第21話 始祖の吸血鬼VS憤怒の魔王Ⅱ

「“堕天の粛清剣”」

「なんだい? その剣は」


 始祖の吸血鬼は不思議そうに目の前の敵の武器を見ていた。

 東条エンマの握るその片手剣は先程までの魔剣とは一風変わっており。

 白く美しく、碧色の炎が剣の周りを廻っている。


「能力を簡単に教えるわけないだろ?」

「エンマよ、さっきペラペラと喋っていたではないか」

「う、うるさい!」

「エンマよ、戦いに集中しろ、死ぬぞ」

「サタンのおっちゃんのせいで集中できないんだよ!」


 東条エンマは契約主とケンカしながらも敵に意識を向けていた。


「異能を食らう余を相手にその剣でどう戦う?」


 始祖の吸血鬼はその言葉と共に契約紋を起動させた。

 ”座標交換”の異能で東条エンマの背後に回り込み。

 東条エンマから取り込んだ黒炎を至近距離から放つ。


「へへ、この剣を持ってる俺は無敵だぜ」

「これは……なるほど、理解したよ」


 東条エンマはその美しい白い剣を背中に回し、黒炎を消滅させる。

 “堕天の粛清剣”、その能力はである。

 この形態の東条エンマへの攻撃、ダメージすらも消滅させる。

 正に無敵と言って差し支えない代物だった。


「絶対防御の能力ってわけさ、すげぇだろ?」

「エンマよ、結局能力を教えてるではないか」

「う、うるせぇ!  いいじゃん!  そのほうがカッコイイだろ?」

「エンマよ、その台詞が既にダサい自覚を持て」


 魔王サタンと東条エンマが会話していると雷撃が空から降ってくる。

 辺りは火の海になり、近くに生き物がいれば間違いなく感電死する威力。

 だが、“堕天の粛清剣”の力の前には意味を持たない。


「余の有する無数の異能でも貴殿には傷一つ与えることができぬとは」

「言ったろ?  絶対防御だってさ、お前はここで仕留めるぜ」

「曲がりなりにも優勝者シードか、余も使う他あるまい」

「使う?  お前、……まさか」


 東条エンマの額に汗が伝う、始祖の吸血鬼の言葉の意味を察したのだ。


「感涙に打ち震えよ、君が最初だ、解放リベレイト”伝承でんしょう女王”じょうおう


 始祖の吸血鬼の手のひらから赤い光が周囲に広がる。

 そして、東条エンマの体に手のひらを翳し、何かを取り込んだ。


「コイツ、解放できるのか?  やべぇな」

「エンマ、気を付けろ、これは危険だ」


 東条エンマは魔王サタンの警告を真剣な表情で受け止める。

 本来、解放には神魔との絆が必要であるはずだった。

 だが、契約者バトラーの肉体を使用しているのは神魔である始祖の吸血鬼だ。

 そのため、制約を無視することが可能になっていた。


「無駄だとも、余の”伝承でんしょう女王”じょうおうの能力は

「なんだと?  馬鹿な、それはあまりにも……」


 魔王サタンの言葉からは驚愕が伝わってくる。

 それは東条エンマが知る限りでは、

初めて見る魔王サタンが本気で焦っている声色だった。


「残念だが、殿


 始祖の吸血鬼はその手を差し出し、笑みを浮かべた。


「サタンのおっちゃん、意味がわかんねぇぞ」

「エンマよ、オレの神魔としての逸話と格を

「は?  ……嘘だろ?  そんな反則じみた事ができるのか?」


 神魔しんまの戦いは概念の戦いであり。

 逸話の大きな存在であれば、格も高くなり、力も増す。

 神などの存在そのものが概念である場合を除き、最も重要なモノだ。

 つまり、伝承を奪われることは格を奪われることを意味する。


「さて、準備はいいかな? 」


 始祖の吸血鬼はゆっくりと東条エンマに近寄る。


「エンマ、力が弱まっている、一つの能力に頼ってはならん」

「分かった、いくぜ吸血鬼、”双剣の舞”」


 東条エンマは二種類の短剣の状態へと戻す。

 速さを生かして目に留まらぬ動きで位置を特定させない。


「いくら速さがあろうとも、今の余に通じるかな?」

「へ、言ってやがれ!  "憤怒の魔剣”」


 始祖の吸血鬼の背後で瞬時に形態を変化させる。

 黒炎で一瞬の隙をついた破壊の一撃を放つ。


「余には無数の異能があることを忘れたのかい?」


 始祖の吸血鬼は指をパチンと鳴らし、”反転”の異能を行使した。

 東条エンマの放った攻撃は全てそのまま自分へと回帰した。


「くそっ!  “堕天の粛正剣”」


 東条エンマは再び形態変化でダメージを消滅させる。

 だが、全ての黒炎を消しきれず、シャツが燃えたので脱ぎ捨てる。


「なるほど、三種類の形態を使い分け、汎用性で補っているのだね」

「一つ一つの能力は落ちてるが、変幻自在に使えば戦える!」

「余を相手に汎用性で挑むか、愚かだ」


 始祖の吸血鬼の言葉は正しかった。

 如何に三種類の特性を生かし、使い分けても、

無数の異能を行使できる始祖の吸血鬼には遠く及ばない。


「サタンのおっちゃん、これマジでヤバイぜ」

「仕方あるまい、今回だけ、オレが直接戦うとしよう」

「おう、頼りにしてるぜ、召喚サモン!」


 東条エンマの声に答えて黒い大きな門が現れる。

 ギチギチと扉がゆっくりと開いていくのと同時に黒い煙が充満する。

 黒いツノが二本、赤色の眼に黒い翼。

 憤怒の魔王サタンが降臨した。


「よぉ、エンマ、ここからが本番だ」




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