第43話 最強の灼聖者VS最強の契約者

「なるほど……。どうやら――貴方が、一番の障壁のようだ」


 私は一人の青年を見据え、確信の言葉を口にした。

 冴えない容姿に、覇気のない雰囲気。

 凡そ強さとは縁のなさそうな青年だが、放つ殺気は過去に覚えがない。


「ゴール、貴方はそれでいいのですね?」


 青年の背中に抱き着いているかつての仲間へ私は問いかける。

 私を除けば、灼聖者の中でも彼女に並ぶ者など一人としていない。

 信念よりも、自身の心に委ねるのが彼女の在り方。

 故にこそ、彼女は強く、奇跡を司る――金色の灼聖者なのだから。


「うん……。咲夜、バイバイなの」

「ええ、お別れのようです。私に――勝てると考えているのですか?」

「私は負けないの……。咲夜は知ってるでしょ?」


 そう――彼女の用いる力は”奇跡”。

 不可能を可能とし、絶対の壁を打ち砕く黄金の力……。

 相手が強者であっても、神であろうとも、勝機を生み出す。


「おやおや、貴方の力は――使ことを忘れたのですか?」


 私は、十二の可能性を束ねる――共有の灼聖者。

 他の十一人、その全ての力を私は振るうことができる。

 そのため、私と彼女が戦えば、文字通りどちらが勝っても不思議はない。

 とはいえ、私にとっての問題は彼女ではなく――


「ゴールは下がってていいぞ。俺だけで――充分だ」


 ……やはり、この青年はただの契約者バトラーではないようだ。

 私が”願望”の力を行使しても、影響がまるでない。

 恐らく、藤原勘助を殺したのはこの青年だろう。


「私は共有の灼聖者リーベ、有する時数字は”Ⅰ”――貴方の名をお尋ねしても?」


 無表情な青年は、私の問に不敵な笑みを浮かべる。

 さらに青年の周囲に黒い砂が集い、辺りの木々を、命を殺し尽くす。

 ゴールや仲間と思われる人物を手で追い払うと、名乗った。


「俺は田中太郎だ。加減は――しないぞ?」


 田中と名乗った青年は、眼の契約紋をこちらにギロリと向ける。

 直感的にコレはまずいと、私の経験則が全身で危機を察知した。

 私は瞬時に”共有”の力を使い、彼の位置を共有させ、一瞬で距離を詰める。


「知っていますよ。貴方のソレは、脅威ではない」


 彼が反応するよりも速く”魂への介入”を行使し、意識を逸らす。

 念には念を入れて、”奇跡”の力を追加で腕に付与。

 さらに、”無へ還す”虚空の灼聖者の力を使い、脇腹へ一撃入れ――


「悪いが、その力はもう――

「――ッ!」


 ”願望の体現”により、彼の後方へ距離をとる。

 ……危なかった。

 ”奇跡”の行使という判断が僅かでも遅れていたら、死んでいた。

 能力の選択を誤れば、いつ殺されてもおかしくはない……。


「これは……。貴方の力は契約者バトラーどころか、神魔しんまの域すら超えている」


 これでは……まるで、あの二人――

 空蝉春草やギルバのような、神の力を振るえる人間。

 いや、そんなはずがない……。

 そうだ、ここへ来る前、空蝉春草は私になんと言っていた?


『君達には――にえとしての役割を期待している』


 まさか、この青年が、貴方の好敵手だとでも?

 だとすれば、何としても今、ここでこの青年を仕留める必要がある。

 私は、灼聖者は、もはや不要な存在だと言うのですか……。

 

「なぁ、お前はさ、どうして戦ってるんだ?」

「……」


 田中太郎から戦意が消えるが、隙はない。

 私が動けば迷わずに殺すだろう、彼は既に私よりも強い。

 彼が私に問うてるのは、戦う理由ではなく、死にゆく理由だろう。

 このまま戦えば、必ず自分が勝つと確信している……。


「どうして――俺の前立つ? お前は、?」

「信念のため、自分の理想のために――貴方を殺します」


 私の答えが気に入ったのか、田中太郎は優しく無言で笑う。

 互いに意志を、信念を貫くなら、力を持って相手を下すしかない。

 私は――人間という種を愛している。

 だからこそ、神の力を振るうために、あんな眼をする青年を許容できない。


「さぁ、始めましょう、戦いを――」


 ゴール、貴方の――金色こんじき灼聖者リーベの力を借りるとしましょう。

 黄金の光が私を中心に広がり、形を成す。

 金色に輝くソレは翼となり、剣となり――反撃の狼煙のろしとなる。

 相手が絶対強者であればこそ、その真価を発揮する力――それこそが”奇跡”。


「貴方という絶対の壁は、私がここで――撃ち滅ぼします」


 黄金の翼を羽ばたかせ、空を舞い、金色の剣を掲げる。

 辺りは黄金で満ち、あらゆる可能性の集合体――その一撃。

 ひとたび私が剣を振れば、彼が如何に強くても、意味はなく。

 困難であればある程に、私に勝機が生まれる。


「さようなら――田中太郎。貴方は、とても強かった」


 私は覚悟と敬意を持って、剣を振り下ろす。

 黄金の一撃が彼へ一直線に向かい、勝利を確信したその刹那――

 全ての光は一瞬にして――


「お前さ――勘違いしてるぞ? 奇跡ってのは……」


 私の渾身の一撃は彼に届くことはなく……。

 奇跡は起きず、私が勝利を掴むこともなく。

 彼は手の中の砂を握ると、私を見据え言う。


……生まれないぞ?」

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