第80話 動き出す最強 Ⅰ

「え、なんだって?」


 俺は、鈍感系主人公みたいな言葉で、そう問いかけた。

 事の発端は簡単で、ギルバが奇妙なことを呟いたからだ。

 ギルバと合体(意味深)してから数週間。俺の部屋で、会話していた。


「魔王サタンの気配が消えたのじゃ」

「誰それ、何かダメなの?」

「やれやれ……。童貞のくせに、想像力が足りんのじゃ!」

「童貞が豊なのは”妄想力”であって、想像力じゃないぞ」


 ドヤ顔の俺を無視して、ギルバは説明を始める。


「それなりの契約者だったのじゃ……。恐らく、空蝉に殺されたな」

「別に契約者なら、殺し合っても不思議じゃない気がするけど?」

「いや、問題はそこではない。”優勝者”の大半が死んだということじゃ」

「……?」


 俺が頭悪いからなのか、全く理解できない……。

 優勝者を殺すのは、神魔戦争のルールでは勝つために当然のこと。

 特別に騒ぐことでもないだろうに……。


「アレじゃ、端的に言えば”優勝者”という概念が消える」

「全然、端的じゃない件」

「……お前、少しは頭を使った方が良いぞ? つまりは、勝つ手段が減る」

「”優勝者”が俺と空蝉だけになった、てことか?」

「うむ……。空蝉を殺す以外に――”脱童貞”ができんぞ?」


 ……童貞を、卒業できない?

 それはマズイ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。

 俺がそんな思考の迷路にハマっていると、ギルバがデコピンしてきた。


「痛い……。普通の契約者を千人殺すのとか、無理ゲーだもんな」

「そうじゃ! いくら強くとも、時間がかかり過ぎる」

「まぁでも、アレだろ?」


 結局のところ――、それで済むことだ。

 どれだけ優勝者が減ろうと、アイツがいる限り関係ない。

 多分、俺が挑んで来るように、自分以外の優勝者を殺しているのだろう。


「にしても、何でアイツは俺に執着しゅうちゃくしてるんだ?」

「それは童も知らんのじゃ。お前、相当好かれてたからのう……」

「俺のこと大好きかよ……。俺はアイツのこと大嫌いなんだけど」


 熱狂的なファンは、これだから困るんだよなぁ。

 俺、全然アイドルとかじゃないけど。

 男に狙われても、全然嬉しくない。ヤンデレ系ホモとか、勘弁して欲しい。


「怪我とかも治ったし、ちょっくら殺しに行くか」

「……散歩気分で殺される空蝉が、少し哀れなのじゃ」

「創造神の力も練習して、使い慣れたからな」


 そう――この数週間の間、俺は修行していたのだ。

 具体的には、”創造”の力と”死”の力を使って、特殊な空間を創った。

 俺の部屋の隅には、青色の光が集まっている。ここがその空間である。


「この場所、めっちゃ便利だったよな」

「ふん……。童に感謝するのじゃ!」

「おかげで、ギルバやメデバドと、戦っても平気だったし」


 広く壮大な異空間を”創造”の力で作り、”死”の力で、空間内の

 メデバドやギルバを相手に、戦って練習したのだ。

 前回とは違い、準備は万全。エルトが相手でも、なんとか戦えるだろう。


「メデバドー! 召喚してられる時間は余裕あるか?」

「問題ナイ! 我、ゲーム我慢シタ。数時間ハ召喚可能ダ」

「死神として、それでいいのか……。いや、助かるけどさ」


 俺は、契約紋を通してメデバドに問いかける。

 前に空蝉と戦った時は、召喚も解放も使えず、苦戦した。

 けど、今回は違う。考えられる限りの事前準備をして、こちらから殺しに行く。


「俺を待っていると言うのなら、


 今回は、いつもとは違う。

 俺は挑まれる側で、その悉くを返り討ちにしてきた。

 でも、今度は俺が挑む。空蝉とエルトは強い、それを認めているからこそ。


「どっちが強いか、白黒つけて。脱童貞だ」

「……最後で台無しじゃな」

「うるさい! 今回は命がけの戦いだ。覚悟はできてるか?」


 メデバドとギルバへの問いかけ。

 そして、俺自身への問いでもある。負ける可能性だってあるからだ。

 やれる限りの準備はした。それでも尚、絶対に勝てる相手じゃない。


「誰に向かって言っておる? 童は最初からバッチコーイじゃ」

「……最後で台無しだぞ」


 俺達は――――戦いに向けて、一歩を踏み出した。

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