第42話 共有の灼聖者

「ふぅ……。やっとギャルゲに集中できるぜい!」


 俺は自分の部屋で、念願のギャルゲーに勤しんでいた。

 いつもいつも、何故かプレイに邪魔が入るのだ。

 今日こそはと、メデバドとゴールを膝に乗せ、ソフトを起動する。


「楽しみなの! 私、ゲームとかしたことないの……」

「我、狭イノ嫌イ……。汝、モウ少シ横ニズレロ」


 メデバドがゴールにスペースを要求していた。

 死神がギャルゲするために、敵幹部にお願いするのはどうなんだ……。

 シャボン玉がフェリシア邸に攻めて来てから一時間と少し。

 何故か、ゴールも参加することになった……。


「ギャルゲって三人で鑑賞する物じゃないぞ、絶対……」


 ――ガチャリ。


 と、俺がツッコミを入れていると部屋のドアが開く。

 入って来たのは、真冬ちゃんだ。

 前とは違い、俺やメデバドを見ても、もはや動揺しなくなっていた。


「はぁ……。ふふ、二児のパパ感が凄いわ」

「おい、誰がパパか! それで、皆は目覚めたのか?」


 第一声に失礼極まりない言葉を浴びせてくる真冬ちゃん。

 そういえば、吸血鬼にも子ずれと間違われたことあったな……。

 俺ってそんなにオッサンぽいのだろうか、中々にショックだ。


「ええ、全員が目覚めたわ。下で会議よ、もうすぐ敵が来るかもしれない」

「おう、任せた。俺はギャルゲするぞ。今日こそ満喫するんだ!」

「その子にも、話を聞かないと始まらないわ……」


 真冬ちゃんはゴールを指さし、深いため息をつく。

 俺が参加しないことは華麗にスルーしてくる真冬ちゃん。

 確かに、敵の情報は今の所、ゴールに聞くほかにない。


「ほれ、呼ばれてるぞ、行ってこい」

「田中君が一緒じゃなきゃ教えないの……」


 俺にしがみつき、駄々をこねるゴール……。

 まじで子供の面倒を見てる気分だ、めんどくせぇ!

 仕方ないので、ロリっ子二人を両腕にぶら下げて一階に下りる。

 すると、見慣れた奴らが揃っていた。


「おやぁ! お久だねぇ、ボクチンのこと覚えてるぅ?」

「よう、世話になったな。しかし、その年で子持ちだったのか?」


 室内なのにサングラスかけ、黒いコートの渋い男。

 そんなグラサンの契約する悪魔の……確か、ファントムだったか。

 悪魔の方は久しぶりに見たが、相変わらず気色悪いな。

 二人ともソファで寛いでいるが、恰好的に違和感しかない……。


「よだれ垂らしながら、ゴールとメデバドを見るな、ロリコン悪魔め」

「ぐへへぇ。大丈夫、ボクチン紳士だから食べたりしないよぉ」


 悪魔の視線がウザイので、メデバドを放り投げる。

 綺麗に回転しながら悪魔の膝に着地するメデバド、シュールな絵ずらだった。

 最初は喜ぶ悪魔だったが、メデバドを見て徐々にガタガタと震えだす。


「あれぇ? なんかとんでもない格の高さを感じるよぉ」

「あ、ソイツ死ノ神だぞ。気を付けろよ」

「……ふぇ? ひぃいい!」


 ロリコン悪魔が幼女口調で怯えながら姿を消した。

 割と本気で怖がってたな、まぁ一応は最強の神魔らしいからなぁ……。

 メデバドの新しい使い方を見つけてしまった。

 あと何気に、メデバドの力を初見で見抜く悪魔も普通じゃない。


「タロウおはよう! なんか、知らないうちに人が沢山だね!」

「お、スノウも起きたか。無事で良かったぞ」


 フェリシア・ルイ・スノウ。ここの家主だ。

 報告もなく、真冬ちゃんを居候させたりしてたけど、怒ってる様子はない。

 むしろ、少し仲間が増えて嬉しいとか思ってそうな顔だ。

 スノウの隣には、俺を殺そうとした着物美少女もあくびしながら座っている。


「このメンバーだけで、敵を返り討ちできる気がするんだが……」


 俺が今まで出会った契約者バトラーが勢揃いだ。

 しかも、今回は全員目的が共通してて、端的に言えば仲間ってことになる。

 と、それぞれが挨拶を済ませると、皆の視線は当然ゴールに集まった。


「……すー。ハッ! 眠ってない。全然眠くないの!」


 俺の背中で寝息を感じると思ったら寝てたのか……。

 そういえばコイツ、昼寝したいから来たの忘れてたぜい。

 本当に敵のナンバー2なのかと疑いの目が俺に向けられる。


「……えーと。ゴールは敵の幹部で多分、お前らよりも強いぞ」


 出会った時に感じた力や殺気はそこが知れなかった。

 今の俺は性欲がないのは勿論、並の事じゃ動揺しない。

 だが、あの時、一瞬でも危険だと本能が信号を鳴らした。

 少なくとも、あの吸血鬼よりも強いのは間違いないだろう。

 

灼聖者リーベは、一人でも優勝者シードに匹敵するの! 

 多分、貴方達で一人が限界だと思う……」


 ふむ、一人はメデバドが既に殺している。

 そして、ゴールは俺達と戦うつもりはない。

 十二人で構成される組織なら、あと十人ってことか。

 それって戦力差かなりきつくないか……?


「何か爆発音がしない? 今日、お祭りとかあったかな?」


 と、スノウ。相変わらず天然ボケだった……。

 恐らくは始まったのだろう、この町で既に灼聖者と契約者が殺し合ってる。

 スノウ以外は全員が事態を察して、窓から外へ出る。


「どうやら、間違いないようね……。それで――どうするのかしら?」


 真冬ちゃんは優雅に髪をなびかせ、問いかける。

 恐らくは他の奴らも同様なのだろう、俺を見てきた。


「うるさいとギャルゲに集中できん。早く終わらせるぞ」

「我、頑張ル! 汝、我モオンブシテ」


 メデバドがつんつんと、服のすそを引っ張ってくる。

 ゴールをおぶってるのが羨ましいのだろうか?

 というよりも、俺って戦ってる時に大抵は誰かをおぶってた気がする……。


「――ふむ。一般人もただでは済まないなこれは……」


 グラサンの呟きに皆が頷く。

 ここ、フェリシア邸は森の中――山を少し登った場所にある。

 そのため、町の様子が庭から確認可能なのだ。

 何処を見渡しても、まさに地獄絵図だ。


「大変だよ……早く止めないと! トウカ、行こう!」


 スノウと着物美少女はそれぞれ召喚サモンで神魔を呼び出し、町へ迷わずに向かう。

 それと同時に、途轍もない気迫を放つ執事服の男が森から歩いてきた。


「――来たか。俺達の町を荒らしたのはお前であってるか?」


 一人の来訪者に俺は問いかけた。

 その男の左目を見れば、”Ⅰ”のマークが燃えている。

 気迫や佇まい、雰囲気、どれをとっても常人ではない。


「ええ、初めまして。私は烈火咲夜れっかさくや、以後お見知りおきを」


 見た限りでは年齢は俺とそこまで離れていない。

 だが、声や仕種、なにより――その目には貫録を感じる。

 俺も眼の契約紋を起動させ、敵のリーダーを見据えた。


「そうか、なら――?」

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