第58話 黄金の襲撃者

「にっしっし……。それで、要件はなんじゃ?」


 ギルバと名乗ったスーパー美幼女。

 独特の笑い方で、俺に要件を聞いてくる。

 雰囲気というか、圧力が普通の契約者じゃない……。


「お前が探してる吸血鬼だけど、俺が殺した」


 率直に伝えるべきことを言った。

 怒るかもしれないと思ったが、意外なことに変化はない。

 俺の顔を見ると、何かに納得したのか再び笑う。


「なるほどのう……。案ずるな、ブラッドは死んでおらんのじゃ」

「は……?」


 死んでない? 俺は確かに最後の瞬間を見た。

 間違いなく殺したし、加減だってしていない……。

 そう言えば、着物美少女の天使も復活してたけど……。


「空蝉の仕業じゃのう。何処までも奴の手の上か……」

「ウツセミ? どっかで聞いたな。まぁ、要件はそんだけだ」

「にっしっし……。童に謝るためだけに来たのか?」

「おう。あと、お前に興味があるぞ」


 そう、俺がここに来た最大の理由はコイツだ。

 始祖を従えて、何をするつもりなのか。

 こうして目の前にいるだけでも、異常な迫力がある。

 まぁ――幼女だけど……。


わらわを口説きに来たと、お前――ロリコンというやつか?」

「誰がロリコンか! 違う、そっちの興味あるじゃない」

「冗談じゃ。しかし、童を前に平然としているお前は、何者かのう?」


 試すように、確認するかのように、問いかけてくる。

 自己紹介はした。当然この質問は契約者としてのもの。

 隠してもしょうがないし、多分コイツもそうなんだろう。


「俺は優勝者シードだぞ。お前もだろ、違うか?」

「いかにも、創造神の契約者じゃ。何と契約してるかは言わんでよいぞ」


 創造神の契約者って確か、灼聖者が倒そうとしてた奴だっけ?

 なるほど、確かにこの幼女は危険だ。

 俺でも、戦ったら無事ではすまない気がする……。


「始祖を集めて何をする気なんだ? 確認したくてな」

「童の力は不完全なのじゃ、故に――”完成”を目指す」


 今のコレで不完全とは、やっぱり普通じゃないな……。

 コイツの存在感は契約者というよりも、メデバドに近い。

 人より神魔のほうがしっくりくる……。


「そして――、平和な未知で満たすつもりじゃ」

「ん? よくわからんが、世界征服みたいなもんか?」

「ふむ……。まぁ、大体そんな感じかのう」


 まじかよ……。真顔で世界征服とか、小学生でも言わないぞ。

 中身も幼女なんだな、とか言ったらキレそうだから黙っておこう。


「なんじゃその目は……。お前はどうか、さぞ崇高すうこうな目的なんだろうのう?」

「え……。いや、うん。童貞卒業が目的です」

「……。にっしっし。冗談はよい。何故、戦う?」


 一瞬、口を開けて固まったが、冗談だと思ったらしい。

 真面目にそれだけなんだよなぁ……。

 ろくでもない理由だが、俺からすれば大問題だ。


「男には切実な問題なんだぞ。性欲を取り戻すために戦ってる」

「…………」


 ポカーンという音が似合う表情だった。

 次第にギルバの肩がプルプルと震えだす。

 怒ったかと、心配して様子を伺うと爆笑し始めた……。


「にっしっし……。お前――”問題点”を間違っておるぞ」

「ん、どういう意味だ?」


 耐えられないと、地面をバンバンと叩いて笑うギルバ。

 俺の顔を見ては、吹き出して笑い転げる……。

 凄くイラッとくるなこれ、ぶっ飛ばしたい……。


「だからのう……。?」

「は……?」


 俺が困惑していると、ギルバは続ける。


「性欲を取り戻す、そこまではよい。して――?」

「え……?」

「お前が童貞であったのは――”前も同じ”だったのではないか?」

「なん、だと……?」


 言われてみればそうだ……。

 性欲を代償にする前から俺は――童貞だった。

 相手がいないと、根本的に解決しない……?


「取り戻したところで、余計に寂しいだけだと思うがのう……」

「やめろ、俺をそんな憐れんだ目で見るな!」


 なんという敗北感……。幼女に、言い負かされた……。

 俺があまりの衝撃に打ちひしがれていると。

 突如――爆音が響く、ビルが衝撃で大きく揺れる。


「ほう、どうやら来客かのう。お前達――相手をしてこい」


 黒い軍服衣装で統一された集団が頷く。

 おそらく全員が始祖の神魔なのだろう……。

 来客というのはつまり、敵が攻めてきたってことか?


灼聖者リーベの残党か……。やはり、


 灼聖者? 隣町のこんな場所で?

 いや、一人だけ心当たりがあった……。


「小娘って……。スーパー美幼女がなんか言ってる」

「核心をつかれて悔しかったか。よしよし、可哀想にのう……」

「うぜぇ……。可愛い手でナデナデしてくるな!」


 俺がギルバと会話している間に――始祖の集団が、

 本来なら有り得ないだろう。

 始祖の吸血鬼と戦った俺だからこそ、分かる。コレは異常だ。


「私は、金色こんじき灼聖者リーベ――有する時数時は”Ⅱ”」


 黄金の光が、辺り一面に広がっていく……。

 始祖の神魔が――五体いても止めれないソレはやって来る。

 一直線に、ただ俺だけを見て――”ゴール”は言った。


「創造神の契約者! 田中君は、返してもらうの……」

 





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