ!ー 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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