第23話 死ノ神とギャルゲー

「メデバドー、俺、気が付いたんだ!」


 俺、田中太郎は今、自分の部屋でギャルゲーをプレイしていた。

 性欲を失い、生き甲斐であったエロゲーで楽しめない苦悩の解決策、

それは――もうエロ関係なくストーリー楽しめばよくね? である。


「汝、本来ノ問題点ヲ見失ッテイル」

「う、うるさいやい!」


 そう、俺は今、美少女のえっちぃシーンを見ても何も感じない。

 ……知ってる、これじゃただのゲームオタクだ。

 だが、考えてみてほしい、常に賢者タイムで欲情しないのにエロシーンをみても、

親の交尾を見てしまったような複雑な気分にしかならないのだ。


 ――ガチャリ。


「……貴方、何をしているのかしら?」


 俺の部屋のドアを開け、言葉を発した人物は神崎真冬。

 相変わらずの制服姿で可愛らしい顔立ち、なのだが……。

 なんだか、物凄くドン引いた視線を感じる、まぁ気のせいだろう。


「真冬ちゃん、固まってどうしたの?」

「その子供は誰かしら?」


 俺はメデバドを膝の上に乗せて一緒にギャルゲーをプレイしている。

 そして、メデバドは人の姿だとかなり幼い。

 当然、真冬ちゃんからすれば見知らぬ子供と遊んでるように見えるのだろう。


「我、子供デハナイ」

「グハッ、め、メデバドさん、痛いって」


 メデバドは両手を挙げながら、真冬ちゃんに抗議していた。

 挙げられた腕が俺の顔面にクリーンヒットする。


「妹さんかしら? こんな小さな子となんてゲームしてるのよ貴方……」


 ああ、そうか、俺が小さな女の子にギャルゲーさせてるように見えたのか。

 いや、神様にやらせてるんだからある意味もっと酷いのだが。


「コイツは俺と契約する神魔だぞ」

「あら、そうだったのね」

「真冬ちゃんもギャルゲーしようぜ!」

「……よく考えたら、神魔とゲームってやっぱりおかしいわ」


 真冬ちゃんは近くにある俺のベッドに腰を掛ける。

 昔の俺ならドギマギしてそうなシチュエーションだ。

 今はまだ朝の三時であり、本来、女の子が遊びに来るような時間ではない。


「それで、なんでこんな時間に集合なんだ?」

「しばらく、この家にお世話になりたいのだけど」

「ん? 住みたいってこと?」

「ええ、チームならアジトがあると便利でしょう?」


 ふむ、昨日の夜にスノウからしばらく帰れないと連絡がきていた。

 スノウは稀に旅に出ることがあったので今度も半年は帰らないだろう。

 このフェリシア邸はかなり広い洋館だ、空き部屋はある。


「俺はいいけど、真冬ちゃんは平気なのか?」

「ええ、私、貴方以外の意識からは消えるのよ」

「あー、代償か」

 

 なるほど、かなり特殊な代償らしいな。

 まぁ、あまりこの手のことは詮索しないほうが良いだろう。

 いきなり住所を聞かれたときは何事かと思ったが。

 確かに、一緒に住めばいつ戦いになっても安心だ。


「それに、貴方なら襲われる心配もないもの」

「俺をインポ扱いするのやめてくれませんかね……」

「荷物は下に置いてきたから、手伝ってもらえるかしら?」

「メデバドも手伝ってくれ」

「承知シタ、我、頑張ル!」


 最近知ったのだが、メデバドの能力はとても便利なのだ。


「貴方、神魔に荷物運びさせるなんて……」

「ん、メデバドの能力めっちゃ便利だぞ」


 俺と真冬ちゃんが話してるうちにメデバドが部屋から出て、

コトコトと階段を降りる音が響き、再び階段を上る音と共に戻ってきた。

 メデバドの両手にはキャリーバッグが二つ持ち上げられている。


「本当に神魔なのね、小さな体で運べるなんて」

「いや、違うぞ、力持ちってわけじゃない」


 そう、メデバドは死を司る存在であり、死ノ神。

 そして能力を応用すれば――ことも可能なのだ。

  

「我、頑張ッタ、褒メテ!」


 ……うん、なんという能力の無駄使い。

 それで良いのか、死ノ神、褒めて欲しそうな目でこちらをみるメデバド。


「おう、よくやった。流石は神様だぜぃ!」

「我、凄イ、我カッチョイイ!」

 

 真冬ちゃんは心底呆れた顔をすると、口元に手を当てて笑いだす。


「ふふ、貴方たち、本当に変ね」

「達じゃないぞ、メデバドが変なんだ」

「我、変ジャナイ、我、可愛イ」

「けど、この子、かなり強力な神魔なのでしょう?」


 真冬ちゃんがメデバドの頭を笑顔で撫でる。

 メデバドは言動や雰囲気が酷いので弱そうに見えてしまう。

 だが、実際には優勝者シードの頂点であり、最強の神魔だ。


「あ、今日このゲームの新作が発売日だ!」

「汝、買イニ行クノカ?」

「真冬ちゃん、俺ちょっと買い物してくるわ」

「はぁ……好きになさい。そういえば、ここへ来る途中に鬱陶しい蚊がいたから精々気をつけなさい」


 今プレイしているギャルゲーはお気に入りなので新作は買い逃せない。

 朝の三時半、ちょうど最寄りのゲームショップで並び始める時間だ。

 真冬ちゃんの言い方からして普通の蚊に注意しろなんて意味ではなさそうだな。


「誰かと戦ったのか?」

「ええ、貴方なら問題ないでしょうけど」

「風呂とか自由に使っていいからな、んじゃ行ってくる」

「汝、オンブヲ所望スル」


 メデバドも珍しくついてくるつもりらしい。

 どうやら、ゲームにハマったみたいだな。

 メデバドをおぶって一階まで降り、靴をはいて外に出る。


「もう朝だなぁ、おぶって歩くの辛い」

「汝、重サニ死ヲ付与スレバヨイ」


 おっと、能力を使えば楽なの忘れてたぜ。

 今の時期、俺は夏休みで大学は休み。

 故に、この夏は遊び尽くす予定である。


「この辺り久々に来た気がする」

 

 森を抜け、丘が遠目に見える道を歩く。

 ぶっちゃけて言えば、性欲を失ってから何を見ても楽しくない。

 だが、何かして楽しむことをしてないと不安なのだ。

 

「ん、なんだお前」


 歩いていると目の前から赤いドレス姿の美少女が優雅に歩いてくる。

 いや、よく見ると口元に牙があり、その目は深紅。

 どう考えても人間じゃない、俺を見て笑みを浮かべている。


「余は始祖の吸血鬼、ブラッド・オブ・クイーン」

「お、おう。俺は田中太郎だ」

「君は契約者バトラーだね、血を貰うとしよう」


 ……どうやら、向こうはやる気満々らしい。

 俺としては早く新作買って帰りたい。


「俺、急いでるから、他所あたってくれ」

「……背中の子供を案じているのかい?」


 背中の子供……?

 あ、メデバドか、もしかして俺って子持ちの契約者バトラーとか思われてる?

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