第46話 神ノ契約者

「神が作ったこの世界は――

 人間の目には不完全に見えても、完全であるに違いない」


 僕は――本を閉じて、一つの戦いを眺めて思いにふける。

 とても不思議な気持ちだ、何故――こんなにも夢中になるのか。

 きっと、僕が意図的に用意した障壁も、彼というバグの前では無意味だろう。


「ただし、神は人間を完全にはしなかった」


 灼聖者リーベの長――烈火咲夜と、恐らくは史上最強の契約者バトラー――田中太郎。

 二人とも、本来は交わることすらない間柄であったはずだ。

 灼聖者は、太古の種族であり、こことは違う世界で存在した人間の可能性。

 そして、まだ扱いきれてないが、死ノ神の力を振るう彼。


「アークエルト、君はどう思う?」


 僕は、契約する神魔しんま――時ノ神アークエルトへ問いかける。

 真っ白なドレスにシンデレラのようなガラスの靴。

 ミディアムくらいの長さの銀色の髪、頭には青色の特徴的な髪飾り。

 そして――純粋で混じりけのない青色の瞳。


「あの人は、弱い、ね……? でも、たろうは、強い、よ」


 そうか、やはり――彼で間違いなさそうだ。

 一体、彼はどのような理由で戦っているのか……。

 こんな狂った世界で、彼はどんな時間を過ごしてきたのだろう。


「やはり、咲夜では力不足だったようだ。

 次は――創造神の契約者でも、ぶつけてみようかな?」


 創造神の契約者――ギルバ。

 なんでも、全ての神魔の始祖であり、契約者である限りは敵わないのだとか。

 彼の相手が務まるか、計る必要がありそうだね。

 少しくらい、僕が味見しても、問題はないかな。


「とはいえ――彼と出会う前に、ギルバとやらの心が折れては元も子もない」


 三人目の神ノ契約者は、どの程度だろうか?

 どれくらいの強さ、どんな時間を魅せてくれるだろうか。

 僕と彼の間に――弱者はいらない、彼と君は対立できるか?


「どうしてかな。期待感なんて持っても、大抵は失望するだけだ」


 人間は――体感的な快楽よりも、希望的観測に愉悦ゆえつを感じる。

 それは、既に解得した経験より、まだ見ぬ時間にこそ価値があるからだ。

 可能性と言い換えてもいい。ソレを僕は見たい。


「僕は孤独を好かない。対等な相手と過ごす時間に、憧れてしまうね……」


 僕は、生まれつき世界を見通す眼を

 平行世界に限らず、未来も過去も、全てを知る力を兼ね備えていた。

 そんな人間が、他者と対等に関わることなど、不可能だ。

 しかし――そんな僕にも希望の光は存在した。


神魔戦争しんませんそう――このシステムは、とても良心的だ」


 そう――神魔との契約には、

 僕は弱くなりたかった、だから――眼を代償として力を捨てた。

 だが、それも失敗だ。皮肉なことに、僕が呼び出したのは時ノ神。

 払った代償が大きすぎたことで、以前よりも強くなってしまった。


「ハハ、僕の代償でも、神の力はというのに」


 思わず笑みがこぼれた。彼は一体、なにを払ったのだろう?

 特別な力を持たずして、あれ程の力を引き出す神ノ契約者。

 自分よりも得体の知れない存在、とても魅力的で素敵だよ。


「さて、行こうかアークエルト。創造神の契約者と遊べるよ?」

「――うん。遊ぶの、私、好き、だよ……?」


 少し名残惜しいけど、この場はここまで、かな。

 きっと彼がいれば、この町に侵攻する灼聖者も止められるだろう。

 アークエルトを連れ、これからの時間に期待しながら道を歩く。


「僕と彼は――神が許容した”悪”と言えるだろうか」


 哲学には、弁神論べんしんろんというものがある。

 もし、神様が全能であり、この世界を作ったとして。

 最も完全で、善意に溢れた世界を選んだのだから、”悪”があることを、

神の知恵が容認した。ただしその悪は、全て計算された差し引きなのだ、と。


「彼を測れるのは、僕だけだ。僕を殺せるのも――きっと」

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