EP.12 決着!超次元 国家会談クライシス 急



 私、落ちました。


 会談中で(多分)戦闘中の大広間に、真っ逆さまに。


(スカートおさえないと! ユウヤ以外に見られちゃうのヤダ!)


「見ないでぇぇえッ――!」


 ――ふにゅん……


「……あれ?」


(痛く、ない……?)


 まさか、ユウヤがキャッチして……♡


 パッと見ると、紫紺の瞳と目が合いました。

 てゆーか、それ、目? 私の身体より大きいです。


『シュルシュル……』


 長い舌。蛇さんですね。


『怪我はないか?』


 とぐろに埋もれて、無傷です。でも、うろこがちべたいな。


「その声……魔王様!?」


『うむ。あまり見るな、恥ずかしい。よもや余の部屋の前で暴れるとは……もう少し注意しておればよかった。おかげで醜態を晒すハメになったぞ』


「はわっ。ごめんなさい……」


『過ぎたことだ、構わん。以後気を付けよ。で?どうしたものか……』


 蛇さん魔王様の視線の先には、大蛇の落下と私の神聖魔法の余波でぐちゃぐちゃになった大広間が広がっています。

 魔王様姿のユウヤがホッとしたような呆れたような眼差しを向ける。


「……また、はりきり過ぎたのか?」


「はい!」


 でも、今回はちょっとやり過ぎちゃいました。後でみんなに謝らないと。


 目の前の惨状。


 ハルさんは落下物からマヤ様を庇って肩に怪我をしたみたい。マヤ様が泣きべそかきながら治癒魔法をかけています。


 クラウスは魔剣を盾に南の聖女ちゃんをしっかり守り切りました。

 流石は帝国の誇る暗黒騎士ブラックジェネラルね。カッコイイ。


 『ミラー』が解けていないところを見ると、ユウヤもメンタルバイタル共に安定。本当によかった。


 でも……


「ミラージュ! ミラージュ、起きて!」


「う……ティア……怪我は?」


「そんなことより、あなた帽子どうしたの!?」


「あぁ、それは――」


「くっ……宰相殿、ご無事で、なにより……うぐっ!」


「あぁ、せいばぁ! 傷の手当てを! でも、ミラージュの姿を隠さないと!」


 うるうると、ふたりの間で慌てる北の聖女フロスティアちゃん。

 随分大きくなって、綺麗になって、あんなにしゃべっているのは初めて見ました。


 ていうかあの少年、北の宰相だったんですね。道理でいけ好かないわけだわ?

 ユウヤの敵は私の敵です。

 本能的にそれがわかっちゃう私達のラヴパワーの勝ちでしたね。

 でも、でも……


「ティア様、どうか宰相殿の姿を先に! 私は手足を封じられただけですので……はは、やっぱり先輩は強いや。敵わなかった……なのに、『氷天の剣聖』だなんて、『勇者』だなんて、『魔王を倒す』だなんて。うぬぼれていた自分が恥ずかしい……」


「そんなことないわ! せいばぁは十分がんばってた! 東の勇者の攻撃を何回も凌いで、隙をみて反撃して……ちゃんと渡り合ってたじゃない! なのに……私達の為に……ごめんね……」


「ティア様……」


(フロスティアちゃん……可哀想で、見てられない……ごめんね……)


 ふたりの様子に、ミラージュと呼ばれた北の宰相は観念したようにため息を吐く。


「ティア、もういいよ。聖刃様を手当してあげて?」


「でも、ミラージュのことがバレたら……!」


 その泣きそうな眼差しに、ミラージュはフッ微笑む。

 そして一言――


「『秘密』はバレる。どの道僕らは――もう終わりだ」


 視線の先には、風穴の開いた大広間。

 外の空気がひやりと流れ込んできて、人々の魔王様を心配する声が聞こえます。

 ユウヤが血相を変えて私に合図する。


「急いで光の結界を! あの風穴を塞げ!」


「えっ?」


「その蛇を街の住人に見られるわけにはいかない! 目が合っただけで『人を畏怖させる』蛇だ! 魔力耐性の低い者や事情を知らない者が見れば、広場は恐怖の渦に飲み込まれる! 今まで我々が築いてきた帝国民と魔族との信頼が……!」


「そんな……!」


 私はすぐさま風穴に向かって両手を掲げた。


「――【調停の女神ノ封印見ちゃダメ】!」


 ――しゅわっ……


「あ、あれ……?」


「――【調停の女神ノ封印見ちゃダメぇ】!!」


 ――ぽひゅ……


 ちっちゃなぽやぽやしか出ません。


「どうしよう! 魔力マナ切れで……! こんなときに、ごめんなさい! 私……ごめんなさい!」


「くっ……ライラのせいじゃない! でも、だから籠って隠していたのに! 『秘密』がバレたら――」



 ――帝国が沈むぞ……!


      ◇


 『このままでは帝国が沈む』。

 その一言に激昂したのは、北の宰相ミラージュだった。


「帝国が沈む!?ふざけるな!!」


「ちょっと、ミラージュ……?」


 聖女フロスティアが止めるのも気にせず、魔王である俺を責め立てるように声を荒げる。


「そうなったら、不老薬『エタニティ』はどうなる!? 僕の――――ッ!」


(なんだこいつ? どうしてお前がそんなに怒るんだよ?)


 ミラージュがやたらと『エタニティ』に固執し、何度もスパイを送り込んではその製造法を探ろうとしていたことはクラウス達の調べでわかっていた。

 しかし、何故固執するのかという理由は不明のまま。この剣幕から察するに、『命に代えても欲しい』ような雰囲気を感じる。


「それは――」


 言い淀んでいると、ミラージュの傍にふとイヤな気配を感じ、全身が身震いした。


「――ッ!?」


 勝手に動く身体。詠唱する口元。


(まさか、ベルフェゴールが遠隔操作で術を!? だが、いったい『誰』に向けて――!?)


 右手をかざした俺が捉えたのは、暗く湿った『影』だった。


「――【余の優秀な影の愛猫ミーシャ・ザ・リッパー】!」


「「「!?」」」


「なっ――」


 俺が放った無数の『猫の形をした影』が、ような鋭い一撃を弾く。驚くミラージュの首のすぐ近くで、『影』が揺らめき、その姿を現した。


「あ~あ、あと少しだったのに。どうしてキミが邪魔するんだよ?」


 身の丈ほどある銀の大鎌を手にした、金の瞳の長身な男。

 紺色の長髪を首の後ろでひとつに束ね、ヒラヒラしたドレスシャツの上に漆黒の外套を着こんだ――『死神』だ。


「……オペラ。どうしてお前がここに?何故宰相の首を狙う?」


 鋭く睨めつけると、オペラは高らかに笑う。


「何故?どうしてこんなことするのって!? はははははっ! 僕が聞きたいよ!」


 そして、俺に敵意を剥き出しのまま、にやりと目を細めた。


「――『死神』が人を殺すのに、何か問題が?」


(殺意が、尋常じゃない……どうして?オペラは味方じゃなかったのか?)


 だが、気圧されて理由もなくミラージュを殺させるわけにはいかない。

 あいつには、何故『エタニティ』を欲するのかを吐かせて、帝国との対立を辞めさせなければならない。

 『今の内に』と城内に姿を隠したベルフェゴールを確認し、俺は口を開く。


(今の俺は魔王。国の代表だ。他国の将を前にして、器の大きい人格者である姿を見せなければ……)


「みだりに人を殺めるな。調和が乱れる。一時的とはいえこの地に身を置く以上、余の許可なく『職務以外で』殺すことは許さん」


 その言葉に、オペラはため息を吐いた。


「キミの都合なんか知らないね。ミラージュとか言ったか?そいつは『エタニティ』を手に入れるため僕の愛しいクリスの動きを探り、あろうことか強奪しようと策を企てた。クリスの敵は僕の敵。タダで帰すわけにはいかない」


「だが、理由があるはずだ。まずは話を――」


「――聞く必要があるとでも? 『エタニティ』はいわば、僕とクリスが契りを交わしたことで生まれた『愛の結晶』だ。その『エタニティ』によって永遠の命を手に入れた帝国民は、僕らの子ども同然。これからゆっくりと、穏やかに、永久とわに。あたたかい家庭を築いていく予定だったのに……水を差してくれやがって……!」


 オペラが再び大鎌を構える。


「殺すよ。北の宰相を殺す。『死神』の僕が決めたんだ、『死は遂行されなければならない』。そっとしておいてくれないか?」


「仕事の邪魔をするなと?」


「イエスイエス。そのとーりだ。パパ、絶賛お仕事中!」


「それは仕事ではない、私怨だ。『神』のワガママっぷりには呆れて物も言えんな?」


「ははっ!上手な演技だ!虚像に何ができるんだい?……おとなしくしてなよ?」


 オペラの足元が揺らめき、再び闇に溶けた。


「――ッ!」


 突如として俺達に牙を剥く死神。


 クラウスが魔剣を構えるも、『人』の身である彼が隠密能力に秀でた『死神』の姿を捉えられるわけがない。だって、『這い寄る死』が『人』に簡単にバレたら『逃げられてしまう』から。


 そして、かつて『神』にも等しい魔王を倒した勇者のハルも、彼が持つのが神器である限り、『神』は殺せないのだ。


(俺がどうにかするしかない……『神』に匹敵する力を持つ、『魔王』の映し身である、俺が……!)


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