第17話 女王の眷属
「参るね、この人数差は」
数人の敵の攻撃を捌き、なんとか体制を整え、サングラスをかけた黒いコートの男――虞羅三タケシが呟く。
彼の周りには数多の
「雷野郎は仕留めたぜ、スノウ」
そんな女性の声と共に雷門カリアが――否、だったモノが転がってくる。
血塗れの首だけが虞羅三の元に投げられ、死した雷門の表情は絶望の念すらも感じさせる。
「……雷門、すまん」
彼一人で四体の神魔と契約するあの化け物を相手にするのは無理が過ぎた。
仲間の死に直面しても悲しんでいる暇はない。
「トウカ、無事で良かったよ!」
「スノウ、コイツも早く仕留めるぞ」
「東花、スノウ、油断は禁物だ」
神父服に身を包み、青い眼鏡をかける青年だ。
「ボクチンと君だけで一組織を相手にするのは無理だねぇ」
「逃げて帰りたいね、まったく」
幻影の悪魔ファントムと虞羅三は逃げることも勝つことも既に諦めていた。
元々一対一に特化している能力であり、大人数の、それも相手が最高クラスの相手ばかりでは勝ち目はない。
「君には死んでもらう、覚悟はいいかね?」
焔彰人のその言葉が合図となり、一斉に虞羅三への攻撃が開始された。
無数の属性、無数の異能が虞羅三へと一直線に進む。
幻影の力を駆使しても消せる対象は一つが限度。
「ここまでか、ファントム悪いな」
「ボクチンも最後まで戦うよぉ」
あらゆる攻撃が虞羅三に振り注ぐ――その一瞬。
その異能の力による攻撃の全てが虞羅三とは別の方向、夜の森の奥から来た何者かの手元へと吸い寄せられてゆく。
「やぁ、諸君、余を差し置いて楽しそうじゃないか」
赤色のドレスに深紅の瞳、肩まである美しい黒髪。
ヒールのある靴に、気品のある仕種と言動。
異質な存在感と口元の牙からみて凡そ人間とは思えない風貌だった。
「お前、は……始祖の吸血鬼!」
虞羅三は驚愕の表情でやってきた吸血鬼を見る。
この吸血鬼もまた、虞羅三と雷門で襲撃をかけた相手だ。
ここにきて更なる強敵の登場で虞羅三は焦るが、ふと、疑問を覚える。何故自分を助けるような事をしたのか。
「余の
虞羅三は理解した、この吸血鬼が攻撃を吸収した理由。
それは、あの瞬間に行使された全ての異能を取り込むため。
自分が助かったのはあくまで結果的な副産物に過ぎないと。
「おい、サングラス、お前の仲間か?」
「お嬢ちゃん、アレが仲間に見えるかい?」
虞羅三に東花が問いかけるが仲間ではないと察していた。
その場の全員が息を吞む、スノウを含め、腕利きが集う中。
目の前の吸血鬼はこの場の全ての
「さて、弱き者達には退場して頂こうか」
始祖の吸血鬼のその言葉と同時に眩い電撃が辺り一帯に振り注ぐ。
雷門カリアから取り込んだ電撃の力、回避できたのは僅か数人だけだ。
この吸血鬼の行使するソレは明らかにオリジナルを凌駕している。
「皆……そんな、トウカとアキト以外、今の一瞬で殺されたの?」
「スノウ、東花、逃げるべきだ、この
スノウと東花に警告する彰人。
契約紋を起動しながら契約主である神魔を召喚した。
「
空中に切れ目が現れ、その僅かな隙間から大量の水が溢れる。裂け目が徐々に開いていき、中からその姿が露わになる。
蛇のような見た目に歪な羽があり、龍とも見れる神魔。海の悪魔にして上位の存在と言える神魔だった。
「おや、良きかな、眷属にするには丁度よい」
その大悪魔を見て尚、始祖の吸血鬼は余裕を崩さない。
その華奢な腕をレヴィアタンに向け、重力操作の異能で地面へと叩き落とす。
「馬鹿な! 電撃の力が奴の能力ではないのか?」
「その吸血鬼は異能を取り込める、無数の能力を持っているはずだ」
驚き混乱する彰人に虞羅三が自分の知る情報を伝えた。
本来であればスノウ達は敵だ、情報伝える必要はない。
だが、この場の四人で協力しなければ全員殺され兼ねないと判断したのだ。
「異能を取り込む? なら、物理的に殺すしかないな」
東花のその言葉に皆、同意していたが直ぐに過ちだと気が付く。
地面に伏していたレヴィアタンの体に吸血鬼が噛みついた。
すると、ゾンビのように目から血を流し、ユラユラと不規則に空を飛び始める。
そして、あろうことかレヴィアタンは契約相手である彰人へと攻撃を開始した。
「吸血鬼の伝承に血を吸った相手を眷属にする話があったが、神魔まで眷属にできるのか?」
「余は吸血鬼としての性質と無数の異能を有している、君達では勝てはしない」
虞羅三も驚いていた、神魔まで眷属にできるとは思っていなかったのだ。
無暗に近寄れば血を採取され、眷属にされる。だが、異能を駆使して遠距離で攻撃をしても取り込まれる。
そして、吸血鬼の伝承には不死性を語る話も存在している。
「超速再生もありそうだねこれは、まいるねぇ」
虞羅三の言葉はその場の
物理的な攻撃や異能も通じない上、神魔を呼び出しても眷属にされ兼ねない。
だが、そんな中、幻影の悪魔がニヤニヤと笑う。
「ボクチン思うだけどねぇ、形ある異能しか取り込めないんじゃないかなぁ?」
「そっか! それだよ悪魔さん!」
スノウが突破口を見つけたファントムに笑顔を向けた。
しかし、重力操作の異能を行使していたことから。
形のない異能でも何らかの条件で取り込まれる可能性があった。
「余興は終わりにしよう、まずは君からだ、神父服の殿方」
始祖の吸血鬼の視線の先で彰人は眷属になってしまったレヴィアタンの猛攻を回避して凌いでいた。
レヴィアタンの体からは海水が放出され、辺りは水海の如く揺らめく。
「私と東花は水の操作は得意なのだがね」
海の悪魔と契約する彰人と水の
この二人ならば水は脅威ではない、そう考えた。
「残念だが、余に異能を取り込まれた時点で水は貴殿の操作できる物ではない」
始祖の吸血鬼は異能を取り込めばその能力を行使できるだけでなく。
オリジナルを凌駕した力を発揮する、つまり。
操作系統の能力では取り込まれた時点で主導権を奪われることを意味していた。
「これはっ! 東花、援護を頼めるかね?」
「君からだと言った、助ける余地など与えはしないさ」
彰人が東花に助力を求めるが、重力操作により他三人は身動きがとれない。
さらに辺りの水が高い波になり彰人へと覆い被さり、
レヴィアタンがその巨体で彰人へと激突する。
「アキト! そんな……」
「スノウ、彰人は諦めるしかない、覚悟を決めろ」
「お二人さん、俺とファントムの能力を使って逃げるぞ」
吸血鬼が彰人を標的としてる間に逃げる以外に助かる道はなかった。
幻影の力を使えば、一時的に重力の拘束を幻覚に変えることが可能だ。
「逃げるなら今しかないよぉ、君達もおいでよぉ」
ファントムの声に二人は頷き、逃げる事を受け入れた。
ここでスノウと東花を置いていく選択肢は虞羅三にはない。もし、この二人まで眷属になれば、それこそ終わりだからだ。
今はチームなど関係なく、あの吸血鬼を打倒する戦力が必要だった。
「君達
片手で彰人の首を抑え、こちらを見ている吸血鬼が呟く。
次はお前達だと言わんばかりに、逃げても最後には必ず殺すと。
「次に会い対する時、余は限りなく完全な状態だろう、心して待つがいい」
その言葉を最後に聞き、虞羅三とスノウ、東花の三名は撤退した。
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