EP.24 聖女を『その気』にさせるのが、宰相の仕事
さぁ、何はともあれ行動あるのみ。いざ冥界に侵攻だ。
やってきました冥界入り口。
足元は湿ったような色気と覇気のない大地。
うぞうぞと蠢くイヤな空気に、どこからかヒソヒソと漏れる妖精の笑い声。
「気味の悪いところですね……」
思わず感想を漏らすと、本作戦の指揮官であるオペラはむすっと唇を尖らせた。
「ヒトの実家になんてケチつけるんだい?キミってやつは……」
「それは確かに。すみませんでした」
「まぁいいさ。ぶっちゃけ鬱っぽい雰囲気だってのは僕にもわかっているし、もう慣れたよ。まったく、まるでママのひととなりを体現したような世界だよねぇ?」
「それは、なんとも……」
色んな意味で心配だ。だって、その辺に生えているキノコからは明らかに良くない胞子が出ているし、沼地はこぽこぽと紫の泡を出している。ライラの『女神様バリア』がなければ、息を吸って吐いただけで何の耐性も無い俺はお陀仏だろう。
とはいえ、魔王の姿に変身して冥界へ足を踏み入れれば一発アウト。瞬く間に番人たちがかけつけて、大混戦がはじまるだろうとの指摘から、俺はユウヤのままで皆についてきた。
今回の侵攻メンバーはというと――
「お、ついた。ココだよ~!愛人ミントの『秘密の部屋♡』。このうねうねした蔦をくぐった先に奴の逢引き部屋がある。じゃ、いってらっしゃ~い!せいぜい引き付けてくれたまえ!」
『ママをぶっ〇す作戦』発案者にして案内人にして現場指揮官、死神のオペラ。
「では、宰相殿、お気をつけて。本陣を守る魔王様の元へ、必ずや共に勝利をお届けいたしましょう?」
爽やか笑顔の陰陽両刀イケメン。
「ライラちゃんのこと、しっかり守ってあげるのよ~!」
古の魔王殺しの淫乱魔術師、リリス。
「守るのはライラちゃんの役目なんじゃないの?あ。ピンチになったら魔王が増援送ってくれるから、遠慮なく言うんだぞ!」
神の眼を預かりし叛逆の復讐勇者、ハル。
――の四名と俺+ライラだ。
いや。正しくは、女神様に溺愛されしチート聖女のライラ+ライラ様に溺愛されしブーストウェポンの俺だな。そう、今回の俺は『魔王の姿を映せない』という縛りがかかっている為、完全なる
ライラの傍で応援するだけの簡単なお仕事をする人。もはや、ライラの装備するアクセサリの一つと言っても過言ではない。こうなると、もはや人ではなく、小さなぬいぐるみになってライラの肩にでも乗っかっていたい気分だ。
そんな俺の気分を知ってか知らずか、リリスはぷんすこと怒る。
「ハルくんてば、わかってないわねぇ!フィジカル的にはそうでも、メンタル的にはそうじゃないのよぉ!あのふたりは!」
「左様でございます。宰相殿あってのライラ様。ひいては我々魔王軍ですので」
「リリス……クラウス将軍……」
まるで本心からのような眼差し。
ああ、たとえお世辞だったとしても、嬉しいよ……
「そっか、そっか。なら、がんばれユウヤくん!俺達は君を全力で信じる!俺達が信じる限り、君の『ミラー』はきっと無敵だ!じゃ、先に行くね!」
「はい。皆様お気をつけて」
三人は、和気あいあいと会話を弾ませながら俺達に手を振り、去っていった。
彼らの相手は今回の親玉、
死神オペラのその作戦に『いっそ三対一で倒しながら進んでは?』と提言したのだが、到達までに時間がかかり過ぎると、いくら愚図でのろまでやる気のない死神たちでもさすがに増援が来るそうだ。
なので、俺とライラはママのピンチに真っ先に駆けつけそうな愛人のミントをあらかじめ足止めする手筈になっている。
ちなみに、ママの配下で、且つ、割と気に入られているオペラの情報によれば、ママの正式な伴侶であるはずの旦那さんは現在、ケンカを理由にどこかへ雲隠れしているため、冥界は家庭内別居状態らしい。
俺はヒラヒラと手を振る四人の姿が見えなくなったのを確認し、ライラに声をかけた。
「さぁ、僕たちも行きましょう、ライラ様?」
「はい!私、必ずユウヤにかっこいい姿を見せちゃいますから!」
にぱーっと輝くその笑顔に、授業参観の朝の妹(小一)の姿が重なる。
くいくいっと俺の袖を引いて、『見ててね!』が満載のきらきら笑顔。
ぶっちゃけ可愛い。
「ねぇ、それより……この
金髪を耳にかけながら、ちらちらと伺うような上目遣い。俺の目線の高さからだと谷間が丸見えだ。むしろ、見せられているように感じる、ライラ様ご自慢のふわふわFカップ。
(あいかわらずのスタイルの良さだな……)
「……ん?」
(以前より、大きいような……?)
まさか。またサイズアップしたのか?
揉むと大きくなるのは都市伝説じゃなか――
「ユウヤ、どうかしたの?えっと、あの……似合ってない、かしら……?」
「…………」
いや、絶対。寄せて上げてるだろソレ?
悪いが、俺にはバレバレだ。
しかし。今日の俺の存在理由は『ライラのご機嫌をマックス良くすること』だ。
期待通りの笑顔を返す。
「ええ。大変お似合いですよ?」
実際、可愛いのは事実だし。
この日のために新調してもらった銀の肩あてがついたミニスカ戦乙女コスチュームは、ライラにしては珍しくボディラインを主張するようなデザインで、尚且つ機嫌よくステップする度にふわりと舞うミニスカは普段から見慣れている学校の制服とはまた別でイイ。
「胸元……空き過ぎかなぁ?」
「そんなことは無いかと。動くのであればそれくらいが丁度いいです」
胸元も肩紐の無いスクール水着のような作りにはなっているが、苦しすぎないように、との配慮から開放的でたゆたゆしている。
「そう?えへへ……ユウヤに褒められちゃった!」
脳天付近のアホ毛がぴょこぴょこなライラ。はい。可愛い。
そんなフェティシズムを詰め込んだような強かわ♡デザインの監修は無論俺だが、ご本人様がこれだけ上機嫌なのだ。何か文句が?
「わぁい!がんばるぞ~!ど~んなわ~ざを出そうかな~?」
今度は鼻歌をフンフンし始めた。
俺の手を引いて、うぞうぞ蠢く蔦を無造作にかきわけていく。
(ご機嫌かわいい……)
可愛いんだが――この間の抜けた雰囲気。
やはり空気が読めていない。
「あの……作戦の目的わかってます?あちらの戦力をひとつ引き付ける、結構大事なお役目なんですよ?」
「もう!それくらいわかってます!ユウヤの敵はすべからく倒す!可愛く、かっこよく!」
(うーん……)
やっぱりわかっていないんじゃ?
(まぁ……ライラが『俺のため』にご機嫌なうちは、大丈夫か……?)
現在判明しているライラの新スキル『溺愛』は、『
「ふふ……期待していますね、ライラ様?」
「任せてください!」
俺はぷらぷらと小気味よく揺れるその手を引いて、同じく蔦を掻き分けた。
しばらくして目の前に見えてきたのは、大きく開いた空間。
まるでそこだけが『天国』のような、春の日差しに包まれた心地よい風の吹く野原に、白いテーブルとイスが二脚。いわずもがな、ティータイムにうってつけの美しい庭が、そこには広がっていた。
「わぁ……素敵なお部屋……」
「部屋というより、これはひとつの空間なのか……?」
ここが、『秘密の部屋♡』だとしたら、あの、大きな木に埋め込まれた扉の先にはおそらく――
――俺達の標的。女王様の愛人がいるのだろう。
俺はライラの耳元で囁いた。
できるだけ、その気になるように。そっと、優しく。
「参りましょうか、ライラ様?」
「ひゃっ……!ユウヤくすぐったい!」
「僕たちも、早く帰ってティータイムにいたしましょう?」
「うん……♡」
「そのためには……おわかりですね?」
「はい……♡」
今まで、何度『その言葉』をライラにかけてきただろうか。
聖女様と、その宰相であった俺達のありふれた日常。
慣れ切ったはずの、その――
「さぁライラ様?お仕事の時間ですよ?」
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※こんばんわ。続きを読んでくださる皆さま、いつもありがとうございます!
皆様の応援のおかげで、未だに創作活動を続けることができています。
本当にありがとうございます。ここのところ更新が滞ってしまってすみません汗
本作品の続きを楽しみにしてくださっている人(いるのかな?)には
申し訳ないのですが、本日は宣伝がありまして……
完結作品と新規短編のご案内です。
ひとつは異世界モノの短編です。
悲恋のダークファンタジー。
『微睡むボクとさいきょうの魔剣』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893691279
もうひとつは完結作品で、歴史(?)恋愛モノになります。
『断頭台の守り人』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054892592024
私事にはなりますが、コンテストに参加中の為、少しでも多くの方に期間中に読んでいただけたらなと思い、不適切かなとは思いつつも、宣伝させていただきました。
星やレビューはもちろんうれしいですが、少し毛色の異なる作品のため、
率直にどうだったか、という感想が気になって……
(とくに異世界短編が……)
もしご興味ある方は、是非とも、よろしくお願いいたします!
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