第七話 悪の宰相はプロデューサーになる
翌日。俺は学校を終えると
先日のゴスロリ服と金髪ではなく、黒髪美少女の姿で志月は現れた。
「……来たわね」
胸元まである髪をさらりと揺らした、年相応の清楚さと女の子らしさが入り混じる美少女中学生。テレビで見たことのある元アイドルの売れっ子タレント、
その得も言われぬ圧力に緊張し、思わず仕事口調で話しかけようとする。
しかし、長年(異世界で)培ってきた宰相故の皮肉屋な性が、俺の口元にくすり、と笑みを浮かばせた。
「ふふっ。今日は金髪に眼帯じゃないんですね、ボス?」
問いかけると、志月は恥ずかしそうにふいっと顔を逸らす。
「アレはその……異世界向けの恰好だから……」
その沈黙に、なんとなく違和感を感じる。それに、アレを着ていたときはあんなにきらきらとしていた瞳も、今日はどこか陰っていた。
「それで? 今日の要件は現プロデューサーからの引継ぎでしたっけ、有栖さん?」
「撮影現場以外では、志月で呼んで」
思いのほかとげとげしい口調。だが、その敵意はおそらく俺に向けられたものではない。
(こいつもしかして……タレント業に不満があるのか?)
もしくは、触れられたくない嫌な思い出でもあるのだろうか。
だが、初日からそこに突っ込んでどうする。
俺の目的はあくまでライラの為に志月の協力を得ること。
志月曰く、彼女の異世界での使い魔であるサタン様と連絡をとるには、こちら時間で三日かかるそうだ。俺の異世界とはえらい違い。ウチは時間差異が云十倍なせいで、書簡でさえものの数分で返事が来るからな。だが、今はソレに縋るしかない。
もし界を行き来する方法があるのなら、俺の知っている異世界の住人であるライラを媒介にすれば、向かう異世界を選択することができるのではないかと考えた俺は、その件をサタン様に問い合わせ中なのだ。故に少なくともあと三日は志月の言いなりになるしかない。
慣れた手つきでブレザーの内ポケットからカードキーを取り出した志月に続き、俺は所属事務所に入った。
そこは思いのほかこじんまりとした事務所で、所属タレントもそこまで多くないところだった。なんでも、志月もとい夜月有栖がここ数年で一番のヒットなんだとか。
すれ違う人間みんなに「有栖さん、お疲れ様です!」なんてぺこぺこ頭を下げられながら、俺達は志月専用の控室にやってきた。現在志月を担当しているプロデューサーとは、そこで待ち合わせらしい。
「で、どうして今のプロデューサーと仲違いしてしまったんです?」
引き継ぐにあたり最重要と思えることを質問すると、志月はあからさまに苦々しい顔をする。
「それは――」
志月が言い淀んでいると、バァン!と大きな音を立てて大柄なスーツの男が入ってきた。
「有栖ちゃん! どういうつもりだ!?」
額に汗を浮かべ、髪を短めにカットした三十代前半の男。いかにも体育会系だ。
苦手。
「音信不通になったと思ったら、急に『代わりのプロデューサーを見つけた』だなんて! しかも、『会わせるから、引継ぎは今日しろ』だなんて、無茶もほどほどに……! って、キミは?」
俺に気づいたプロデューサーが、思わず固まった。
「……彼は?」
「彼が新しいプロデューサー。名前は
「どうも、ご紹介に預かりました如月です」
志月によって用意されていた名刺を手に軽く会釈すると、プロデューサーは目を丸くして再び固まる。
「プロデューサーって……キミ、その制服姿……ひょっとして高校生じゃないのか?」
あたりまえだろ? 下校する足でここに来たんだから。
そもそも、俺の年齢なんて事務所にはおいおいバレるわけだから、隠しても無駄。それに、志月は「社長は話のわかる人だから」と言っていた。だから今日は敢えてこの姿で来たのだ。
だが、プロデューサーは納得しなかったようだ。目を白黒させながら、震える唇を開く。
「まさか、この子が新しいプロデューサーなのか?」
「そうよ」
「こんな若い……キミの仕事は高校生にどうこうできるお仕事じゃ――」
「でも、もうあなたと一緒に仕事をするのはイヤなの! あなたが持ってくるお仕事もイヤ!」
思わず声を荒げた志月に閉口するプロデューサー。
無理もない。傍から見れば、これは子どものワガママに見えるのだろう。
だが、志月の表情は真剣そのものだった。そして、どこか泣き出しそうなくらい、必死な顔をしている。
俺は思わず前に出た。
「まぁ、彼女がこう言っているのですから、いいではありませんか。タレントの意思が前に向かなくては、仕事も何もないでしょう? プロデューサー?」
「キミは……!」
『ふざけているのか!?』そう言い出したい気持ちを抑え込んで、プロデューサーは口を開いた。
「……キミは、有栖ちゃんの知り合いなのか?」
「はい」
「念のために聞くけど、どういった知り合いで? まさか付き合っているなんて……もしそんなふざけた理由なら――」
言いかけたプロデューサーの言葉を塞ぐように、志月が反論する。
「そ! そんなんじゃないわよ!?!?」
この手の話には縁が無かったのか、志月の顔は年相応に真っ赤に染まっていた。
中学生らしい、愛らしい表情。
だが、そうやってムキになって否定すると逆効果だぞ、志月。
「有栖ちゃん! アイドルは恋愛禁止だって、常々言っているだろう!?!?」
ほら、プロデューサーが誤解した。
志月とは別の意味で、顔を真っ赤にして。
「ああもう! 『彼氏と一緒にいたいからプロデューサーしてもらお~』なんて、大人をナメているのか!? 有栖ちゃん、キミはウチの稼ぎ頭だ! そんな軽い気持ちでいてもらわれると困るんだよ!!」
「うぐっ……」
大人の事情を持ちだされ、志月は劣勢になり始める。プロデューサーが大柄な男ということもあるだろう、完全に委縮してしまっていた。
だが、俺は志月が『有栖』と呼ばれる度に浮かない顔をしていた原因がわかった気がした。なんというか、こうやって正論を突きつけられて、この勢いに言い返せずに言われるがままに仕事をさせられてきたんだろう。
一歩、進み出る。
「プロデューサーさん、落ち着いて。僕は志月さんとお付き合いしているわけではありませんので」
「じゃあ、一体どういう関係なんだ!?」
異世界に行ったことのある者つながり、とも言いづらい。
「目的の為に手を組む同志……とでも言えばいいでしょうか?」
「は!?!?」
「とにかく、志月さんはこれ以上あなたとは仕事ができない。それは、話すだけであなたのことを怖がっている志月さんを見れば明らかだ」
「な……!」
「であれば、とっとと引継ぎを済ませてしまいましょう。自分のせいで志月さんの意欲が無くなったと事務所に知られたくないのであれば、社長へは僕から報告いたします。それになにより、志月さんを信頼している社長は、『志月ちゃんの選んだ人なら歓迎するよ』と仰ってくれているようですので」
確認するように視線を向けると、志月は俺の影に隠れつつもこくこくと首を縦に振った。その姿に、思わず呆れたため息が出る。
(こんな小さな子を、いいように働かせているなんて……)
中学生か。まだ中学生、されど中学生。
確かに見た目は綺麗で、人形のような顔立ちをした美少女だ。しかも、歳の割には大人びているように見えなくもない。仕事だって子役向けではなくて、女の性を意識したものもこなすことができるだろう。モデルとか、グラビアとか。
だが、俺には志月がとても小さな子に見えた。早々にこのプロデューサーから解放してあげた方がいいように思える。
「これ以上は議論の無駄です。社長の許可も出ています。早く引継ぎを」
ファイルを寄越せといわんばかりに右手を差し出すと、プロデューサーはスマホを取り出し、社長に確認を取り始めた。そうして、みるみるうちに青ざめる。
「……社長が、スピーカーをオンにして、このまま引継ぎを済ませろと……」
「では、とりあえず志月さんが今抱えている案件とその優先順位、直近のスケジュールの確認からしていきましょうか。今後決まりそうな案件もあれば、それもお願いします。ああ、取引先への連絡手段は全て、その専用スマホでよろしいんですよね?」
しぶしぶと取り出された業務一覧をひったくり、志月の手帳と照らし合わせる。
「CM,ドラマ、写真集の記念イベント……」
(うわ、結構引っ張りだこじゃないか……)
だが、ある相違点に気が付いて、指摘した。
「志月さん、この日、夜まで仕事の線が入っています。業務一覧では、午前中の撮影のみで終わりなはず。これは何ですか?」
「あ。えっと……」
表情を一層曇らせた志月は、震える声で答えた。
「か、会食……」
「誰と?」
「ええと……」
伺うようにプロデューサーの顔を見る。すると、プロデューサーは手にしていた自身のスマホを操作し、平然と答えようとする。
リマインダーだかカレンダーだかを確認しているのだろうか。そういうの自分のスマホに記載するのは機密情報の持ちだしではないのか? それに、お前が病気で倒れたときはどうするつもりなんだ?
プロデューサーとしてはどうだか知らないが、宰相としては下の下もいいところだ。俺だって、自分が倒れた時のために、クラウス団長などの要職が見てわかるように業務日誌を付けていた。
まぁ、俺が体調不良のときは聖女様がわたわたして使い物にならないから、日誌が引き継がれることは一度もなかったが。
呆れ半分、返答を待つ。
「その日はD社の広報部長さんとですね。現在経営企画室にお勤めの社長さんのご子息もあとからお見えになるとかで、絶対に失敗できない――」
「では、この日は?」
「T社の番組プロデューサーと」
「この日」
「A社の音楽統括マネージャーと――実は、有栖ちゃんをアーティストとしてメジャーデビューさせてはどうかというお話を頂いておりまして」
得意げに話すプロデューサーとは裏腹に、志月の表情は浮かばない。
俺は、思っていることを正直に尋ねた。
「それ、当然志月さんにお給金は出ているんでしょうね?」
「え?」
「なんですか、その顔は。某社のお偉い方との会食……これはれっきとした営業だ。いくら志月さんは美味しい食事を食べているだけとは言っても、彼女の時間を取られていることに変わりはないんです。給料は支払われて当然です」
「……!」
隣で、志月がハッとしたように俺を見上げた。一方で、プロデューサーは『わけがわからないよ』といった表情だ。もう、ハッキリ告げるべきだろう。
「おっさんと食事して、志月さんが楽しいとでも思っているんですか?」
「……!」
「僕がプロデューサーを引き継いだ暁には、これらの時間は仕事とみなし、きっちりお給金を支払っていただきます。一分、一秒たりとも見逃しません。それに、どうしてそんな重要そうな案件が業務一覧には記載されていないのです? まさか、社長には内緒ですか?」
「それは――」
「そもそも、未成年の志月さんはこの時間、仕事はできないはずじゃ――」
額に汗を浮かべ、「いや、だって、それは仕事ではないし……」とか視線を逸らすプロデューサー。だから仕事だって言ってんだろうが。
これはアレだ。昔、大臣とロイズ(ライラに好意を寄せる盗撮魔の副団長)が結託してライラの写真集(ローアングル編)の発売を『広報活動』の一環として認めさせようとしたときの顔に似ている。
つまり、完全にやましいことを考えているときの顔だ。
イヤな予感に、虫唾が走る。
「まさか……枕か?」
「……!」
枕営業、イヤな言葉だ。
女に色を使わせるその思考も、そういう営業を望んでほのめかしてくる
異世界でも、そんな話がたまにあった。
いくら聖女が街を治めていて偉い存在だと言っても、資金源の全てが教会というわけではない。街を運営する際に生じた不足分は、聖女が自らの手腕で調達しなければならないときもある。
脳裏をよぎる、イヤな記憶。
『ライラ様は、そういった経験はおありで?』
にやつきながら俺の顔色を伺う大臣の下卑た顔。
勿論、俺の目が黒いうちはそんなことさせなかったし、俺が宰相になる前は善良なる騎士団長のクラウスが止めてくれていたようだから、ライラはのほほんと過ごすことができていたが。
だから、プロデューサーの考えていることくらいわかる。
「会食の後、どうなるかは雰囲気次第。だから業務一覧には間違っても記載できない。そうなんでしょう?」
(芸能界というのは、そこまで腐っているのか? そうじゃないと言ってくれ……!)
だが――
「…………」
無言の返答に、思わず声を荒げた。
「で? どうなんだ? 何か言え! 志月の目を見て、はっきり言ってみろ!!」
「「…………」」
長い沈黙に耐え切れないとでもいうように、志月が俺の袖を握る。
(やめろ、志月。『もういいよ』なんて、間違っても言うんじゃない。ここで甘い顔をしてしまえば、目の前に居るこいつみたいな奴は図に乗って、再びお前に同じことをさせようとするぞ……)
だが、隣にいた志月は遂に耐え切れなくなり、小さく口を開いた。
「ま、枕営業は……してないよ……」
「当たり前だ。したか、してないか、なんて、俺はそんなことを聞いているんじゃない」
「え? じゃあ……?」
首を傾げる志月に、はっきりと告げる。
「今までは運が良かっただけ。あわよくば枕させようなんて、そんな思考がこいつの中にあったのか、なかったのか。それが問題なんだ」
「……!」
目が覚めたような志月に、ゆっくりと向き直る。
「で、志月さん? 会食やその帰りなど、営業の場で取引先の方に身体を触られたことはありますか?」
「あ、えっと……肩を抱かれるくらいなら……」
「『くらい』って何ですか。それは完全にアウトです」
短く指摘し、今度は、立場が悪くなってぷるぷると下を向いているプロデューサーに向き直る。
「知っていたんだろう? 志月さんがセクハラ被害を受けていたことを。知っていて会食させていたんだろう?」
「ち、ちがう! あの程度はコミュニケーションの一環で、決してセクハラなどでは……!」
「何が違うって言うんだ!? 現に志月さんは嫌がっているのが明らかだろう!?」
「いや、だって……! 有栖ちゃんはまだ子どもだから、先方もやましい気持ちがあって触ったわけじゃあ……!」
「じゃあどうして肩を抱くんだよ!? やましい気持ちが無いのなら、そもそも触るんじゃない!!」
「そんなつもりはなかったはずだ……!」
「セクハラ野郎は皆そう言うんだよ!! ッ、くそっ……!」
俺は激昂し、思わず近くにあった椅子を蹴り飛ばした。
ガラァン!と大きな音を立てて転がる椅子に、ふたりの表情が凍りつく。
「はぁ、はぁ……!」
もしあの頃、俺が宰相になる前に、万一ライラがそんな目に遭っていたかと思うと……
俺は志月の置かれた状況にライラを重ね、どうしようもなく腹を立てていた。
「志月! こんな事務所やめてしまえ――!!」
言いかけていると、部屋の扉がガチャリと開いた。
「もう、わかりました。そこまでにしましょう」
顔を出したのは、志月の祖父と近しい年齢の、白髪の男性。
志月は大きく目を見開く。
「しゃ、社長……!」
社長と呼ばれた男性はこつこつと杖をついて、志月に近づく。
「志月ちゃん、ごめんなさい。私が体調を崩して入退院を繰り返しているうちに、こんなことになっていたなんて……」
「社長さんは悪くない! 私だって、長い間行方不明になって、社長さんや事務所の皆に迷惑をかけたもの! だから、私、一生懸命……!」
痛めているであろう腰をさすりながら近づいて来る社長の元に、志月は駆け寄った。その様子から、志月が社長のことは信頼しているのであろうことが伺える。
それにしても――
(『長期間の行方不明』か……)
おそらく、志月が異世界に行っていたときのことだろう。
だが――
「志月さん。事務所の為にと思って頑張るのはいいことです。しかし、無茶な営業に付き合って無理矢理仕事を取ってくるのでは、頑張る方向が違います。聞いた話だと、志月さんは幼い頃からこの事務所で世話になっている。大方、プロデューサーに『受けた恩を忘れたのか?』なんて、ほのめかされていたのでしょう?」
俺がそう告げると、社長もこくりと頷いた。
「志月ちゃん、イヤなことはイヤって言ってもいいんだよ? そういうときに君を助けるために、私たちのような大人がいるのだから。君が売れるようになって、事務所を大きくしようなんていう話が広がって……悪かったね。知らず知らずのうちに、君にはイヤなものを背負わせてしまった。本当にすまない……」
「社長さん……!」
「それから……そこの君。如月君といったかい?」
「はい……」
「志月ちゃんのために怒ってくれて、ありがとうね」
◇
それから俺達は社長の好意で、晴れて新プロデューサーとして認められることとなった。しかし、俺も高校生で未成年のため、夜遅くなるような仕事はできない。要はバイト扱いだ。だが、成人した暁にはその気になれば大歓迎で雇ってくれると
そもそも志月はそういった会食などが嫌いなので、当面の会食予定はキャンセルとなり、この件は片がついた。
それで逃した仕事などもあるようだったが、社長は『これからは事務所のためじゃなく、志月ちゃんのやりたいようにしなさい』と言ってくれた。
「さて、これからどうしますか……」
白紙の多くなったスケジュールを片手に、ため息を吐きながら事務所を出る。すると、志月が不意に立ち止まった。
「あ、あの……」
「ん? どうしたんです? そんなに思いつめた表情をして」
不思議に思って振り返ると、志月は唇を震わせながら懸命に口を開いた。
「あ、ありがとう……!」
演技の上手い天才が見せる技ではない、心からの言葉だった。
俺は、年相応に瞳を潤ませる志月にそっと近づいて、頭を撫でた。
「今まで、ひとりで抱え込んでいたのですね?」
「…………」
「異世界に行って事務所に迷惑をかけたことも、その汚名を雪ごうとイヤな営業に付き合わされていたことも。そうして、本当は清純派タレントなどではなく、フリフリの服を着て踊りたいということも」
「え……!?」
指摘すると、志月は驚いたように顔をあげる。
「なんで……わかったの……?」
きょとんとした表情に、俺は苦笑した。
「だって、この間の厨二病でゴスロリ服を着ていた志月さんの方が、何百倍も元気があって、輝いていましたから」
「……!」
「それに、プロデューサーを任されるなら、事前に担当する子の主な活動くらい調べるものですよ。そうでしょう? 初代実写版『でび★きゅあ』――きゅあサタン様?」
「あ。私のこと、知って――」
「きゅあサタンの愛らしさと高慢さ、そして、なんとも言えない微笑ましい苛立たしさが夜月有栖の人気に火を付けた……あの頃の志月さんは輝いていた。本当は、沢山のカメラに囲まれたスタジオなどではなく、大勢のちびっこに囲まれた小さなステージがお好きなんでしょう?」
スカートの裾を握りしめ、泣きそうになる志月に声をかける。
「これからは、また、一緒にそういうお仕事を探しましょう?」
「う……!」
「いままで、よくがんばりました」
再び頭を撫でると、志月は安堵して腰の力が抜けたのか、縋るようにして泣きついてきた。
「うわぁあああん……!」
「ちょ……! 志月さん!?」
「うぇええええん……!」
涙と鼻水で濡れた顔を隠すように胸元に張り付く志月を引き剥がそうとする。
「ま、まずいですよこんなところで! 仮にも芸能人でしょう? パパラッチされたらどうするんです!?」
しかし、志月は抱き着いて離れない。
「ありがとう……ありがとうぅうう! ノイシュヴァンシュタインんんん……!」
「だから、その呼び名はやめろ!!」
嬉しそうに名を呼ぶ志月。その姿にほっとしていた俺はそのとき、俺達を見つめる視線に気づくことはなかった。
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