ジャベリンありがとうございますねぇ!

「敵は、遥か上空にいる。おそらく高度五〇〇〇メートル先だ。並の身体能力や、高度な文明ですらとどかない。だが、この飛行ユニットさえあれば、敵の居場所まで到達できるだろう」


 ミレイアには魔女の力がある。五〇〇〇メートルの気圧も、酸素も問題ない。


「博士は、逃げたりはしないので?」

「この家を攻撃してきたということは、もうワタシは用済みなわけ。もう一発来るよ」


 相手は、こちらがまだ生きていることに気づいているはず。


「その証拠に、ほら」


 小型の魔族が、大量に空から降りてきた。コウモリや虫の羽を広げて、街を襲おうと降下してくる。


「ワタシさえ殺せば、もう邪魔者はいなくなる。彼のやりたい放題ってわけ。ワタシにはもう、逃げ場はない。ワタシも戦うよ」

 博士は、銃や爆弾を手にとった。

「だが、やつを倒せるのは、キミだけだ。必ず仕留めてくれ。リチャージの今がチャンスだ」


 リチャージには相当の時間がかかるという。

 その間に、こちらから仕掛ける作戦だ。



「お任せください。かならずや魔族を抹殺オシオキして差し上げましょう」

 ミレイアは、立ったまま飛行ユニットに乗り込んだ。


「随分と豪快な乗り方をするんだね。しゃがむとか背負うとか、他にやり方があるだろ?」


 博士の口調からは、抗議している様子はない。

 面白そうという意見だろう。


「それでは手がふさがってしまいますわ。ご安心を。ワタクシにはこれがありますので」

 ミレイアは、左手にムチを展開した。

 自在に動くムチの先を、操縦桿にくくりつける。


「行ってまいります。そちらもお気をつけて」

「心得た。じゃあ頼んだよ!」


「ジャベリンありがとうございますねぇ!」


 シオン博士に見送られ、ミレイアは飛行する。


 エンジンを全開にした直後、煉獄を展開した。

 周りに被害を与えないためだ。


「ゲゲゲェ!」

 煉獄に包まれて、魔物たちが標的を見失う。故に、ミレイアへ照準を絞った。それが運の尽きとも分からずに。


 数千の軍勢に囲まれている状況など、ミレイアにとってはピンチでも何でもない。全方位へ拳銃を展開し、たやすく敵を蹴散らす。


 まるで火へと飛び込む虫のごとく、魔物たちは墜落していった。


 あっという間に、高度一〇〇〇メートルまで到達する。大型の敵はあらかた倒してしまって、敵が小物ばかりだ。楽しくない。


「面倒ですわね。オバサン、何かないですか?」

『誰がオバサンやねん。まあええわ。ムチでホーミングしたろ』


 髪の毛をくくっているムチが、ミレイアに迫る敵を次々と破壊していった。まるで誘蛾灯のように、ムチに触る敵が撃墜されていく。


「まあ。楽ちんですわ」

「ザコを殺すなら、ホーミングレーザーで十分や。誘導はこっちでやっとくさかい。あんたは見える敵を始末しい』


 行く手を塞ぐ敵は、ミレイアが撃ち落とす。

 視界に入った敵は、オバサンがムチで倒していった。


 ここらへんの敵は、問題ない。


 一応、男爵に連絡を入れておこう。

 夜だが、まだ寝る時間ではない。連絡しても平気だと思うが。


『ママ! 今どこ?』

 

 ヘッドドレスを操作すると、アメスの大きな声が耳を貫いた。




「アメスですか? 男爵様はどちらに?」

『おトイレ!』


 かけ直したほうがよかったかも知れない。


『待って。旦那様が出てきた!』


「では、男爵様と替わってください。事情は男爵様にお話しますわ」

『わかった。旦那様ーっ!』


 しばらくして、男爵様の懐かしい声が。アメスと仲よさそうに話していて、まるで祖父と孫の会話を聞いているようだ。

 血涙出てきた。


『今、どちらに?』



「男爵様、実はシオン博士に言われて、高度五〇〇〇まで敵を抹殺オシオキに向かっております」


 敵を撃退しつつ、ヘッドドレス通信機で男爵と会話する。


『相変わらず、無茶ぶりをするね、彼女は』

 吹きながら、男爵は楽しげに笑った。ミレイアが無事に帰ってくると確信しているのだろう。


『晩ゴハンは、キミの好きなものを用意させる。気をつけて帰るんだよ』

「恐れ入ります、男爵様。では」


 さて、次は不本意だが、エリザ姫にも。


『空の上で魔物退治とか、冗談でしょ? それで、頼みって何よ?』

「シオン博士の警護をお願いします」


『わかったわ。あの先生苦手だけど、どうにかしてみるから。死ぬんじゃないわよ』


「死ぬ要素が見当たりません」

 ため息を付きながら、通話を切る。


「更に加速いたします」


 ユニットの速度が増した。一気に高度三〇〇〇メートルに到達する。


『三時と九時の方角から中ボスやで、ミレイア。遊んだり』

 魔女が、ミレイアに声をかけた。


 左右の方角から、強い魔力の反応が迫ってくる。


「我ら! グレーターデ」

「邪魔ですわ」


 ブーストがてらのビーム砲で消し炭にしたため、種別までは分からなかったが。


「『グレーター出落ち』さまたちでしたわね」


『ビーム砲をブーストに使うやつなんて、初めて見たわ』

 エネルギー光線銃は、魔王のいた時代から活用されている。だが、これほど大出力の砲筒は開発しなかった。もし、これだけの威力を持つ兵器が作られていたら、歴史がひっくり返っていただろう。



 高度計を見ると、五〇〇〇メートルを差していた。心なしか、星が近く見える。


 敵の猛攻が止んだと思ったら、大型のボスが壁となって立ちはだかる。


「あれが標的、グリフォンですわね」

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