第20話 始祖の吸血鬼VS憤怒の魔王Ⅰ
「弱き
夜の明けるころ、朝日が少し見える丘で一人の男が吸血鬼に血を吸われていた。
男は血を通して契約する神魔の力を奪われ、その目にはもう色はなかった。
「伝承の力は殆ど取り戻した、あと一人、強力な
「おい、お前、何してんだ?」
「はて、余は食事をしていただけさ」
「……もう生きてないか、簡単に人を殺しやがって」
始祖の吸血鬼に声をかけたのは高校生に見える若い青年だ。
白いシャツに短髪の頭、健康的な肉体。
だが、その左胸で光る契約紋から普通の人間でないことは明白だった。
「君は、
「俺は強いぜ、
「ほう、では異能だけ食らうとしよう」
「かかってこいや、吸血鬼!」
東条エンマの両手にそれぞれ黒の短剣と白の短剣が出現する。
武器を生み出すタイプの
ましてやそれが
「
始祖の吸血鬼は瞬時に十数メートル飛躍し、空中で契約紋を起動させる。
遥か高い位置から手元に凝縮した爆炎で東条エンマを目掛けて放つ。
「疾走せよ!
二本の短剣を操るこの形態に於けるその特性は速さである。
身体強化により、常人では不可能な動きも可能とする。
東条エンマはその場から後方へ飛び、双剣の剣圧で爆炎を切り裂いた。
「ほう、躱したか、流石は
「お前、ゼッテー驚いてねぇだろ」
「エンマ、お世辞は必要だ、大人になれ」
「サタンのおっちゃん、今は黙っててくれ」
東条エンマは契約主に諭され眉間にしわを寄せる。
命の掛かっている戦いの最中で呑気なオッサン口調の神魔にイラっとしていた。
「エンマよ、挑発に乗るなと言っているだけだ」
「俺は今、絶賛アンタにブチギレ中なんだけどな」
「やれやれ、ガキはこれだから」
「ぶっとばす、表でろや、
仲たがいにも見える会話だったが、始祖の吸血鬼は警戒していた。
話を聞く限りでは魔王サタンがこちらに来る可能性があったからだ。
だが、それは杞憂に終わった、何故なら。
「ふ、神魔である
「サタンのおっちゃんこそ器が小さい男だ!」
「エンマよ、カッコつけて呼んで何も起きないのってどんな気持ちだ?」
「おま、マジぶっとばす!」
もはや始祖の吸血鬼はあきれ果てていた。
だが、仮にも
故にふざけた漫才をする目の前の青年には手を出さず様子を窺う。
「愉快な魔王だね、余と戦う気がないのなら失礼しよう」
「なぁ、吸血鬼、お前、また誰かを殺すのか?」
「ああ、余は力を手に入れる、止まるわけにはいかぬ」
「なら、ここで俺が止めるぜ、誰も殺させねぇ!」
「なるほど、それが君の信念であり、戦う理由か」
始祖の吸血鬼は東条エンマという青年の在り方を理解した。
自分と同じく明確な意義を持って戦いに向き合うその姿に、
戦うに相応しき敵であると認識したのだ。
「お互い、負けられないなら、全力でいくぜ」
「君を好敵手と認めよう、余も力を惜しまない」
「いくぜ、
「二色の炎? これは一体……」
東条エンマの両腕の短剣は消滅し、右手に黒、左手に碧の炎が出現した。
そして両手で剣を構える姿勢になると黒い炎が集まり、一つの形を成していく。
「なんだい? その黒い剣は」
「”憤怒の魔剣”、俺のとっておきだぜ」
東条エンマの手元には黒く禍々しい片手剣が握られていた。
さらに、その剣の周りには常に黒い炎が蛇のように回っている。
その存在感はこの世にはあるべき物ではないことを感じさせる。
「いくぜ、吸血鬼、
荒れ狂う黒い爆炎が剣の切っ先から放たれる。
その火力は始祖の吸血鬼が戦った相手の中でも類を見ない程の威力。
だが、無数の異能を行使できる始祖の吸血鬼の表情には余裕が見て取れた。
「空間遮断の異能をもってすれば、君の攻撃など余には届かない」
「そりゃどうかな、コイツの特性は防御という概念を無視できることだ」
「これはっ、馬鹿な」
一度でも破壊の意志を持って剣を振るえば、防ぐ手段は存在せず。
攻撃を受けるか、同じだけの火力で相殺する他ない。
空間の壁を燃やし、バキバキと破壊してゆく。
そして、この黒い炎そのものにも特性があった。
「この
「何? ……おのれ! この体に傷をつけるわけにはいかぬ」
「無駄だぜ、触れたら燃えるし、防ぐことも不可能だ」
「余は始祖の吸血鬼ぞ、異能であれば食らうのみ」
攻撃が直撃する寸前で彼女の手元に黒炎は吸い込まれていく。
黒色の飴玉くらいの大きさになった丸いソレを口に放る。
吸血鬼の伝承の一つである異能を食らう特性。
どれだけの能力や火力があれど、全て取り込み、己が力に還元できる。
「エンマよ、これは厳しい戦いになるかもしれん」
「異能が通じない上に相手は無数の異能を使えるのか」
「取り込む余地を与えず倒すしかあるまい、厄介だな」
「けどよ、おっちゃんの力には及ばないだろ?」
「おっちゃん言うな、もう一つも見せてやれ、エンマ」
魔王サタンの言葉に東条エンマは頷き手元の魔剣を消滅させた。
「何? 魔剣が君の
「俺の
「そうか、魔王サタンの逸話にはもう一つ姿があったね」
東条エンマの周りには葵色の光が吹き荒れる。
そして魔剣同様、両手で剣を構える姿勢を作り。
葵色の炎が集まり手元に一つの片手剣を生成していく。
「いくぜ、
東条エンマの腕には白く、碧色の炎を纏う美しい片手剣が握られていた。
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