EP.4 タラシ込むのは宰相の得意技
愛してやまないライラが、今、
まさに、両手に花なハーレム状態。絵面だけだが。
そうなったとき、人はいったいどういう気持ちになるのだろうか?
歓喜?幸せ?昇天?それとも――
俺は告げた。
「ロイズ?あなたは今、夢を見ているんじゃなくて?」
「夢……ですか?」
「ええ。だって、私にも信じられないもの。私がふたりいるなんて」
「それは、そうですが……いえ、そうですね。僕にも信じられない……」
「私にまた、会えるなんて?」
「……はい。ライラ様は、あの宰相に連れて行かれてしまいましたから……」
「二度と手の届かぬ、異界に?」
「はい……」
俺は再び笑みを湛える。
「ふふっ……だからこれはきっと夢ね?でも、私はあなたが心配で、夢に出てきちゃいました」
「ライラ、様……!」
「夢の中ならあなたとお話できる。こういうのも、たまには悪くないわね?それとも、私の信頼を裏切ったあなたに私がこうして再び笑いかけること自体、夢なのかしら?」
にこっと微笑むと、ロイズは膝をついて顔を抑えて泣き出した。
「あぁ……!おっしゃる通りです。こんな都合のいい夢、夢でなければなんだというのだ。こんな僕が、またあなたとお話できるなんて……!僕は、僕は……!死に際の夢でも見ているのでしょう。尊大なる神のご慈悲に、感謝を……!」
泣き崩れるロイズ。この様子なら、これ以上口を封じる必要は無いだろう。
俺はライラに歩み寄って両手を繋ぐ。動揺して固まるライラを黙らせるように額を合わせ、仲睦まじく頬をすり寄せあう。美少女同士の接触と抱擁。これは、ロイズへのサービスショットに見せかけたライラへの伝言だ。
俺は囁いた。
『ライラ様。ここは任せてお戻りください』
『……!』
ライラの中の『
ライラが静かに部屋から出ていくのを確認し、ふたりきりになったVIPルームで俺はロイズに向き直る。
「せっかくいい夢を見ているんですもの。もう少しお話しましょう?」
「はい……!」
騎士団から追放されてからというもの、ライラという生きる希望を失ったロイズは家業であった商館の仕事を父親から引き継いで文字通りボンクラな生活を送っていたそうだ。金持ちの子は金持ち。そんな生まれながらのイージーモードはどんな世界にもいるらしい。
俺は呆れ半分、羨ま半分に耳を傾けていた。
(だが……)
「ロイズ?少しいいかしら?」
「はい!なんでしょうか!」
きらきらと輝くロイズの瞳。その若々しい様子は初めて対峙した大学生くらいの青年の容貌ままだ。聞くところによれば国内で増産されている不老の秘薬『エタニティ』は魔王ベルフェゴールのお気に入り以外は金持ちや重鎮から配られることになっているらしく、大商店の息子であるロイズもその恩恵を早めに得ることができたのだろう。
(こんな変態のボンクラが大金持ちのお貴族様ねぇ……?)
だが――これは、使える。
俺は口を開いた。
「ねぇ、ロイズ?あなた、北の領土に品物のやり取りをしに行くことはないの?いくらウチの国が鎖国大好き引き籠り帝国とはいえ、生活用品や最低限の国交はあるわよね?」
「それはそうですが……ライラ様?最近は国のお勉強をなさっているのですか?」
ロイズが、
「そうなの!ウチが帝国になってからというもの、北や南の聖女様と仲良くできなくて困っていたのよ。私、また皆と仲良しになりたいなぁ……?」
俺はもはや見慣れた『殺人上目遣い』でロイズに詰め寄る。
ロイズはこれが夢だという自身の認識を忘れてはわはわと赤面しだした。
(うわ、ロイズ……チョロッ……)
元・副団長は、不憫なくらいにチョロかった。俺は上目遣いのまま畳みかける。
「ねぇ、ロイズ?私、お願いがあるの……」
「お願い?なんでしょうか?」
「私、北と南の聖女様、勇者様のことをもっと知りたい。お友達になりたいの。だから……」
――『あなたの知っていること、全部話してくれる?』
「それ、は……」
くすくす。
言い淀むロイズに、俺は追い打ちをかけた。
「もし、誰も知らない、ロイズしか知らないようなことをがあったら、またお話に来るわ?あなたの寝室を訪れて、夢枕に立ってあげる……」
「……!」
「神サマはあなたの善行と、私への想いを、きっと見守ってくださっているわ?だから、今みたいな夢のような奇蹟も、きっとまた訪れる……それって、素敵なことじゃない?」
「は、はい……!」
希望に満ちたロイズは顔をぱあっとあげ、俺の手を取った。
(チッ。馴れ馴れしく触るなよ……まぁ、これくらいはサービスしてやるか……)
これからも、こいつは役に立ちそうだからな。
そう。ロイズなら、『夢でライラに会うため』ならば、なんだってするだろう。
多少危険な橋を渡ってでも、なんでも。
南北の情勢を掴むのに、このカードとチャンスを離す手は無い。
(仕方ない……もう少し手懐けておくか。もっと『溺れる』ようにな……)
「ロイズ?次会うときに、教えて欲しいの。南北の聖女様の近くに、誰がいて、どんな人なのか……」
俺は、呆然と見惚れたままのロイズの頬を撫で、一言――
「期待しているわ?ロイズ……」
「……っ!」
そう呟いて、姿を消した。
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