第二章

五天竜集結編

第28話 源植の魔女

「人を探しています」


 そう呟いたのは緑色のワンピースをきている若い女性。

 その手に、恐怖のあまり泣いている成人男性の首元が掴まれている。この男性は契約者バトラーであり、腕には契約紋が浮いていた。

 だが、その契約紋も消えかけており、神魔の死が近いことを知らせている。


「し、知らない! ……いやだ、死にたくない!」

「フェリシア・ルイ・スノウという名前だそうです」

「そんな奴、本当に知らないんだ!」


 その言葉を聞き、興味が失せたのか男性から視線を逸らす。

 泣きじゃくる男性の下には大量の花が咲いていた。

 そして、これらの花は全て――だ。

 

「この町にある組織の長だと聞いたのですが……残念です」


 その言葉は――地面に転がる、否、咲いている神魔と同様の死の宣告。

 男の表情は恐怖や絶望で染まっていく。

 この男は六大悪魔の一体と契約する者であり、強者の部類だった。だが、その悪魔も一瞬で


「い、一体、……この能力は何なんだ!」

「花は好きですか? 貴方も美しい姿にきっとなれます」


 男の体から芽が生え、つぼみになり、色々な花がゆっくりと咲いていく。

 腕、足、顔、目、あらゆる場所から次々と植物へ変質していく。

 男は必死にもがくが、体の大半が木々や花になっていて動けない。ゆっくりと、自分でないモノに変わって死ぬ恐怖が男を絶望させた。


「ぎゃ、や、だ、死に、たくなぃい゛」


 喋ろうとするが、口の中からも芽が生え、薔薇が咲く。

 そして、男は見た。目の前の女性、その頭上にいる存在。そこには――幾千の花が翼になり、手足は枝の竜。


源植の竜インピアトオリジンドラゴン、それが私の契約する神魔です」


 これだけ言えば、自分が分かるだろう、と。


 遥か昔、神龍しんりゅうと呼ばれる一体のドラゴンが五体に分離した。それを人々は――五天竜と呼び、神から生まれた伝説の竜として崇める。

 伝承では、その一個体で大天使数体に及ぶ戦闘能力を有するという。


「ふふ、やはり――死から生まれる新たな命は美しいです」


 朝の光が満開の花達を照らし、一体の竜が咆哮をあげる。

 その瞬間、風が吹き荒れ、花びらが辺り一帯を舞う。何処か神秘的で美しいその光景に女性は笑みを浮かべた。


「けれど、花は枯れてこそ――刹那的な煌めきが生まれます」


 一人の人間を殺めたことへの罪悪感などは微塵も感じさせない言葉。

 彼女にとっては姿だけなのだ。

 善行ではあっても悪事ではないと信じて疑わない。


「……最後の一人は何処にいるのでしょうか?」


 彼女は事前の調べで、この町に契約者の集うチームがあると聞きつけた。

 そして、その長は五天竜の一体と契約しているとも。


「クレアさん、最後の一人を見つけたですぅ」


 何処からか、彼女、クレアの背後に子供が出現していた。

 忍者装束にんじゃしょうぞくを身に纏い、表情はおろか顔すら把握できない。

 声や背丈から子供であることは伺えるが、性別は不明。


「まぁ! レイヤー君、偉いですね」

「……あの、レイヤーじゃなくてレイアですぅ」

「……わざと、間違えたに決まっているでしょう?」

「酷いですぅ、絶対に素で忘れてますぅこの人……」


 不服そうにプンスカしてるレイアの周りにも一体の竜が飛び回っていた。

 紫色の鱗に、口元からは赤色の煙を吐いている。

 当然、通常のドラゴンなどではなく――五天竜が一体。


「二人はもう向かったのですか?」

「はい、フェリシア・ルイ・スノウの元に向かってますぅ」

「仮にも組織の長です、油断せずに行動するべきですが……」

「あの二人は脳筋なので多分もう戦ってますぅ」


 二人は仲間の姿を思い浮かべ、ため息を零した。

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