第四章

創造主降臨編

第55話 黑の親衛隊

「なんだこれ? メデバド、お前コレ分かるか?」


 フェリシア邸の庭で、灼聖者リーベおさを殺した青年は、問いかける。

 その容姿は、”普通”を絵に描いたような雰囲気だ。

 質問された少女は――黒いドレス姿に、紫色の長髪で美しい。

 しかし、彼女が歩くだけで周囲が死に絶える。その光景は死神そのもの。


「”時間”ガ巻キ戻サレテイル……」


 そう――青年、田中太郎が問いかけたのは、

 瓦礫が集まり、壊れる前の状態――建物に戻っていく……。

 死んでいたはずの一般人も、何もなかったように歩いている。


「コイツらの戦いが、まるで無かったことみたいになってる……」


 先程まで戦っていた敵の痕跡が全て、消えている。

 アイツらにも、それなりの信念や覚悟があっただろう、と。

 それを踏みにじるように、もう不要だから、無かったことにする。


「コレやった奴、絶対、俺が嫌いなタイプだぞ……」

「汝、町ヘ向カウベキダ。始祖ノ気配ヲ感ジル」

「まじか……。次から次へと、ギャルゲする暇がねぇ」


 始祖の神魔がいると知っても、驚くだけで微塵も恐れていない。

 この青年にとって、始祖の神魔だろうと脅威ではないのだ。


「とりあえず、行ってみるか。……おぶらないぞ?」

「フフン、我、汝ノ背中ヲ守ッテヤロウ!」

「俺の知ってる背中を預けるシチュエーションと違う!」


 ドヤ顔でおんぶを要求する死ノ神。

 青年は、文句を言いながら背中を差し出して歩き始める。

 最強の神をおぶるなど、他の神魔から見れば狂気の沙汰だろう……。

 しかし、この青年もまた――壊れている化け物なのだ。



「ブラッドは何処でしょう? 見つけないとプンプンされます」

「確かにィ……怒られるのは勘弁だわなァ」


 修復された町中で、二人の男女が会話を交わす。

 両者に共通しているのは、その恰好。

 黒い軍服のような衣装で統一されていて、何処か組織的だ。


「あの方が負けるとは思えねェがよォ。相手、普通じゃねェぜ?」

「ギルバ様に勝利するなど、ノーウェイです」


 二人を含めた”くろ親衛隊しんえいたい”は、命令に従い始祖の吸血鬼を探している。

 しかし、ギルバは現在、謎の契約者と交戦中なのだ。

 始祖の神魔であるこの二体であっても、異常だと感じる青年だった。


「まぁ、野郎がギルバ様に勝てるってんなら、どのみち俺達じゃ役に立たねェ」

「私達は、ブラッドを探すことにハッスルしましょう」

「……ヘイヘイ。俺ァてめぇのボケにはつっこまねェぞ」


 二人は他愛ない会話で、暇をつぶす。

 人間らしいやり取りを、ギルバに教え込まれており。

 傍から見れば、天使や悪魔だなんて想像もできないだろう。

 と、喋っていた男――始祖の悪魔は足を止めた。


「おい、ヤベェのが来てるぞォ……。どうなってんだァこの町はよォ!」

「……」


 この二体をして、”恐怖”を感じる存在が向かって来るのだ。

 そう――警戒ですらなく、”恐怖”。

 備えたとしても意味がない類の化け物が、真っ直ぐに近づいている。


灼聖者リーベどもか? いや、ねェな。ブラッドでもねェ……」


 まるで――死が迫ってくるような不気味な恐怖。

 抵抗など赦さない、逃げることなど出来はしないと。

 何より恐ろしいのは、近づく度に力が計れなくなることだった。


「……力が強大すぎて、感覚がフリーズしてますね」


 自分達の主ですら――、と。

 巻き戻っていた、瓦礫が止まり、砂になり朽ちていく……。

 やり直しなど赦さない。潔く終われ、死んでおけ。

 そんな意志すら感じさせる威圧感と理不尽な力。


「お、いた。始祖の神魔ってお前達か?」


 そう軽くヘラヘラと青年が話しかてくる。

 冴えない顔に、覇気のない雰囲気……。

 本来であれば警戒も、ましてや”恐怖”など有り得ないだろう。

 しかし、二体は既視感を感じずにはいられない。


「おいおい……。勘弁してくれよォ、そっくりじゃねェか」


 主である創造神の契約者に、”ギルバ”と似ているのだ。

 強者特有の壊れ方とでもいうべきか、何かを隠すために道化を振舞うような。

 この二体だからこそ、前例を知ってしまったから”恐怖”せずにはいられない。



「軍服って……。俺が出合う奴、コスプレ率高くね?」


 メデバドに言われて来てみれば、まさかのレイヤー二人組。

 始祖の神魔って言ってなかったか?

 吸血鬼とは違って、見てるだけだと人間にしか見えない。


「我、汝ノ言葉デ美少女トナッテイル……」

「あー。なるほど、誰か”上”がいるわけだ」


 俺がメデバドに美少女の姿を要求したように。

 この二体に人間のようになれと、そう言った奴がいるってことらしい。

 神魔って自分の容姿には無頓着なんだろうか?


「お前らも、暴れるつもりなのか?」


 俺は二体のコスプレ神魔に問いかけた。

 せっかく灼聖者を倒して、落ち着いたのに暴れられたら困る。

 いい加減ギャルゲに集中したいのだ。


「ノーです。私達は探しているだけですよ?」

「だなァ、暴れる気なんてねェよ……」


 喋り方がアレだけど、話は通じるらしい。

 なんというか、異常に理性的で中身も人間みたいだ。

 女性の姿をしている方の神魔から、六枚の羽が生える。


「私は、始祖しそ天使てんし――”アワイ”と言います。あわちゃんと呼んでください」

「……」


 え……?

 いや、どう反応すればいいのこれ……。

 これあれだ、スノウとは違うベクトルの天然だ。


「オレは、始祖の悪魔――」

「あ、俺は田中太郎だぞ。後はあわちゃんに聞くから、帰っていいぞ」

「なッ……。てめェ、聞いてきたのはお前だろうがよォ!」


 男の方の自己紹介を省略したらキレられた……。

 探し物があるっていうから、気を使ったのに……。

 まぁ、昔から男の名前を忘れやすいだけなんだが。


強面こわもてな顔でプリプリしても、キモイだけだぞ」

「……なァ、キレていいよなァ? コイツ殴りてェ」

「既にキレてるぞ。お前、面白いな」

「――ッ」


 ……なんだ? 急に怖がっているように見える。

 怒っていたのに、俺が面白いと言った途端にビビってる?

 俺と誰かを重ねて怖がってるような、そんな感じだ。


「……人の顔みてトラウマ思い出すみたいなの、やめてくれない?」

「ソーリーです。主に貴方が似ているので……」

「あわちゃん、なんでそんな喋り方してるの?」


 さっきから気になって仕方ないので聞いてみた。

 神魔が人の言葉を使えるのは知ってる。

 けど、具体的にどんな基準で覚えてるのか、興味があるのだ。


「エイゴなるものが、人間のソウル言語だと聞いたのですが?」


 ……うん。どっからツッコミすればいんだこれ。

 共通言語って言いたいのかな?

 あわちゃんに教えてる奴、俺と気が合いそうなのは分かった。


「それ教えた奴、あわちゃんで遊んでると思うぞ」


 なんだか、コイツらの主とやらに興味が出てきた。

 絶対に俺と気が合う、そんな予感がした。








 

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