第十二話 悪の宰相初期パーティは、アサシンと聖女

 ひとまず妖精の粉――もとい、俺たちの世界で流通する薬物を手に入れることとなった俺たち。これ幸いなことに、異世界への帰り道切符はアデルが持っているらしい。召喚転移魔法とかいう、聖女様印の便利アイテムだそうだ。


 なんと、モルフィオネ様はこれを使ってしばしばアデルにおつかいを頼んでいるのだとか。まったく、聖女というのはどこの国でもチートだな。


 片道の一方通行らしいから、粉が入手できたら俺たちと合流して相乗りさせてもらえることになった。


「では、準備はいいか?」


 頷くと、アデルは身に着けていた腕輪から一振りの太刀を取り出す。

 腕輪はどんな器具でも取り外せないというので、機関に没収されることもなかったらしい。

 いわく、「そんなに欲しけりゃ腕ごと斬り落とすんだな」とすごんだら、見逃してもらえたとか。やっぱかっけぇよ、アデル。ますます欲しい。


 そんな代物に武器を忍ばせられるなんて、やっぱり異世界の技術は俺たちの世界では遠く及ぶものではないな。


「どういう仕組みなんですか?」


「モルフィオネ様より賜った、転移の腕輪だ。腕輪の先の空間は、現在武器庫に繋がっている」


「聖女様お手製の腕輪ですか。寵愛の証ですね」


「そ、そそ、そんなことないぞ……! これは、その、御身をお守りする為に必要なものであって……!」


「はいはい。ソウデスネ」


 照れ散らかすアデルに天井を指差し、「早く出してくれ」と促す。


「ちなみに、粉が手に入るまでの潜伏先に目星は?」


「僕の実家で良いと思います。ちょっと心配になるくらい寛容な人たちですので、同居人がひとり増えたところで今更どうこう言わないはずです」


「あいわかった」


 アデルは姿勢を低くして太刀を構えると、上方に向かって一閃放った。


 ぴし。と時間が止まる止まる感覚がして、瞬きの後に天井がばらばらと崩れ去る。


「乗れ!」


 俺とライラは逞しいアサシンに担がれて、夜の空へと跳躍した。

 眼下で鳴り響くサイレンと、怪しい組織の基地破壊。いっそ清々しいくらいに、アデルは強かった。


「はは! ざまぁないですね! 異世界の住人に手を出すからこんなことになるんだ!」


「ユウヤ、あの組織のこと随分とキライよね?」


「当たり前ですよ。僕は、異世界に着いて最初に裁判にかけられるフリをして怪しい組織に狙われたんです。こんなん、どこの世界でも碌なもんじゃない」


 吐き捨てると、ライラは思いついたようにぽん、と手を叩いた。


「ユウヤがキライなら、私もき~らい!」


 その手から、握り拳サイズの光源がふわりと落っこちる。


 次の瞬間――


 ゴォオオオオオン――――!!


(!?!?)


「わぁああ! 綺麗な花火ぃ~!」


「ふっ。粋なことをする」


(……や、やりやがった……)


 無邪気な聖女の手によって、謎の組織は跡形もなく霧散したのだった。


   ◇


 無事実家に舞い戻った俺達は、まずアデルの身なりを整えるために風呂の支度をした。未知の文明に??ハテナを浮かべるアデルにシャワーの使い方を説明し、家族に紹介。ひとまず、ライラの生き別れのSPということで納得させるに至る。


「アデルさん、きょとんとしちゃって子どもみたい。なんだか可愛いですね」


「とか言って、ライラ様もこちらに来たばかりの頃はそんな感じでしたよ」


「可愛かった?」


「ええ、はい。可愛かったです」


「きゃ~♡」


 もはやお決まりとなったライラの「可愛い」の強要を適当に流しつつ、俺はスマホを操作する。

 充電さえできればこちらのものだ。SNSで捨てアカウントを作成。金の無い学生を装って、『運び屋』のバイトの声がかからないか待つ。しばらくすれば、DMで怪しげな誘いが送られてくるだろう。


 多少と言わず危ない橋を渡ることにはなるが、こちらには風邪気味(魔力不和)とはいえ聖女もいるし、敏腕アサシンもいる。こっちの世界のヤクザなんて、束になったから何だというんだ。人脈こそ正義。俺は宰相で本当に良かったと思う。


 怪しげなDMが来るまでの間、俺はライラやアデルと街中をぶらつくことにした。

 場所は渋谷、新宿、原宿、あとは池袋あたりか?

 うらぶれた路地を徘徊し、SNSだけでなく、直接声がかかるのを待とうという作戦だ。


「では、アデルさんはそこらに身を潜めていてください。僕とライラ様は普通にデート。途中ではぐれて、僕は頼りなさげな苦学生を演じる。ライラ様は、ちゃらんぽらんなバカ女を演じる。これでいきましょう」


 作戦の説明に頷くふたり。しかし、ライラが首をかしげる。


「ねぇユウヤ。”ちゃらんぽらん”って具体的に何をすればいいの?」


 俺は胸を張って答えた。


「いつもどおりでいいいですよ」

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