第69話 変わりゆく世界

「ばっきゃろー!」


 俺がギルバの所から家に帰ってくると……。

 メデバドがいつものように、俺の部屋でギャルゲーをプレイしていたようだ。

 いや、それは別に構わない。問題はPCのスクリーンが真っ青なことである。


「め、メデバドさんよ……。

 俺のPCのデータ吹き飛んでませんかね? それ」


われ、マタ何カヤッチャイマシタ?」


 なろう主人公っぽく首をかしげるメデバド。

 死神がそれはシュールすぎないか?

 というか、マジでどうしよう……。


「死神って機械も殺しちゃうの……? 勘弁してくれ」

「否、単純ニ我ガ不器用ナダケ」

「おいこら、今後は勝手にいじるの禁止な!」


 ちくしょう……。

 ギャルゲーを楽しみに帰って来たのに……。


「仕方がない。ソシャゲで現実逃避しよ……」


 俺はスッと、スマホをポケットから取り出す。

 こんなこともあろうかと、最近流行りのアプリをインストールしておいたのだ!


なんじ、新タナゲームカ? 我モヤリタイ!」

「おう。馬を美少女化したゲームらしいぞ」

「我、美少女。ナーカーマー」


 ちなみに連れ帰ったゴールは、一階のソファで寝ている。

 ギルバとの戦いで、かなり消耗していたようだ。

 一階では何やら皆で会議をしているようで、声が聞こえてくる。


「スノウとか真冬ちゃん達、何の話してるんだろうな?」

「我ガ音ヲ消シテヤロウ」


 メデバドがそう言うと、一階から雑音が聞こえなくなった。

 すげぇ……。特定の音だけ殺せるのか。便利だな……。

 この力があれば、エロゲの音漏れを気にせずプレイできるね。


「何故だ、ロリっぽいウ〇娘しか当たらない……」


 ガチャを引くと、やたらロリ娘ばっかり出てくる。

 リアルでもゲームでも、ロリばっかりだな最近……。

 だが、決して嫌ではない。


「ん……? 誰だ」


 コンコンと、ドアを叩く音が響く。

 ノックの音はちゃんと聞こえるとか、どこが不器用なんですかねぇメデバドさん。

 俺がメデバドの力に感動していると、ドアが開いた。


「また、ゲームでもしてるのかしら? 話があるのだけど」

「なんだ真冬ちゃんか……。俺は今、育成で忙しいぞ」


 学生服に、腰まである黒髪と透き通るような緑色の目。

 首元の契約紋が俺と同じ、契約者である証拠。

 俺の仲間というか、居候している子だった。


「代償のせいかもしれないけど、私だと話が上手くいかなくて」

「あー。なんか、ステルス性能高いんだっけ」

「そういう言い方されると、何だかイラッとくるわ……」

 

 存在感というか、そんな感じの代償だったらしい。

 それで会議を円滑に進めるのが難しいのだろう……。

 どんな内容か知らないけど、あのメンツと会議とか絶対やだ。


「天然なスノウに、グラサンとロリコン悪魔とか……。

 影薄い真冬ちゃんには、荷が重いか」


 あとゴールは寝てるし、着物美少女はいい加減だし……。

 存在感とか、そういう次元の話じゃないと思う。

 俺を含めて、コミュニケーションに問題ある奴しかいないからな。


「ふふ、一番手を焼いてるのは、貴方よ」

「俺はちゃんと会話のドッチボールできるぞ?」

「それ、一方的に話してない?」


 ふ、むしろ独り言が大半なんだぜ。

 とか言ったら流石にドン引きされそうなので、黙っておこう。

 と、俺が話していると、メデバドが服の裾を引っ張ってくる。


「汝、ソロソロダ。レースガ始マル」

「お、本当だ。無敗の三冠ウ〇娘になれるよう、祈るぞ!」

「他ノ馬ヲ殺セバ、優勝デキル……?」

「こういう時だけ死神感だすのやめようぜ……」


 俺がメデバドとゲームをしていると、真冬ちゃんがジト目で見ていた。

 そのうちゴミを見る目に変わりそうなので、一旦ゲームから視線を外す。


「それで、俺もその会議参加しないとだめなの?」

「ええ……。というより、貴方が聞かないと意味ないわ」


 ふむ……。かなり深刻な問題みたいだな。

 仕方がない、少しくらい聞いてみるか。


「優勝……! 汝、一位ダ!」


 どうやらレースは勝ったようで、メデバドが嬉しそうに回転している。

 これがテイオーステップってやつか……。


「はぁ……。ツッコミをする気すら起きないわ」 


 メデバドの華麗なる回転を見て、ため息をつく真冬ちゃん。

 死神とか絶対噓やんって思ってそうな顔だ。

 こう見えてもコイツ、最強の神魔なんです……。


「突っ込むとか、はしたないぞ」

「……」


 あれ、俺のボケにもツッコミを入れてくれない。

 もしかして、呆れられてたのって、メデバドじゃなくて俺……?


「そこは、突っ込むのは、男の貴方でしょとか言って欲しいぞ」

「貴方の”ソレ”、使い物にならないから、気をつかってあげたのだけど……」


 俺の股間を見ながら、ふっと笑う真冬ちゃん。

 どうしよう、俺、泣きそうだ。

 くそぉう……。人をインポ扱いしやがって……。


「もうやだ、部屋から出たくない」

「こんなことで拗ねないで欲しいわ……」


 さっき影薄いとか言ったの、根に持ってたな真冬ちゃん。

 メデバドがドヤ顔で、俺の肩に手をおいてくる……。


「汝、ドンマイ!」

「二人の優しさが痛い」



「よぉ坊主。しばらく世話になるな」


 俺が一階に行くと、サングラスの男が挨拶をしてくる。

 黒いコートを着ていて、ダンディな雰囲気。だが、変態だ。


「ボクチンもいるよぉ~。君の周囲って幼女多くて良いよねぇ」

「お前らみたいな変態も多いぞ」


 仮面をつけた悪魔が、気持ち悪く笑う。

 妖しい奇術師みたいな恰好で、能力も幻影を使うらしい。

 黙ってれば少し恰好いい。だが、ロリコンだ。


「あ、たろう! この家をアジトにするけど良いよね?」

「どうせ事後報告だからいいぞ。あと何でエプロン?」


 この家の主、フェリシア・ルイ・スノウ。

 金髪碧眼で、俺より少し年上のお姉さん的な存在であり、家族。

 ここ周辺の契約者を集め、リーダーをしていたらしい。しかし、天然だ。


「大人数だし、お料理でもしよっかなって」

「オレは食えれば何でもいいさ。着物が汚れない料理だと嬉しいが」


 着物を着こなす美少女が気だるそうに呟く。

 確か名前は東花とかいったか、スノウとは以前から仲間だったようだ。

 ちなみに俺が性欲を失った原因でもある。


「私、タコ焼きがいいの……。田中君、おはよう」

「俺への挨拶よりも、食い物が優先ですか、そうですか」


 眠たそうに目をこすりながら、挨拶してくるゴール。

 ゴスロリ衣装で、金髪に眼帯という常人なら似合わない姿。

 このメンツ中でも、戦闘能力は俺の次に高い。だが、チョロい。

 

「貴方、外が今、?」


 真冬ちゃんがカーテンを開けながら、問いかけてくる。

 窓の外――その景色を見て、俺は思わず息を吞む。


「何だこれ……。この数時間で何があったんだよ」


 深夜と言ってもいい時間にもかかわらず、外は明るい。

 それも晴れているわけでもなく、空が青く光っていた。

 月がハッキリと見えるので、夜なのは間違いない。


「マティが言うには、創造神の力が原因らしいわ」


 真冬ちゃんの契約する悪魔であり、女神タローマティ。

 神魔戦争について、色々詳しいのだとか。

 創造神が原因って、つまりギルバの奴なんかしたのか……。


「これって何かマズイのか?」

「ええ、世界と融合し始めているそうよ」

「……? どゆこと、さっぱり分からん」


 ため息をつきながらも、真冬ちゃんは説明してくれる。

 どうやら、世界を思いのままに変えようしているらしい。

 このままでは、神魔戦争そのものが消える可能性もある、と。


「いや、それヤバイじゃん」

「だから、そう言ってるじゃない……。はぁ……」

「ため息ばかりついてると、不幸になるぞ」

「大半の原因は貴方なのだけど?」


 いやいや、今回は完全にギルバのせいですし、お寿司。

 ……俺がギルバを筆おろしのために、見逃したことは黙っておこう。


「このままじゃ神魔を呼び出すことは疎か、力すら使えなくなるぜ?」


 着物美少女がスノウの料理を味見しながら、そう言った。

 言動と行動に温度差を感じるのは、俺の気のせいだろうか?


「仮に力が使えても、創造神には逆らえない。

 困ったねぇ、どうも……」


 グラサンが手元のノートPCをいじりながら呟く。

 会議の内容をまとめてたりするのだろうか? 以外としっかりしてるな。

 PCにつながるヘッドホンのコードを、何故かメデバドが引っこ抜いた。


『き、きて! らめぇえええ!!』


 部屋に女の子の喘ぎ声が響き渡る。

 グラサンの奴、人の家で話しながらエロゲするとか……。

 勇者すぎるだろ……。俺でもたまにしかしないぞ、そんなの。


「このメンバーで考え事するの、やめようぜ」


 俺はそう言わずには、いられなかった。

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