チーム結成編

第8話 幻影の契約者

「童貞捨てるために生き延びたのに、性欲なくなったら一生童貞じゃねぇかあああああああああああああああああああああああああああああ」


 頭を抱えてその場で転げまわり、子供のように暴れる。

 俺は、死ノ神ギ・メデバドと契約する代償として『性欲』を差し出した。

 形はどうあれ神魔戦争に参加することになり、天使を撃退して生き延びたのだ。


「差し出す代償間違えたあああああああああ」


 俺は今、深い後悔に囚われている。

 もう天使を使役していた着物姿の美少女を追う気力は尽きていた。


「お、おい坊主、お前さん一体何者だ?」

「ん? ……あ」


 近くで血塗れの姿で横に倒れたオッサンが話しかけてきた。

 そうだ、このサングラスのオッサンは瀕死の重傷なのを思い出した。

 このオッサンの傷を治した方がよさそうだ。


元素の天使エレメントを容易く倒すその力はなんだ?」

「あーこれね、神様パワーてきな?」

「……とりあえず助かったぜ坊主」

「おう、その傷、治してやるよ」


 俺は眼に意識を集中させ、契約紋を起動させる。

 オッサンから一時的に”死”という概念を消し去るイメージで傷を直視する。

 すると瞬時に傷は


「傷が、痛みも消えた?」

「おやおや、不気味な力だねぇ~」


 オッサンは驚愕しているが仮面の悪魔は楽しそうにこちらを見ている。

 確かに不気味な力だ。自分が人でない何かになってしまったようで気分が悪い。

 メデバドには感謝しているが、この力はあまり好きじゃない。


「お前のほうが不気味だろ、変な恰好しやがって」

「ボクチンはオシャレさんなだけだよぉ」

「坊主、お前、契約者バトラーになったんだな?」

「らしい、けどオッサンと戦う気はないぞ」


 俺に戦う気がないのは傷を治したことでオッサンも理解しているはずだ。

 オッサンからすれば俺はいきなり殺され、いきなり契約者バトラーになって、いきなり天使を撃退した意味不明の存在に映ってることだろう。


「坊主は命の恩人だ、それに勝てる気もしない、いつかこの借りは返す」

「おう、俺は田中太郎だ、オッサンの名前は?」

虞羅三ぐらさんタケシだ、こっちの悪魔は」

「ボクチンはファントムだよぉ、カッコイイでしょぉ?」


 ツッコミどころ満載なコンビだなコイツら。

 名前に関して人にあれこれ言える立場ではないがこれは酷い。


「えーと、トムとグラサンな、覚えた」

「おい、俺のことはタケシでいい」

「ボクチンはそろそろ戻るよぉ」


 トム、基、ファントムと名乗った仮面の悪魔はこちら側に顕現するのも限界だったようだ。

 召喚サモン契約者バトラーに与えられた権能の一つだが神魔しんまの側には負担が大きく、リスクしかない行為だ。

 それに応じて命を挺して戦っていたこの悪魔は優しいのだろう。


「お疲れさん、俺もそろそろ行くぜ坊主、またな」

「おう、じゃあなグラサン」

「タケシだ」


 グラサンのオッサンはその言葉と共に紫の煙になって消えていった。

 これがトムの能力なのだろうか?

 俺もフェリシア邸に戻って今日はもう休もう、一日で色々とありすぎた。



「あ、そういえば明日の午後に神崎って子と会う約束してた」


 俺はベッドで横になってスマホ眺めながらふと思い出した。

 あの子は不思議な子だった、もしかして契約者バトラーだったりするのだろうか?

 ないない、と馬鹿な考えを振り払う。


「これからどうしよう、エロ漫画みても絵が可愛いなぁくらいしか思えないし」


 俺は生き甲斐と言えるエロ、つまりは性欲を失ってしまった。

 俺の毎日の八割くらいはエロで構成されていたので戸惑ってしまう。

 そしてエロい物を見ても俺の息子はまるで反応がない、一生童貞なんてヤダ。


「くそおお!メデバドなんとかできないのか?」


 話しかけるがまるで反応がない、通常は召喚サモンしなくとも神魔との意思疎通は契約紋を通して図れるはずだが。


「メデバドー! 出てこーい!」


 いくら叫んでも応答する気がないようだ。

 仕方ない、今日はもう寝よう。

 俺は眠りについた。この時、俺はまだ自覚が足りていなかった。

 自分が何と契約したのか、自分が優勝者シードである意味を。

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