第38話 金色の灼聖者

「メデバド、お前――本当に強かったんだな……」

「……我、神様。偉イ、強イ、可愛イ!」

「いや、それ死神のキャッチコピーとしてどうなんだ……」


 俺の前でピースしながらドヤ顔してるのはギ・メデバド。

 死ノ神で最強の神魔……らしい。

 戦う姿を初めて見たけど、相手が弱くて強いのかよく分からん……。


「さて、帰るか。スノウは俺が連れてくから他の奴らは頼むぞ」

「承知シタ、我、頑張ル!」


 真冬ちゃんやグラサン、着物美少女の三人が地面に転がっていた。

 どうやら全員、意識がないみたいでピクリともしない。

 契約者でもない奴がどうしてこの三人に勝てたのか……。

 

「まぁいいや。どうせ考えても分からん」

「我、早ク、ゲームシタイ……」

「おう。帰ったら好きにプレイしていいから、行こうぜ」


 俺はメデバドと一緒にフェリシア邸に向かった。

 皆それぞれ空き部屋に寝かせて、一階のソファーに座る。

 メデバドはせっせと俺の部屋にあるパソコンに向かい、なにやらご機嫌だ。

 もう、俺が一緒にやらなくても一人で起動して遊べる様子。


「俺はお昼ご飯でも食べてくるか」


 駅前のたこ焼き屋さんにでも行こうかな?

 俺はそう決めると、財布を持って外に出る。

 歩いて数分、たまに買いに来るお店が見えてきた。


「ん、なんだあの子……。コスプレ……?」


 店の前で物欲しそうにたこ焼きを見つめる少女が一人。

 サラサラとした金色の長髪に、紫の瞳で左目に黒い眼帯。

 なにより特徴的なのはその服、ゴスロリ衣装だろうか……?

 一般人が着たら痛いレベルの服装だが違和感がなく、似合っている。


「あのあの! 私……コレ食べたいの!」

「え……。俺にたこ焼きを買えと?」


 俺を視界に捉えると、駆け足でこちらに来て第一声がコレである。

 初対面でここまで遠慮なく強請ねだる奴、初めて会った気がする……。


「何故に俺が君に奢る? 初対面だよな?」

「えーと……。私はゴールなの! 貴方のお名前は……?」

「オーケイ、ゴールお前にキックしてやろう」

「違う……名前がゴール。意地悪……」


 ゴール、名前からして日本人ではなさそうだ。

 少しボソボソとした喋り方だが、その声はとても綺麗だった。

 何となくだが、似た者同士な予感……。

 悲しいことに性欲を失ってから女性と無駄に出会うことが増えた気がする。


「俺は田中太郎だぞ。で、どうして俺に話しかける?」

「だって……。チョロそ……優しそうだから、買ってくれるかなって」

「……確かにお前は可愛い。だが、今の俺には通用しないぞ」

「うう……。藤原がいれば買ってくれたのに……」


 誰か友人と待ち合わせているのだろうか?

 ふむ、何となくだが、無関係な気がしない……。


「なぁ、その藤原って人、どんな奴だ?」

「えーと……私の部下なの。語尾に”ええ”ってつける変な人」

「……おうふ。それってスーツ着てて、眼鏡の男か?」

「うん。藤原がお願いすれば田中君もたこ焼き買ってくれるのに……」

「いや、そこはソイツに買ってもらおうぜ……」


 あれぇ、もしかしなくてもそれって……。

 どうしよう、メデバドが殺したアイツじゃね?

 ……なんというか、罪悪感もあるし買ってやるか。


「仕方ない……買ってやるぞ」

「やったの! 田中君は良い財布ひとなの……」


 俺が買って来ると、ピョンピョンと跳ねて喜んでいる。

 爪楊枝でたこ焼きを刺すと小さな口に運び、幸せそうな顔をしていた。

 近くのベンチに座り、パクパクと食べるゴールを眺めて、ふと思う。

 ……冷静に考えたらあの男の仲間ってことじゃね?

 

「なぁ、お前って……」

「私は――金色こんじき灼聖者リーベ。田中君は契約者バトラーだけど殺さないの……」


 俺の言葉を遮って、当然のようにそう言った。

 最初から俺が契約者だと知って話しかけてきたのか?

 さっきの質問は――あの男を殺したのがってことか……。


「アイツを殺したのは俺だぞ。それでいいのか?」

「田中君は良い人なの……。弱い藤原が悪い、けど――」

「――ッ!」


 それは一瞬のこと、刹那的な威嚇であり――だが、震える程の殺意。

 ゴールと名乗った少女は何もしていない……。

 今まで出会った相手でも、類を見ない圧倒的強者だと肌で感じる。


「私の有する時数字は”Ⅱ”なの。人の”奇跡”を司る灼聖者リーベ、藤原とは違う……私には勝てない。けど、たこ焼き買ってくれたから見逃すの」


 嘘を言っているとは思えない……。

 なら、口にした言葉は彼女の本心なのだろう。

 殺すか、生かすか――それを計っていたのか。

 最初に感じた親近感の正体はコレか、


「お前らは……どうして、俺達の邪魔をするんだ?」

「神魔は危険なの……。でも、田中君は大丈夫」


 彼女は俺をじっと見つめながら、左目の眼帯を外す。

 その眼には――”Ⅱ”のマークが燃えている。

 どうしてだろうか、この子はどうにも他人として見れない……。

 いつもの俺は――こんな目をしているのだろうか。


「咲夜から私が守ってあげるの……。もうすぐこの町に全員が来る」

「契約者を全て殺すつもりなのか?」

「皆は多分そう。でも、私は田中君を守ることにするの!」

「お、おう。けど多分、俺は一人でも平気だぞ」


 この町は戦場になるかもしれない……。

 密かに契約者同士で戦う今までとは規模が違う。

 神魔戦争を邪魔されれば、当然、契約者は強力して迎え撃つ。


「正直、戦うのめんどいの……。だから、さぼることにする」

「ええ……。お前、その組織で上位者なんじゃないのか?」

「うん、時数字は強さと序列でもあるの。私は二番」

「なんでお前が二番なんだ……」


 けど、この子と同等の力を持つ奴が沢山いるなら、相当ヤバイな。

 多分、この町でまともに戦えるの俺しかいないぞ……。

 スノウやあの三人も狙われることになる。


「なぁ、俺にも仲間が数人いる。そいつらも見逃すか?」


 もし、アイツらを殺すつもりなら――俺が今、この子を殺すべきだ。

 だが、俺のそんな心配は杞憂だったらしい……。


「うん、いいよ。でも、守るのは田中君だけなの……」

「そうか、なら――家に来るか?」

「行きたい! お昼寝したいの!」


 なんやかんやで、敵の上位者を引き抜いてしまった……。

 たこ焼きで買収される敵幹部か、意外とこの町は平和かもしれん。

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