第57話 運命の出会い

「なぁ、お前らのあるじって奴に会わせてくれないか?」


 俺は、コスプレ二人組に問いかける。

 一応言っておくと、どちらも始祖の神魔だ。

 話してる限り、全く人間と見分けがつかない。


「……ギルバ様に会わせてもオーケーでしょうか?」

「やめとけよォ。ギルバ様は気が短い、コイツ死ぬぜェ?」

「ですが……。ここまでミラクルな力、只者ではありません」


 ブツブツと会話して考える二人。

 なんか、死ぬとか物騒な単語が聞こえたけど……。

 俺、ただ会わせてくれって言っただけなのに……。


「別に戦うわけじゃないぞ。案内してくれ」


 ものすごーく嫌そうな顔でこちらを見てくる……。

 どうやら、契約者だとかそいう問題ではないらしい。

 俺の人格的に問題アリとでも言いたそうだった。


「そう言えば、始祖の吸血鬼って……お前らの仲間?」


 俺がそう聞いた瞬間――

 先程までとは違い、明確な敵意。

 何故か二体は戦闘態勢に入ったらしい。

 殺してでも居場所を吐かせる、そんな意志を感じさせる……。


「てめェ……ブラッドを知ってやがるのかァ?」

「おう、知ってるぞ。で、仲間なのか?」


 もし仲間なら、こいつらにとって俺はかたきになる。

 ここはハッキリさせておくべきだろう……。


「いいや、仲間じゃねェ。奴の場所を知ってるなら吐け」

「ギルバ様が探している……最後の始祖です」


 ふむ、なるほど……。

 主が探しているのは、あの始祖の吸血鬼らしい。

 無駄に探しても可哀想だし、言っておくべきか……。


「始祖の吸血鬼なら――

「おいおい……。ギルバ様が聞いたらブチギレだぜ、これ」

「やはり、たろー殿を連れて帰りましょう」


 二体は頭を抱えて、困り果てている様子だ。

 話の流れからして、主にバレたら怒られるのだろう……。

 あと、たろー殿ってなんだよ……。


「俺が直接その主に伝えるぞ。邪魔したっぽいし……」


 元々は、吸血鬼が絡んできたから返り討ちにしただけだ。

 とはいえ、その主とやらの目的の邪魔をしたのは間違いない。

 何より、始祖を集めるなんて普通じゃないだろう。

 コイツらの主には色々と興味がある。


「では、ついて来てください。ナビしますので」


 始祖の天使こと――あわちゃんが歩き始める。

 普通に案内するって言えばいいのに……。

 なんか車みたいになっちゃってるぞ。



「ふむ、何か忘れてる気がするのう……」


 そうじゃ! 黑の親衛隊を忘れておった。

 空蝉との戦いの傷を癒し、アジトへと戻ったが……。

 部下にブラッドを探す命令を出し、放置していた。


「まぁよい……。そのうち戻るはずじゃ」


 隣町のビル、その全てが――童のアジト。

 まだ、人間であった頃に集めた資金で手に入れた場所。

 当然、今は”普通”のビルなどではない。


「茶を頼めるかのう? これこれ、そんな顔をするでないわっ」

「はーい……。不味くても怒らないでねー?」


 部下の始祖――その一体に、茶を頼んだ。

 お前の能力で作れるだろう、面倒くさい。

 そんな顔をしながら、文句を言わず去っていく……。

 用意された茶を飲み、思いに更けていると――瞬間。


「――っ」


 気配――圧倒的な、途方もない力が迫ってくる。

 部下が二人帰ってきた、それは良い。

 問題なのはもう一人。常軌を逸した死の気配……。


「なんじゃ……。あのバカ共、!」


 始祖の吸血鬼――ブラッドを探してこいと、そう言った。

 確かにブラッドは特殊じゃ、場合によっては強くもなる。

 しかし、コレは違う。


「……童だけか。これは、杞憂きゆうと切り捨てるわけにもいかんのう」


 部下である神魔達はまるで把握していない。

 力が強大すぎる故、正確に脅威だと認識できんか……。

 始祖クラスの神魔でもこの有様とはのう……。


「良い、面白い! 未知は歓迎じゃ」


 まさか――こうも未知の出来事ばかりとは。

 本来であれば、喜ぶべきことじゃろう。

 これ程の契約者、もしや優勝者かもしれん……。


「にっしっし……。童が直接――



「えーと……。なんか普通にビルなんですけど」


 あわちゃんのナビで着いたのは、隣町のビルだった。

 かなり大きめで、新しくて綺麗だ。

 想像してたのと大分違うけど……別にいいか。


「何階の部屋がアジトなんだ?」


 と、俺が二体に質問をすると同時――


「総てが――童の物じゃ。お前達、何を連れて帰った?」


 エントランスに、可愛らしい声が響く。

 声の主であり、この二体の主でもある存在だろう。

 ソレは――端的に言えば、”幼女”だった。


「ギルバ様……。申し訳ありません」

「良い。その人間も、面白そうじゃ」


 そこで漸く、俺に視線が向いてきた。

 裸の上から黒いレインコートを着ているだけの恰好。

 足元まである水色の髪に、ピンクの瞳で人間とは思えない。

 そして――幼女だ。なんで!?


「なぁ――お前らの主って、?」


 俺がコスプレ組に問いかけると、二人とも口をパクパクさせている。

 顔面蒼白で、怖がっているのか震えている。

 何やら小さな声でブツブツと、会話をしているようだ。


「ヤベェぞ……。言いやがった」

「避難しましょう。殺されます……」

「だから、嫌だったんだよォ……」


 ……どうやら、地雷を踏んだらしい。

 けど、始祖の神魔の主って聞いて来たらコレだぞ?

 思わず確認もしたくなるだろう……。


「……よ、よい。童は寛大だからのう。多少の無礼は許すのじゃ」

「お、おう。なんか……ごめんな」


 許すと言いながら、地団駄を踏むのやめて欲しい。

 流石に、初対面で幼女呼ばわりは良くなかった。

 言い方が悪かったかもしれない……。

 気を取り直して、もう一度聞いた。


「それで――?」


 俺がそう言った瞬間――目視できない衝撃が襲う。

 何らかの攻撃を受けたらしい……。

 メデバドの力で威力を殺したので、ダメージはない。


「ほう……。殺すつもりで殴ったのだがのう……」

「え、殴ったの? 全然わからなかったぞ」

「にっしっし……。良いな貴様、気にいったのじゃ!」


 俺の言葉を聞いて、何が面白いのか笑いだした。

 何というか、怒ったり笑ったりと、感情豊かな奴だ。


「改めて、童の名はギルバ。スーパーじゃ!」

「あ、うん。俺は田中太郎だぞ。よろしくな」


 ……俺、最近ロリと出会いすぎじゃね?




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