第39話 虚空の灼聖者

「ただいまっと」


 たこ焼きで敵幹部を買収して家に連れてきてしまった……。

 敵だと伝えたらみんな怒りそうだしなぁ……。

 ふむ、ちょっとロリっ子拾ってきた、とでも言っとくか。


「お邪魔します、なの……。田中君ってお金持ち……?」

「いや、俺の家族が凄いだけだぞ」

「私、お金大好きなの……。 黄金は”奇跡”の象徴なの!」


 ゴールと名乗った少女はフェリシア邸のソファーで寛いでいた。

 ゴスロリ衣装に気品のある雰囲気で絵になっている。

 そして――そんな彼女を見て、何処からかため息が聞こえてきた。


「まさか、とは思うけれど……。その子、敵かしら?」

「あ、真冬ちゃんだ。目覚めたのか」


 腰まである黒髪、透き通るような緑色の目に制服姿。

 頭に手をあてながら、ため息まじりに質問してきたのは神崎真冬。

 もの凄いジト目を俺に向けていた……。


「私は――金色こんじき灼聖者リーベ、名前はゴールなの!」

「……」

「あ、いや、これは……その……」


 俺が説明する前に自己紹介してしまうゴール。

 思いっきり敵だってバレたじゃねぇか……。

 ジト目がゴミを見る目に……。


「はぁ……。それで、どうしてこうなったのかしら?」

「たこ焼きあげたら、懐かれた……」

「仮にも敵組織の人間が、そんなにチョロイわけがないでしょう……」


 デスヨネ、いや、俺もそう思いますよ……。


「私、チョロくないの……。田中君がチョロいだけ」


 ゴールも悪い奴ではなさそうだ、と真冬ちゃんも感じたのだろう。

 最初ほど警戒せず、少し砕けた表情を見せている。

 容姿の通り、まだ幼く純粋で無邪気だ。

 だが――何処か危うさのある、あの瞳を思い出す。


「なぁ、ゴールはどうして契約者バトラーを敵だと思うんだ?」

「ニュースとか、見てみるといいの……」

「……?」


 俺は疑問に思いながらも、テレビをつける。

 すると、ニュースで様々な事件やら事故が語られていた。


「これの殆どは神魔と契約者がしたこと、なの……」

「なるほどなぁ……」


 コレが事実かどうかは問題じゃない。

 当然、大抵の人間は私利私欲のために力を使う。

 俺だって脱童貞のためにメデバドの力で好き勝手している。


「あら、証拠でもあるのかしら?」

「これだけ暴れても、警察が捕まえてないのが答え……」


 神魔戦争に勝つ以外にも力の使い道なんて考えれば無限にある。

 恐らくゴールは、しっかりとした基準を自分の中に持っているのだ。

 だが、他のメンバーはそうではない、のかもしれない。


「他の灼聖者リーベは、契約者ってだけで殺すつもりなのか?」

「みんな価値観とか違うの……。でも、利害は一致してる」


 それぞれ思惑はあれど、神魔を排除することが目的なわけか……。

 だからこそ、ゴールは俺と戦わず、対話した。

 多分、他のメンバーはゴールみたいにはいかないだろう。


「……田中君、誰かきたの……」

「――ッ!」


 ゴールの真剣な声に俺と真冬ちゃんは息を吞む。

 その言葉の意味するものは――敵襲。


「俺が行く。真冬ちゃんはスノウ達を頼むぞ」

「貴方なら、心配は必要なさそうね……。精々頑張りなさい」


 俺は玄関のドアを開け、フェリシア邸の前に佇む男を視界に捉える。


「ほう、俺様が攻撃をする前に察知したか。ゴールが捕まるだけのことはある」


 白――最初の印象は真っ白な男であることだ。

 綺麗な白髪に白いワイシャツも全て、全身が白い。

 左目には”Ⅳ”のマークが燃えている。

 容姿の印象とは違い、その口調は好戦的で品定めするように俺を見る。


「誰だお前、なんか用か? 俺、この後ギャルゲで忙しんだけど」

「ふん、無意味な質問だ。お前も俺様の、敵ではないな」


 その言葉を合図に無数の白い球体が辺りに出現する。

 風で舞っていた葉が白い球体に触れると、一瞬で消えた。

 ……いや、今、何がアレに触れて消えた?

 危険な能力なのは理解した、けどこれ似てるよな……アレに。


「お前さ。その年齢で、しかも人様の家でシャボン玉で遊ぶとか……」

「俺様の力をシャボン玉、だと……?」


 あれ、なんか地雷を踏んだっぽいなこれ……。

 今までとは雰囲気が違う、本気になったか。

 場を和ませようと軽いジョークのつもりだったんだけど……。


「もしかして気にしてたのか? 悪い、何歳でもシャボン玉したって良いよな」

「……命乞いを聞いてやるつもりだったが、やめだ」


 あれぇ? 何か余計に怒らせたらしい……。

 白い球体はその形状を変え、一つの大きな剣になる。

 どうにも能力が分からない、いや、覚えてられないのだ。


「俺様は――虚空こくう灼聖者リーベ、エル・デイリー・ギルス。お前を、消し去る」


 ギルスと名乗った男が右腕を振り下ろすと、剣がゆっくり飛んでくる。

 なるほど、避けるのは簡単だけど、フェリシア邸が消し飛ぶ。

 正面から受けるしかないらしい……。


「めんどくせぇ。――


 俺は眼の契約紋を起動させ、死を付与する。

 大剣は一瞬で形を保てず、朽ちて崩壊していく。

 俺の視界に僅かでも入った、その瞬間から存在を赦されない。


「――なに? 馬鹿な、なんだコレは……?」


 理解ができないのか、次々に球体を生み出すが、瞬時に死んでいく。

 俺の視界にいる限り、どれだけ力を出しても意味がない。


「お前、ゴールを助けに来たのか? 家の中で寛いでるぞ」

「……そうか。奴は仮にも俺様の上司なんでな、返してもらう」

「いや、連れて帰っていいぞ。戦うのめんどいし……」


 すると、ギルスと名乗った男はハッとした顔をする。

 次第にその表情はイライラとしたモノへと変化していく……。


「まさか……。おい、ゴールがお前についてきたのか?」

「おう。たこ焼きあげたら、昼寝したいって言うから……」

「……俺様としたことが、しくじったな。無駄足だったらしい」


 心配して来たらコレだもんな、ゴールの部下は大変そうだ。

 話していて、コイツもそんなに悪い奴とは思えない。

 恐らく、組織の理念とコイツの信念は別にあるのだろう。


「おい、お前。俺様は帰るが、あのバカに伝えておけ、契約者バトラーの側につくのなら、灼聖者リーベは容赦しない、とな」


 ため息とつくとそんなことを言った。

 ふむ、何となくだが、真冬ちゃんに近いものを感じる。

 コイツもかなり苦労人なのかもしれない……。


「あの上司だと疲れそうだな、頑張れ……」

「お前も、次はない……。この町からさっさと去れ」


 殺気を放ちながら警告してくるが、優しさだと悟る。

 契約者だとしても、コイツも無暗に人を殺したくはないのだろう。

 俺が思っていたよりも、危険な思想の連中ではないのか……?


「お前のリーダーに言っとけ、用があるなら俺のところに来い」

「ふん、咲夜には俺様が伝えてやろう」


 ……どうやら本当に帰るらしい。

 俺としては神魔戦争を邪魔しないなら、興味はない。

 お互い、無駄に戦う必要もないのだ。


「まったく……。掴み所のない奴だ」


 ギルスはそう言うと、後ろ向きになり手を振って去った。

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