第47話 二人の救う者

 神魔しんま――それは、この世に本来は存在してはならない”悪”。

 最も繁栄している種族に代償を払わせ、代理とは名ばかりの玩具オモチャにする。

 契約者になった人間は、修羅神仏の力を振るい、人ではなくなる……。


「人間を侮るんじゃないわよ! アタシが――灼聖者リーベがそうはさせない!」


 アタシは瓦礫と死体だらけの町中で呟く。

 辺りには火が満ちて、戦闘による爆音が響いている。

 この惨状は、アタシとその仲間の侵攻によるものだ。


「神魔に利用され、貶められた契約者を――!」


 全ての契約者は、一人残らずこの手で殺してあげないと……。

 それこそが救済、それこそが――アタシの信念。

 もう誰も神魔によって傷つかないように、泣かないように……。


「神魔戦争? 上等よ、外側からねじ伏せて――台無しにしてやる」


 アタシの周りを徘徊する白い霊体――魂が警戒を鳴らす。

 この町の契約者は体感的にはとても弱い。

 しかし、五天竜や元素の天使と契約する契約者がいると、報告も受けている。

 そして、目の前に立っているコイツは、どうやら強いらしい。


「よう……俺は東条とうじょうエンマだ。お前達を――!」


 高校生だろうか、まだ若い青年だった。

 健康的なイメージの肉体に、確かな覚悟を感じさせる強い目をしている。

 その両手には――白と黒の短剣を持っており、契約者らしい。


「止める……? 冗談でしょ。殺す覚悟もない奴が、アタシの前に立つな」


 ”魂の操作”――それが灼聖者として、アタシが有する力。

 人間は言うに及ばず、あらゆる萬物にそれは宿る。

 例えばそれは、死体となった契約者であったり。

 例えばそれは、現象や能力そのものであったり、と。


「アタシの有する時数字は”Ⅵ”――魂操こんそう灼聖者リーベよ」


 アタシは近くに転がる契約者の死体に”力”を行使する。

 その魂の記憶から、能力や経験を一時的に借りることができる。

 逆に――物や概念にすら魂を分け与えることも可能だ。


「そんなのは聞いてねぇ。名前を教えてくれよ」


 エンマと名乗った青年の足元を、借りた力で凍らせる。

 しかし、青年が圧倒的なスピードで両手を振るうと、一瞬で粉々になった。

 全く目視できなかった……。あの双剣を驚異的な速さで操る力量……。


「アタシの名前は――マルカ・クラウスス。アンタ……何者?」


 アタシの問に東条エンマは元気のいい笑顔で答える。

 双剣が黒い炎へと変質していき……やがて一つの塊になった。

 さらに、青年を中心に辺りの瓦礫を全て黒い炎が燃やし尽くす。


「俺は、優勝者シードだ。……いくぜ、解放リベレイト――”憤怒の魔剣”」



「エンマよ、この娘……やはりただの人間だ」


 俺は、契約する神魔である――魔王サタンの言葉を聞き前を見る。

 そこには、この町を襲ってきた連中の一人である少女が佇む。

 フリフリとしたメイド服に、ツインテールで紅色の赤い髪。

 何より印象的なのはその左目にある”Ⅵ”のマークだ。


「強そうか? まぁ、どうせ負かして――っ!」

「はぁ……。バカ者が、殺さずにすむ相手に見えるのか?」


 俺はニヤリと笑い、片手剣になった武器を肩にのせる。

 サタンのおっちゃんも、毎回知ってる癖に聞いてくるよなぁ。

 それ以外の選択肢なんて最初から存在しないっての。


「始祖の吸血鬼に比べたら可愛いもんだぜ。メイドさんだし」

「最後の強調する必要があるのか。あれはコスプレとかいうのだろう?」

「うっわ……。今の喋り方、オッサンくせぇぞサタンのおっちゃん」

「誰がおっちゃんか! デコピンするぞ貴様!」


 憤怒の魔王のくせに、怒り方が可愛いことには触れないでおこう。

 始祖の吸血鬼との戦いからまだ数日だが、充分戦えるくらいには回復した。

 俺が目覚めた時には、奪われた、らしい。


「何処の誰が始祖の吸血鬼を倒したんだろうな」

「さぁな……。エンマよ、差し当たってこの娘に事情を聴くとするか」

「だな、この町で何が起きてるのか知らねぇが……」


 マルカ・クラウススだったか、そう名乗った少女は動かない。

 俺を慎重に観察してるのか、力を計ってるのか。

 真意は掴めないが、少なくとも俺が戦って止めるしかないのは間違いない。


「アンタを殺して、救ってあげる。だから――


 マルカ・クラウススはそう言うと人差し指で俺を指す。

 同時に、彼女の周りには謎の霊体が無数に舞い踊る。

 襲い掛かる霊体を全て――憤怒の魔剣を一振りして焼き払う。


「お前を負かして、救ってやるぜ。だから――

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