第35話 懇願の灼聖者
「お前らが侵入者だナ? オイラが相手をするサ!」
朝の森で小柄な青年が独特の語尾で敵に確認をした。
辺りは木々に囲まれ、大岩の上に仁王立ちしている。
その視線の先にいるのは二人――着物の女とサングラスの男。
「スノウは何処にいる? アイツは仮にもリーダーだ、返してもらう」
「お嬢ちゃん、一人とはいえ五天竜だ、油断はするなよ……」
タケシは幻影の悪魔と契約しており、東花は四体の大天使。
普通に考えれば五天竜でも十分に倒せる範囲内だと言える。
何よりもこの二人には一つの安心感がある。
時間を稼げば問題ない、この森には田中太郎も来ている、と。
「サングラス、お前の幻術と俺の
それは――会話の最中。
決して油断をしたわけでも――ましてや警戒を緩めたわけでもない。
だが、目の前にいたはずの五天竜の契約者は首だけになっている。
否、首を手に持ち、大岩の上に座るスーツ姿の男が一人。
「……お嬢ちゃん。気配、感じたかい?」
「いや、気がついたら殺されてた……」
不意打ちをしたわけでもなく、ただ気づけば殺されていたのだ。
目の前にいるにも拘わらず、いつ現れたのかすら分からない。
「初めまして、
スーツ姿に眼鏡、短く纏まった黒髪でビジネスマンの様な容姿。
紳士のような立ち振る舞いを感じさせるが、その笑みは下卑ていた。
手首の腕時計を見ては何やら思い悩んでいる。
「コイツ……
「お前さん、何者だ? どうやってソイツを殺した?」
五天竜と契約する者をただの人間が一瞬で殺すなどありえない。
だが、藤原勘助と名乗った男からは神魔の力を一切感じないのだ。
観察しても契約紋は疎か、何等かの力を使った痕跡もない。
「五天竜の
そう言うと立ち上がり、二人の元にゆっくりと近寄る。
タケシと東花は既に契約紋を起動させ、戦闘に備えていた。
密かに幻影の力を使い、相手に幻覚を見せ位置を錯覚させる。
「どうやら、この町には
「何者だと聞いている、それ以上近づけば敵と見なして殺す」
タケシが注意を促すが、藤原勘助は気にした様子もなく歩く。
「なるほど、貴方達は我々のことはご存知ない、と」
その歩みには迷いがなく、幻覚ではない、本来の位置へ向かってくる。
能力を使用しても影響を受けていないと言わんばかりに進む。
すると途中で立ち止まり、これは失礼と胸に手を当て何者であるかを口にした。
「
藤原勘助の口にした言葉の意味を理解できず、二人は困惑する。
しかし、明らかに危険な存在であることを二人は直感で悟った。
瞬時に距離を取り、自身の契約する神魔を呼び出す。
「
呼び出したにも拘わらず、大天使が現れることはなく、何も起きない。
東花は直ぐに契約紋を確認するが、問題があるわけでもない。
今まで起きたことのない事態に東花は内心焦っていた。
「ああ、申し訳ない……。それは困ります、ええ」
何をしたのだと、東花が睨みつける。
すると、藤原勘助の左目に灼熱の炎が宿り、Ⅴのマークを形成していく。
ジュワジュワと焼き切れる音と共に紋様が浮かぶ。
神魔でも、契約者ですらない、だが常軌を逸したその姿。
「我々、
「……神魔を滅ぼす?」
「馬鹿けてるねぇ……どうも」
東花とタケシは信じ難い言葉に耳を疑う。
藤原勘助は我々と口にした、つまり、他にもそんな思想の連中がいる。
何故、神魔を滅ぼすのか、そもそも人間なのか。
色々な疑問が二人の頭に飛び交う。
「
「……何を、言ってる……?」
東花の頭にある可能性が過る、だがそんなはずはないと。
自身の馬鹿けた考えを振り払う。
しかし、藤原勘助が嘲笑うようにソレを言葉にする。
「我々、
「願ったから現実になったとでも言いたいのか? ……ふざけてる」
東花がありえないと切って捨てる。
しかし、事実として神魔を呼び出すことが出来ないのだ。
タケシの表情も曇り、畏怖の視線で二人は目の前を見据える。
「人には無限の可能性があります。人は願いを抱き、それを叶えずにはいられない。言ったでしょう、私は”
東花は聞く耳を持たず、
真実がどうであれ、藤原勘助の力には何等かの制限があるのは間違いない。
そうでなければ、直ぐにでも殺されているはずなのだ。
「可哀想に……。貴方も
「ッ――!」
光の矢は全て、藤原勘助を避けるように飛んでいく。
「
一瞬で距離を詰め、東花の首を右手で掴んでいた。
藤原勘助には動作や過程というものがない。
彼が望めば――ただそうなっているのだ。
「お嬢ちゃん! くそ……
「貴方は次です。しばらく眠っているといいですよ、ええ」
タケシが幻影の力を使い、藤原勘助を幻に変えようと契約紋を起動する。
しかし、直ぐに意識を奪われ、地面に転がった。
「人に”愛”を――
首元を絞められ、東花も徐々に意識を失っていく。
このままでは殺されると、必死に
「はぁ……まったく。”放しなさい”」
「……?」
何処からか声がすると藤原勘助は手を放していた。
素直に放してしまった自分の手を凝視している。
自身に何が起きたのか理解できず、激しく困惑しているのだ。
「ねぇマティ。コレ、
「違うよ、この男は人間だ」
「あら、そうなの。貴方、悪いけれど……死んでもらうわ」
声の主は田中太郎と共にこの森へ来た、神崎真冬だった。
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