第30話 肆展翅 東花

「新作プレイするの楽しみだぜぃ!」

「坊主、本当に家に行って平気なのか?」

「おう。あ、でも真冬ちゃんいるんだった……まぁいいか」


 俺はギャルゲーを購入することに成功していた。

 グラサンも目当てのエロゲーを入手できたらしい。

 その場で意気投合し、フェリシア邸に招待することになった。


「グラサンがさっき電話してたのって仲間か?」

「いや、正確には一時的に組んでいただけだ、ほら、あの着物の女だ」

「ん、ああ! 着物美少女か!」

「……坊主。自分を殺そうとした相手を忘れるのはどうなんだ……」


 あの着物美少女がそもそもの原因だったしな……。

 俺が抜きゲーで満足できなくなったのもアイツのせいだ!

 次に会ったらエロゲで培ったテクニックで攻撃してやろう。


「やっぱギャルゲはプレイ前が一番ワクワクして楽しいよな!」

「ほう、坊主、よく分かってるじゃないか」


 俺とグラサンは互いの手をガッチリと掴み、ニヤリと笑う。

 俺はギャルゲー、グラサンはエロゲを持ちながらスキップして家に向かう。 

 なんだか周りの人たちの視線を感じるが、……まぁ、些細なことだぜぃ!


「おかーさん、オジサンたちがスキップしてるよー」

「こらっ! 見ちゃだめよ。あの人達は病気なのよ……」


 お母さん辛辣すぎぃ!

 ダンディなオッサンと冴えない大学生がスキップしてたら当然か……。

 いや、多分というか間違いなく手に持ってるソレが原因なんですけどね。


「この森の先がフェリシア邸だったな」

「そうだぞ。家には一人仲間がいるぞ」

「坊主、仲間なんていたのか? ソイツもこっち側か?」

「いや、常識人だから気を付けろよ……」


 真冬ちゃんがいたらキレてそうな会話をしながら森をぬけていく。


「さ、……サングラス……。奴らが……」


 ん? 歩いているとボロボロの着物を着た露出狂が倒れている。

 いや、多分これ例の着物美少女だ、何してるのこの子。


「おい! どうした?」


 グラサンが心配そうに着物美少女に駆け寄る。

 とても前に殺し合いをしてた間柄には見えない。

 恐らく、一時的にとはいえ組む中で仲間意識ができたのだろう。


「五天竜の契約者バトラーが四人来た……」

「五天竜だと? なるほど、お嬢ちゃんでも流石に分が悪いな」

「ああ、逃げてきたが……どうすれば……」


 何やら着物美少女は考え込んでいるようだ。

 何かわけがありそうだな、後で事情だけでも聞いてみるか。

 ただ、その前に――これだけは言わなければ。


「おい、着物美少女。お前の所為せいで抜きゲーで満足できなくなったぞ」

「……お前はあの時の! 変な言い方をするなっ! くっ……」

「お嬢ちゃん、無理はするな。坊主フェリシア邸につれていくぞ」


 本当はタッチ系エロゲのテクで悶えさせてやりたいところだ。

 流石に怪我をしてる子をいじめるのも気が引けるのでやめておこう。


「で、お嬢ちゃん、何があったんだ?」


 着物美少女をフェリシア邸に招き、一階のソファーに座らせた。

 グラサンが何やら問いかけている。

 ぶっちゃけ俺はその辺の事情はどうでもいいので二階に向かう。


「スノウが、連れ去られた……」


 は? 今、着物美少女はなんと言ったのか……?

 ……なんで、スノウの名前がアイツから出てくる?


「着物美少女、その話、詳しく」

肆展翅東花してんしとうかだ、気色悪い呼び方をするな……」

「俺は田中太郎だ、で? なんでスノウの名前が出る?」

「スノウはこの町の契約者の集うチームの長だからだ」


 スノウが契約者バトラー……?

 言われてみれば、最初に仮面の悪魔が来た時もスノウの名前を言っていた。

 いや、この際それは重要じゃない。

 

「連れ去られたって、どういう意味だ?」

「スノウは五天竜の契約者だ、奴らには必要な力だったらしい……」

「……何処へ行ったのか分かるか?」


 スノウは唯一の家族だ、必ず助ける。

 直接会って、色々と問いただす必要もありそうだしな。


「……多分、あそこの山の頂上だ」


 東花の視線の先は窓の方向――大きな山が一つ。

 ……あそこの山か、確か四人組とか言ってたな。

 俺の家族に手を出したんだ、絶対に許さないぞ。


「そうか、ソイツら――

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