第四章
創造主降臨編
第55話 黑の親衛隊
「なんだこれ? メデバド、お前コレ分かるか?」
フェリシア邸の庭で、
その容姿は、”普通”を絵に描いたような雰囲気だ。
質問された少女は――黒いドレス姿に、紫色の長髪で美しい。
しかし、彼女が歩くだけで周囲が死に絶える。その光景は死神そのもの。
「”時間”ガ巻キ戻サレテイル……」
そう――青年、田中太郎が問いかけたのは、町の様子だ。
瓦礫が集まり、壊れる前の状態――建物に戻っていく……。
死んでいたはずの一般人も、何もなかったように歩いている。
「コイツらの戦いが、まるで無かったことみたいになってる……」
先程まで戦っていた敵の痕跡が全て、消えている。
アイツらにも、それなりの信念や覚悟があっただろう、と。
それを踏みにじるように、もう不要だから、無かったことにする。
「コレやった奴、絶対、俺が嫌いなタイプだぞ……」
「汝、町ヘ向カウベキダ。始祖ノ気配ヲ感ジル」
「まじか……。次から次へと、ギャルゲする暇がねぇ」
始祖の神魔がいると知っても、驚くだけで微塵も恐れていない。
この青年にとって、始祖の神魔だろうと脅威ではないのだ。
「とりあえず、行ってみるか。……おぶらないぞ?」
「フフン、我、汝ノ背中ヲ守ッテヤロウ!」
「俺の知ってる背中を預けるシチュエーションと違う!」
ドヤ顔でおんぶを要求する死ノ神。
青年は、文句を言いながら背中を差し出して歩き始める。
最強の神をおぶるなど、他の神魔から見れば狂気の沙汰だろう……。
しかし、この青年もまた――壊れている化け物なのだ。
*
「ブラッドは何処でしょう? 見つけないとプンプンされます」
「確かにィ……怒られるのは勘弁だわなァ」
修復された町中で、二人の男女が会話を交わす。
両者に共通しているのは、その恰好。
黒い軍服のような衣装で統一されていて、何処か組織的だ。
「あの方が負けるとは思えねェがよォ。相手、普通じゃねェぜ?」
「ギルバ様に勝利するなど、ノーウェイです」
二人を含めた”
しかし、ギルバは現在、謎の契約者と交戦中なのだ。
始祖の神魔であるこの二体であっても、異常だと感じる青年だった。
「まぁ、野郎がギルバ様に勝てるってんなら、どのみち俺達じゃ役に立たねェ」
「私達は、ブラッドを探すことにハッスルしましょう」
「……ヘイヘイ。俺ァてめぇのボケにはつっこまねェぞ」
二人は他愛ない会話で、暇をつぶす。
人間らしいやり取りを、ギルバに教え込まれており。
傍から見れば、天使や悪魔だなんて想像もできないだろう。
と、喋っていた男――始祖の悪魔は足を止めた。
「おい、ヤベェのが来てるぞォ……。どうなってんだァこの町はよォ!」
「……」
この二体をして、”恐怖”を感じる存在が向かって来るのだ。
そう――警戒ですらなく、”恐怖”。
備えたとしても意味がない類の化け物が、真っ直ぐに近づいている。
「
まるで――死が迫ってくるような不気味な恐怖。
抵抗など赦さない、逃げることなど出来はしないと。
何より恐ろしいのは、近づく度に力が計れなくなることだった。
「……力が強大すぎて、感覚がフリーズしてますね」
自分達の主ですら――ここまでではない、と。
巻き戻っていた、瓦礫が止まり、砂になり朽ちていく……。
やり直しなど赦さない。潔く終われ、死んでおけ。
そんな意志すら感じさせる威圧感と理不尽な力。
「お、いた。始祖の神魔ってお前達か?」
そう軽くヘラヘラと青年が話しかてくる。
冴えない顔に、覇気のない雰囲気……。
本来であれば警戒も、ましてや”恐怖”など有り得ないだろう。
しかし、二体は既視感を感じずにはいられない。
「おいおい……。勘弁してくれよォ、そっくりじゃねェか」
主である創造神の契約者に、”ギルバ”と似ているのだ。
強者特有の壊れ方とでもいうべきか、何かを隠すために道化を振舞うような。
この二体だからこそ、前例を知ってしまったから”恐怖”せずにはいられない。
*
「軍服って……。俺が出合う奴、コスプレ率高くね?」
メデバドに言われて来てみれば、まさかのレイヤー二人組。
始祖の神魔って言ってなかったか?
吸血鬼とは違って、見てるだけだと人間にしか見えない。
「我、汝ノ言葉デ美少女トナッテイル……」
「あー。なるほど、誰か”上”がいるわけだ」
俺がメデバドに美少女の姿を要求したように。
この二体に人間のようになれと、そう言った奴がいるってことらしい。
神魔って自分の容姿には無頓着なんだろうか?
「お前らも、暴れるつもりなのか?」
俺は二体のコスプレ神魔に問いかけた。
せっかく灼聖者を倒して、落ち着いたのに暴れられたら困る。
いい加減ギャルゲに集中したいのだ。
「ノーです。私達は探しているだけですよ?」
「だなァ、暴れる気なんてねェよ……」
喋り方がアレだけど、話は通じるらしい。
なんというか、異常に理性的で中身も人間みたいだ。
女性の姿をしている方の神魔から、六枚の羽が生える。
「私は、
「……」
え……?
いや、どう反応すればいいのこれ……。
これあれだ、スノウとは違うベクトルの天然だ。
「オレは、始祖の悪魔――」
「あ、俺は田中太郎だぞ。後はあわちゃんに聞くから、帰っていいぞ」
「なッ……。てめェ、聞いてきたのはお前だろうがよォ!」
男の方の自己紹介を省略したらキレられた……。
探し物があるっていうから、気を使ったのに……。
まぁ、昔から男の名前を忘れやすいだけなんだが。
「
「……なァ、キレていいよなァ? コイツ殴りてェ」
「既にキレてるぞ。お前、面白いな」
「――ッ」
……なんだ? 急に怖がっているように見える。
怒っていたのに、俺が面白いと言った途端にビビってる?
俺と誰かを重ねて怖がってるような、そんな感じだ。
「……人の顔みてトラウマ思い出すみたいなの、やめてくれない?」
「ソーリーです。主に貴方が似ているので……」
「あわちゃん、なんでそんな喋り方してるの?」
さっきから気になって仕方ないので聞いてみた。
神魔が人の言葉を使えるのは知ってる。
けど、具体的にどんな基準で覚えてるのか、興味があるのだ。
「エイゴなるものが、人間のソウル言語だと聞いたのですが?」
……うん。どっからツッコミすればいんだこれ。
共通言語って言いたいのかな?
あわちゃんに教えてる奴、俺と気が合いそうなのは分かった。
「それ教えた奴、あわちゃんで遊んでると思うぞ」
なんだか、コイツらの主とやらに興味が出てきた。
絶対に俺と気が合う、そんな予感がした。
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