第13話 憤怒の魔王

「サタンのおっちゃん、近くに契約者バトラーはいるか?」

「誰がおっちゃんだ、オレは魔王だぞ?」

「え? 何、その見た目でお兄さんとか呼んでほしいのか?」

「貴様……何故こんなガキと契約してしまったのか」


 左胸の契約紋を通して神魔と道端を歩きながら会話しているのは、

学生服をきた短髪の青年だ、高校生らしく活発的で若さに溢れている。


 しかし、この青年は通常の契約者バトラーではない。


「俺の根性を見込んでくれたんだろ?」

「ふん、エンマよ、貴様の信念は評価に値する、とはいえ」

「はいはい、敬えばいいんだろおっちゃん」

「貴様、この戦争が終わったら殺すぞ」

「望むところだぜ!」


 彼の契約した神魔は”憤怒の魔王サタン”優勝者シードの中の一体だ。

 大罪の魔王は全部で七体存在し、サタンはその中でも最強の存在だ。


「エンマ、敵だ、どうする?」

「おう、決まってるだろ? 殺さずに倒して仲間にする!」

「バカ者が、殺さなければいつまでも満たされないのだぞ?」

「俺は別に勝ちには興味ないからな、助ける力があればそれで良い」


 そう、彼は誰も、殺せないのではない。

 彼は神魔戦争に興味などなく、誰かを助けるための力が必要だっただけなのだ。


「君は契約者バトラーだね? 死んでもらおう」

「ん? アンタは誰だ? 俺は東条とうじょうエンマだ!」

「私は焔彰人ほむらあきと、準備はいいかね?」


 彰人と名乗った神父服の男は右腕を突き出し、その契約紋を起動させる。

 年齢はまだ若く、二十代前半だと思われる。

 特徴は白髪でフレームの青い眼鏡をかけており、知的な雰囲気を放っている。


「おう、いつでもいいぜ、かかってこいや」

「私を侮っているのかね? 青年」

「いいや、侮ってるのは、アンタだぜ」


 その台詞と共に青年の両手に短剣が出現する。

 それぞれ白色の短剣と黒色の短剣の合計二本だった。


「武器? 珍しいタイプの力だ」

「ああ、なんてったって、俺は優勝者シードだからな!」

「何? 優勝者シードだと? スノウの許可が必要そうだ」

「スノウ? 誰だそれ」

「悪いが事情が変わった、いずれまた挑ませてもらうとする」


 神父服の男はその体が徐々に水に変化していく。

 彰人と名乗った神父服の男はその言葉を最後に撤退した。


「なんだったんだ?」

「エンマ、奴は何処かのチームに与する者かもしれん」

「チーム? そんなのあんのか?」

「おい、お前が昨日負かした契約者バトラーが言っていただろう」


 彼、東条エンマは昨晩にも契約者バトラーと戦っていた。

 相手は雷の元素の天使エレメントと呼ばれる大天使と契約していた強敵だった。


 接戦の末、相手には逃げられていた、とはいえ。

 元よりエンマは相手を殺すつもりはなく。

 挑んできたので返り討ちにしたに過ぎない。


「昨日のアイツか、強かったよな」

「貴様、忘れていただろう?」

解放リベレイトしようか迷うくらいには強かったから覚えてるって」

「ふん、召喚サモンではなく解放リベレイトを使い戦うとは」

「アンタが召喚サモンには応じてくれないからしょうがないだろ!」


 解放リベレイトとは、契約者バトラーに与えられた三つの権能の一つだ。

 契約者バトラーには契約時に三つ権利が与えられる。


 一つは、契約紋の起動により神魔の力を行使すること。

 これは代償によって使える力のパーセンテージが決まっている。


 二つ目は、召喚サモンこれは神魔をこちら側に呼び出す。

 言わば最終手段ともいえる手だが、これには神魔の必要だ。

 その上、持続時間は神魔の力によってバラバラなので下級の存在であれば呼び出しても意味がないこともある。


 そして、三つ目は解放リベレイト

 これは神魔の力を瞬間的に引き出してパーセンテージを無理やりあげる事を指す。

 何らかの形として、その神魔の特徴が表れる。契約者にとっての切札だ。


「エンマ、他の優勝者シードとだけは戦うなよ?」

「なんだよ、フリか?」

おれ優勝者シードでも上位の神魔だが、絶対に挑んではいけない存在が三体いる」

「アンタがそんな恐れるなんて珍しいな」

「奴らは格が違う、視界に入るだけで消されかねない」


 青年は心配いらないと微笑む。


「俺は戦いが好きなわけじゃないぜ?」

「エンマ、お前には死なれては困るからな」

「ありがとよサタンのおっちゃん」

「まったく、その顔は分かってないな?」

「けどよ、知ってるだろ? 俺はできない」


 それこそが己に貸したルールであり、彼が差し出した代償なのだと。


「誰かが困ってたら、優勝者シードが相手でも挑むぜ?」

「ヒーローでも目指してるのか?」

「いや、英雄なんて必要ない世界にしたいだけさ」

「ふ、変な男だな、だが、嫌いではない」


 今日も彼は代償を払った力で誰かを救う。

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