第29話 フェリシア・ルイ・スノウ

「スノウ、サングラスが言うには吸血鬼は死んだらしい」


 スマホの通話を切り、その内容を伝えた少女は美しい着物をきている。

 名は――肆展翅東花してんしとうか、四体の大天使と契約する強者。


「そっか、これからどうしよう……」


 返事をした美女は金色の長髪に碧眼、その表情は冴えない。

 名は――フェリシア・ルイ・スノウ、最古の竜エンシェントドラゴンと契約する者。


「……オレとお前の二人だけか。いや、サングラスは仲間に引き込める」


 始祖の吸血鬼との戦いで仲間の大半を失い、二人だけとなっていた。

 サングラスの男――虞羅三ぐらさんタケシと組んだとしても三人。

 とても前のような組織と言える人数ではなかった。


「強い仲間を探さないといけないね!」

「あのサングラスは戦闘では雑魚だが、能力は便利だ」

「可哀想だよ! 多分タケシは弱くないよ……」


 四体の元素の天使エレメントを自在に召喚サモンし、四段階の解放リベレイトを可能とする。

 そんな化け物じみた存在と比べれば当然の結果だった。

 この二人だけでも他のチームと戦い勝利することは難しくはない。


「とりあえず、スノウの家に行くか」

「うん! 帰ってないからタロウにも謝らないと……」


 住宅街を抜け、二人は森の奥へと進んでいく。

 フェリシア邸と呼ばれる洋館を目指していた。


「スノウ! ……何か、来る」


 東花が警告するのと同時に、木々から二人組の男達が現れる。

 その男達の右腕には契約紋が輝いている、契約者バトラーなのは間違いない。


「どちらが、フェリシア・ルイ・スノウだ?」

「オイラ達は五天竜の契約者サ! 迎えに来たヨ!」


 屈強な男が本人確認をし、小柄な青年が独特な語尾で勧誘していた。

 スノウと東花の表情には警戒に色が浮かぶ。

 

「お前達、スノウに何の用だ?」

「そうか――お前の隣がフェリシア・ルイ・スノウか」

「なら着物のお前には用はないサ!」


 東花の言葉で確認を済ませた青年が契約紋を起動させ、攻撃を仕掛ける。

 水晶のような固まりを刃の形に造形し、勢いよく東花に放たれた。

 五天竜の力は強力にして絶大、通常の契約者ではなす術はない。


召喚サモン! 来い――元素の天使エレメント


 次元を超え、眩い光と共に四体の大天使が顕現けんげんする。

 放たれた水晶は全て、藻屑と消えて東花に届くことはなかった。

 二人組の男達は驚愕に打ち震え、目の前の少女を睨みつける。


「……大天使が四体か、随分と厄介だな」

「……そんな、オイラの力が簡単に弾かれたヨ……」


 フェリシア・ルイ・スノウ以外に自分達と同等以上の相手との遭遇。

 想定外の事態に二人は動揺していた。

 五天竜と契約する者であっても、この少女に勝つのは容易ではない。


「なんだ、五天竜でもスノウより弱いじゃないか」


 東花のその嘲笑った言葉に二人の男は怪訝な顔を向けた。

 同じ五天竜の契約者であっても代償次第で差が生じる。

 本来であれば、二人でスノウを相手取るつもりでいたのだ。

 

「どうして私を仲間に引き入れたいの?」


 スノウが根本的な疑問を屈強な男に問いかける。


「五天竜の契約者であれば知っているはずだ」


 五天竜は五体揃って初めてその真価を発揮する。

 神龍の力を疑似的に振るうには、集結する必要があるのだ。

 故に、スノウが問うたのは、何故――


「三体の神を相手にするつもりだからだヨ!」


 小柄な青年は真意を――その目的を口にした。

 三体の神、それは前回の優勝者の中で、上位に位置した神々の通称だ。

 超位の神との戦いは避けるのが定石でもある。

 しかし、それを理解しているのは前の神魔戦争で遭遇した一部の神魔だけだ。


「厳密には、そのうちの一体と戦うことになるからだ」


 屈強な男の言葉には確信めいたものを感じさせる。その真剣な顔付にスノウと東花は話に耳を傾けた。


「それって……あの時に会った人かな?」

「俺の契約紋を直した時ノ神か」


東花とスノウの頭の中ではある人物が浮かんでいた。

二人が唯一知っていたのが空蝉春草という青年だ。


「……何? 時ノ神だと?」

「オイラ達が警戒してるのは創造神の契約者だヨ」


 両者共に話が見えず、困惑していた。

 二人の男は創造神との戦いに備え、スノウを勧誘しに来た。

 しかし、時ノ神という思わぬ情報に頭を悩ませている。


「――ッ! なんだこれは!」


 東花が声を上げ、風の力を使いスノウと共に空中へ浮遊した。

 地面には大量の花が咲き、一瞬で辺り一面が変わる。

 二人の男とは常軌を逸した圧倒的な力。


「こんにちは、クレアと言います、向かいに来ました」

「脳筋どもは早く戻るですぅ。あ、ボクはレイアですぅ」


 花の翼、枝の手足という特徴的な竜の上から女性が挨拶をしていた。

 緑色のワンピースに何処か冷徹な眼差し、淡々とした口調。

 その背後にもう一人、忍者装束の子供が手を振っている。


「スノウさん、貴方の意志に関わらず、来ていただきます」


 クレアと名乗った女性はその言葉を最後に契約紋をスノウへと向ける。

 地面から大量の枝が生え、東花からスノウを引きはがす。

 スノウは体を拘束され、クレアの元へと運ばれていく。


「スノウ! くそっ、なんだこの能力は」


 大天使に指示を出そうと東花が振り返る。

 だが、元素の天使エレメントは一部が植物に変質していて動きを封じられていた。


召喚サモン、おいでヨ――水晶の竜クリスタルドラゴン

召喚サモンですぅ――猛毒の竜ポイズンドラゴン

召喚サモンだ――滅却の竜ディストラクションドラゴン!」


 それぞれの者達が契約紋を掲げ、言葉を口にする。

 呼び出された三体、そして、源植の竜インピアトオリジンドラゴンの計四体の竜が天を舞った。

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