《番外編》悪の宰相と裏稼業 ハーレムクラッシュちゃんねる (配信者・宰相YK)
これは、冥界との騒動がまだ激化する前。国家会談が落ち着いて、元の世界と異世界を行ったり来たりしつつ国家盤石のために戦力を拡充している途中のお話だ。
異世界に行って、聖女に溺愛されて、魔王や勇者に気にいられ、挙句『魔王軍の非常勤宰相』に必要な装備として異界渡り(
そんな俺の最近の悩みは――
「はぁ……金が欲しい……」
そんな、俗にまみれた願望だった。
なにせ俺は高校生。バイトをしたって限界があるし、そもそもバイトをしていてはライラと過ごす時間が少なくなってしまうだろう? ライラも同じバイトをすればいい? そんな、頭お花畑で脳みそぽやんぽやんなライラに時給のいいバイトがこなせるとは思えない。
いや、聖女様の宰相をさせていただいていた身として、ここはハッキリ言わせてもらおう。『可愛いかわいい聖女ライラ様に、人間界のバイトなんて無理です』と。
街中を歩いていて『見てユウヤ! ティッシュもらったわ!』と、にこにこピンク色の『女の子限定! 高収入バイト! 初心者歓迎だよ♡』なティッシュを見せられたとき、俺は誓った。ライラにバイトなんてさせられない、させてたまるか、とな。だが――
「はぁ……こんなんじゃ……」
俺は自分の貯金通帳とにらめっこし、再びため息をついた。
「ライラを養うなんて、夢のまた夢だ……」
そんな俺の元に、得体の知れない通信が舞い込む。電源が切れているはずのノートパソコンに映る、気だるげな青年。くるくると、もさついた銀髪を弄りながら『もしもぉ~し?』なんて声を掛けてくるのは、最近魔王軍に加えようと熱心にスカウトしていたジェラスという最強魔術師だ。
『お~い? これ映ってんの? 周波数も次元回路も合ってるし、座標軸にも間違いない。時間差歪曲補正もちゃんとしてるはずなんだけど、やっぱ異世界通信は無理――』
俺は部屋に鍵がかかっていることを確認してパソコンのエンターキーを押した。
「聞こえていますよ、ジェラス様」
『おお、ユウヤか! やっぱ異界側に協力者がいると座標指定と接続が安定するな!』
「お久しぶりです。そちら時間では何日ぶりですか? こちらは数日も経っていませんが」
『忘れた。でも、お前に提案された異世界通信の案件に取りかかってから結構な時間を費やしたような……まぁいいや。で? 報酬の方はどうなっている?』
「時間歪曲魔術を用いて異界とのリアルタイム通信を成功させたことで、魔王軍は僕と密に連絡を取ることが可能となりました。その功績に見合った報酬は、いずれ魔王様よりお支払いされるでしょう。お渡しした小切手に好きな額をお書き下さい。可否を判断するのは魔王様ですので」
『へぇ……どれくらいなら怒られないかな?』
「魔王様は手間が省けることに関して寛容なお方。ご想像にお任せいたします」
『西の魔王太っ腹~!』
心なしかテンションの高い最強魔術師。『勇者と同じパーティはもうイヤだ』と、魔王の軍門に下ることを拒否しつづけるジェラスだが、異界を行き来する存在である俺に魔術的価値と興味を抱いた彼は、いまや“イタズラ”や“おもしろいこと”になら協力してくれるレベルの友人、というか同じ穴の狢だ。異世界との通信が成功したこの瞬間、俺は確信した。
(コレは、使える……!)
◇
後日。ヘッドセットとモニターを購入した俺は、人生で初めて動画配信者『ゆーチューバー』としてデビューした。その配信内容とは――
「さぁ、今日も始めましょうか? 皆さん、準備はよろしいですか? 配置確認、各員点呼」
返事をするのは、目元に白い仮面を被ったメンバーたち。
『こちらジェネラル、滞りなく。突入対象を確認。いつでも行けますよ』
『マジシャン、OK。演出なら任せとけ~』
『ウィッチお~け~でーす! ねぇ、イイ男が出てきたら途中でヌけてもいいの?』
「各員了解。モニター監視、指揮は
次々とモニターに流れるコメント。
『いいぞ、もっとやれww』
『ウィッチさん顔出しまだ~?』
『今日もイイ乳してる!』
『異世界コスプレ? 出来良すぎワロタww』
『ジェネラル! 今日もぶっ壊してくれよ~!』
『魔法見た~い!』
など。
そう。俺はこの異世界通信を使って『異世界モノの世界に見立てた精度の高い番組配信』を行うゆーチューバーとして、再生数を稼いでいるのだ。
俺とライラの、将来の資金稼ぎのために。
その精巧な世界観と魔法演出(どちらも本物なので当たり前だが)から、ここのところ着実にフォロワーを増やしている俺だが、協力者(主にジェラス)への報酬を加味しても、これはかなりウマい商売だった。リリスがやらかして垢BANされない限り、俺の資金面の未来は明るい。まぁ、異世界であれこれ苦労して仲間を増やした俺なんだ。これくらいのご褒美があったっていいだろう?
さぁ、今日もひと稼ぎさせて貰おうか。俺はマイクに口を近づける。
「異世界配信『ハーレムクラッシュちゃんねる』……スタートです」
モニターに映るカメラを操作するのは天才魔術師のジェラス。ドローンの機構と技術を向こうに逆輸入し、遠隔操作での撮影や魔法を繰り出す便利なコウモリ型のゴーレムを創り出した彼の才能とカメラワークは視聴者の皆さまにもご好評いただいている。モニターに一軒の屋敷が見えてきたのを確認して、俺はナレーションを入れていく。
「今日のターゲットはあちらの豪邸にお住まいの元勇者、アレクです。『クラッシュ依頼主』であるメアリーさんとはかつてのパーティ仲間だったとか。一夜を共にした仲だというのに、あろうことか勇者は多額のクエスト報酬を持ち逃げ。同じくパーティ仲間のヒーラーと共に屋敷を築いて、ハーレムを形成して豪遊しているらしいのです。許せませんね?」
『どこかで聞いたような話ね~! そういう勇者ってほんとサイテー! ○○潰して二度と勃たないようにしてやりたいわ!』
俺は冷や汗を垂らしながら○○の部分に『ピーッ』という音声をすかさず入れた。本当に、リリスという奴は口を開けばR18。油断も隙も無い。
『メアリーをいじめるとは許せん。いつもより派手にぶっ壊そう』
口々に勇者への罵倒を吐き出すリリスとジェラス。ちなみに、ジェラスは自身の可愛がっている使い魔の名がメアリィであるという、かなり個人的な理由でご立腹なようだ。その一方で、いつもと変わらず殺意の波動を募らせる愛妻家のクラウス。
『複数の女性を囲うような男に手心を加える必要などありません。塵ほども』
コメントの方も『早くやれ!』と大盛り上がり。ちなみに、屋敷や勇者に損害を与えて賠償金を請求された場合は、依頼主が責任を持って対処する取り決めになっているので、どれだけ暴れても俺達に支障はない。異世界での俺たちは『あなたの恨み、晴らします!』という単なるクエスト受注者なだけなのだ。
――と。そんな基本説明をテロップで流している間に、ターゲットのアレクが見えてきた。屋敷の二階、ひときわ大きな部屋でハーレムの女どもとお楽しみといこう、というところのようだ。リリスが見えてはイケナイ箇所を隠すために黒い霧を部屋に忍び込ませる。
「ウィッチ、入っていいですか?」
『今ならいいわよ~。まだ、だぁ~れも脱いでないもの』
その言葉に、\え~?/ \まだ~?/と沸くコメント。
「皆さま、BANされてしまうので、ご容赦ください。ハーレム現場はおさえましたので、ここで依頼者の方から一言いただきましょう。メアリーさん? 聞こえますか?」
『はい……』
通信機の奥から聞こえる、地を這うような女の声。
「今のお気持ちをお聞かせ下さい。勇者のアレクに向かって、どうぞ」
凛とした佇まいの女騎士は、短く息を吸い込むと、一言――
『くたばりなさい!! くそアレク!!』
――屋敷に響き渡らんばかりに大声を上げた。かけ声と共に、屋敷裏に身を潜めていたクラウスが突入する。
こういった勇者の屋敷には護衛がいないのが常だった。だって勇者は自分が強いのだから、そんなガードマンを雇う必要なんて無いからな。そんなハーレム勇者どもとクラウスの剣技攻防も、この『ハーレムクラッシュちゃんねる』の見せ場の一つである。まぁ、クラウスであればその辺の勇者に万にひとつも負けることはありえないが、属性や扱う武器の影響で不利だった場合でも、ジェラスやリリスが助太刀してくれるので、問題は無い。
『不逞の勇者に天誅を! 一途なご婦人の想い――受け取れっ!』
『――【
『出たぁ~!』
『演出wwヤバww』
『CG?』
『勇者オワったwww』
暗き輝きを放つ魔剣が、勇者に一太刀を浴びせようとしたとき。勇者が枕元の剣でその一撃を受け止めた。
『誰だよっ!?!?』
『あなたに名乗るような名は無い。胸に手を当てて、己の行いを恥じろ』
『――【
『炎攻撃が来る! 誰か、水の魔法で壁を張れ!』
勇者からの合図を受けた半裸の女がすかさず水の防壁を張った。
炎と水の攻防で、部屋が水蒸気に満たされる。その間も勇者を仕留めようと剣戟を響かせるクラウス。もはや彼は『これがクエストだ』ということを完全に失念しているようだ。乙女を踏みにじった勇者を誅滅せんと、実戦並みの動きを見せている。
俺はリリスが煙を晴らすまで視聴者が退屈しないように、ナレーションを入れた。
「ほう……! 今回の勇者は中々やるようですね。ハーレムの女に魔法使いがいたようです。反応速度も素晴らしい」
俺が呑気に解説する間もコメント欄は魔法に対する再現度の高さに沸いている。
(まぁ、本物だからな……)
「ジェネラル! 水属性を扱う魔法使いには他の者で対処します。あなたは勇者の動きを足止めしてください!」
『――御意』
「マジシャン! 助太刀を!」
『はぁ……面倒だけど、ハーレム勇者は俺もキライだし。行きますか。転移転移~っと』
モニターに映された大広間に突如として銀髪の青年が姿をあらわした。もちろん、これも『合成』なんかではない。正真正銘の、【転移】魔法だ。
ジェラスは身の丈ほどある銀の杖を空間から取り出すと、声高らかに使い魔を呼んだ。
『メアリィ出てこい! 美味しそうな
『わぁ~い!』
ぽやんと出てきたのは、胸をたぷたぷ揺らしたサキュバス。もうそこに居るだけでBANにならないかヒヤヒヤする露出度だが、視聴者は『待ってました!』と大盛り上がりだ。メアリィはピンク髪美少女の淫魔なので、非常に人気が高い。コメント欄が『マジシャンそこ代われ』で荒れる。
ちなみに、メアリィが出たおかげで売り上げが伸びた場合はその分ジェラスに報酬を上乗せし、メアリィにお小遣いをあげることになっているので、メアリィもサービス精神が旺盛だ。カメラに寄ってキスしては『こう~?』なんて言いながら谷間をアップで映す。
そこに勇者の拘束準備が完了したリリスが依頼人を引き連れて現れ、あとは依頼人のお好きなように。他のハーレム女を三人で抑えながら、女騎士のメアリーさんは馬乗りになって手足を煙で拘束された勇者を殴る。
『アレク! よくも! 私の! 純潔を!!』
バキッ! グシャッ!
『よせ、メアリー! 俺はお前も愛して――』
『ふざけないで! あんたのハーレムなんか! 絶対に入らないから!』
ゴスッ! ボゴォッ!
『これでも! くらええええ!』
バキィッ……!!
『ハーレムクラッシュちゃんねる』恒例の、依頼主による報復シーン。
俺は画面が『おおお』と『ざまぁ』の白字で埋め尽くされるのにほくそ笑みながら再生数をチェックした。
(はぁ……これだから……)
――『悪の宰相』は、やめられないんだよなぁ……♪
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