第24話 始祖の吸血鬼VS田中太郎Ⅰ
「俺は子持ちじゃないぞ、童貞だぞ」
背中に幼い少女を乗せた青年が虚しそうに呟いた。
この青年の血を取り込めば恐らく余は完全に伝承を取り戻す。
平凡な容姿に覇気のない口調と振舞い、凡そ強くは見えない。
「君も
「……まぁ、俺にも負けられない理由はあるぞ」
そう、全ての
この青年、名は……田中太郎と言ったか?
きっとこの青年にも大層な訳があるのだろう。
「君に恨みはない、だが――余は君を殺す」
余は始祖の吸血鬼、そして始祖である限り創造神を討たねばならぬ。
この肉体、瑠璃という名の少女との約束も果たさなければならない。
一人の少女のために他の人々を殺す、……理解はされまい。
「いや、急いでるから戦わないぞ」
「君で最後だ、君の血で余は完全に至る」
「めんどくせぇ、話が通じないタイプかよ……」
「せめて――苦痛なく、死を与えるとしよう」
契約紋を起動させ、
並の相手ならば即死しても不思議はない程の大火力。
とはいえ、血を得るために形が残る程度には調整する。
「ギャルゲーヒロインが俺を待ってるんだ、邪魔すんな!」
次の瞬間――青年に触れることすらなく、炎は塵になり消えた。
……いや、よく見ればその眼には契約紋が浮かんでる。
今の攻撃を触れずに防げる者がどれだけいるだろうか。
これは……認識を改めるべきだ、この青年は強い。
「その言葉は聞きなれないが、……恋人が待っているのかい?」
「え゛……ああ、うん、そうだ、恋人だ」
何故か急に青年は目をそらし、何処か動揺している。
なるほど、そうか、恋人のために彼は戦っているのだろう。
彼もまた、信念を持った一人の
で、あるならば、余も全霊をもって答えるしかあるまい。
「魔王サタン、貴殿の力を借りるとしよう」
東条エンマから取り込んだ黒い炎を両手に出現させる。
この力には散々と苦しめられた、防ぐ手段は殆どない攻撃。
だからこそ、自分の力として使用すればこれ以上ない武器になる。
「メデバド、あの黒い炎を知ってるか?」
「我、最強、他ノ神魔ノ力ナド知ラナイ」
青年の背中に常に纏わりついている少女は神魔なのか?
余も神魔、本来であれば近い存在としてある程度は感知できるはず。
……だが、欠片程も力を感じない。神魔ではないのか?
始祖たる余が感知できない高位の存在など神くらいなものだろう。
「この黒炎を防ぐことはできぬ、さて――どうする?」
この攻撃は特性により防御の概念を無視することができる。
余は異能を取り込むことで防いだ、だが、この青年には防ぐ手段はない。
黒炎が青年へと一直線に向かう、僅かでも触れれば燃え尽きる。
「防ぐ? そんな必要はない――”その力はもう死んでる”」
「なっ、……馬鹿な、これは一体?」
青年に届く前に塵になり、黒炎は消え失せた。
これは……もう一度使い、彼の能力を把握する必要がある。
っ! どうなっている? ……能力が、使えない……?
「もうその力は使えないぞ、言ったろ”死んでる”って」
全身の血の気が引いていくのを感じる。
……余は一体、何に挑んでいる?
頭に過るのは目の前の青年が絶対的強者である可能性。
「まさか、……君は、
「逃げるなら今だぞ、これ以上やるなら容赦はしない」
……逃げるべきだ、この青年は別次元の強さ、底が知れない。
だが、ここで敗れるようでは創造主を淘汰することなど不可能。
余は、相手が誰であれ、止まることなどできない。
今まで命を奪った幾千もの契約者に報いるためにも、敗北など許されない。
「余は、君を倒し最強に至る。止まるわけにはいかぬ」
余の言葉を聞き、青年の纏う雰囲気が急変した。
なんだ? ……不気味な程に冷徹で、景色を見ているような眼差し。
人間らしくない、いや、らしさを失った眼だ。
「そうか、なら――殺すぞ」
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