第70話 寿命

 この世界で唯一絶対、平等に訪れるモノは――――”死”だ。

 どんな人間も、いやあらゆる万物に、終わりは備わっている。

 では、人であることを捨てた契約者は?


「にっしっし……。手間がかかったが、完全に至ったのじゃ」


 契約者は代償を払い、神魔の力を引き出せる。

 中には、死すら克服した者もいることだろう。

 だが、それは――――明確な”勘違い”。


「のう……。知っておるか、契約者の寿命は、


 誰もかれも知らない。誰も想像しない。

 嘗て勝ち残ったであろう十三人の契約者は、果たしてどうなったか。

 優勝者の神魔が参加している。では、前の契約者は何処へ行った?


「天の座に昇り、世界や自分を創ったとして。

 たった一万年、それでは足りんのじゃ……」


 だから――――”この世界”を創り直せばいい。

 根底から、ルールそのものを捻じ曲げて。

 永遠に終わらない。そんな世界を創造しよう、と。


「童は外側に立った。田中太郎……お前はどうか……」


 自分を負かした怪物の名を、彼女は呟く。

 今の彼女は、ルールの外側。契約者ですらない、神すら超えた異形。

 もう一人、空蝉という怪物は最初から外側だった。


「にっしっし……。空蝉の呪縛も、三日あれば消えそうじゃ」


 東条エンマが進化を重ね、それでも届かなかった呪い。

 時ノ神の力を、今の彼女ならば三日あれば消し去れる、と。

 むしろ――――”三日も必要”とするあの神の異常性が垣間見える。


「さて、二体の最強を下せるかのう……?」


 先も述べた通り、この世界で絶対の概念は死。

 そして、田中太郎の契約する神魔は――死ノ神ギ・メデバド。

 最初の神魔戦争から頂点に在り続けた、掛け値なしの化け物。


「アレに勝てた神魔は存在しないのじゃ。過去の記録では、な」


 創造神と融合し、過去の神魔戦争の全てを知っている。

 そんな彼女だからこそ、如何に困難かを実感した。

 しかし、それは”創造神の契約者”であれば、の話。


「スーパー美少女である童なら、まぁ……なんとかなるじゃろ!」


 高まり続ける力を感じながら、彼女は――ギルバは笑う。

 創造神に留まらず。世界とすら融合を始めた。

 その進化の上限は、すなわち世界の限界。


「一番の問題は、”アークエルト”じゃな」


 彼女をもってしても底が全く見えない神。

 過去の記録で知る死ノ神。それ以上に不気味な強さを感じていたから。

 本来であれば、あの二体が潰し合ってくれるのが理想的だった。


「まったく……。両方を相手するのは、考えたくないのう……」


 あと数日すれば、世界は彼女によって掌握される。

 しかし、必ず二体の神が立ちはだかる。

 彼女は困ったものだと、笑いながら歩みを始めた。



「メデバドさんよ。ギルバはどっちだ」

「アッチダ。ア……コッチダ」


 俺は今、道に迷っていた。

 人生的な意味じゃなくて、単に行き先が分からん……。

 メデバドがギルバの力を感じるらしく、道案内させていた。


「ねぇ、俺はいいけどさ。今回は大人数だから勘弁だぞ」

「我、迷ッテナイ。人生ハ、回リ道ガ良イ!」

「人生はなっ! ギルバの場所が知りたいんだよ……」


 俺にツッコミなんてさせやがって……。

 ちなみに俺以外にも、真冬ちゃんやグラサンとか全員で外を歩いている。

 夜中ということもあって、俺達以外は誰も出歩いてない。


「夜中だから人いないな。

 大人数で並んで歩いても迷惑にならないぞ」


 なぜか誰も俺の横に並んで歩かず、後ろにいた。

 ちょっと寂しいので、誰か来てくれと呼びかける。


「ぼ、坊主……。お前の背中に死神がいるんだ」


 グラサンがダンディな声で、今更な台詞を言った。

 何か、胡散臭い占い師みたいな文句だな……。

 まさか、メデバドが怖いとか? あの容姿でビビりとか……。


「メデバドは怖くないぞ。

 平気平気、ちょっと触れたモノを殺しちゃうだけで」


「それ、貴方以外は致命傷なのよ……」


 と、真冬ちゃん。呆れたようにボソッと喋る。

 スノウや、着物美少女も勢いよく頷いていた。

 どうやら、マジで怖いらしい。メデバドの本当の姿見たら泣き出しそう。


「メデバド、ちょっとあのキショイ姿になってみて」

「我、キショクナイ! 我可愛イ!」

「あ、うん。皆をビビらせようぜ」

「汝、遊ンデイル場合デハナイ。急グベキダ」


 俺がふざけようとすると、真面目になるのやめようぜ。

 メデバドに正論を言われ、シクシクと歩く俺。

 あれ……? コイツのせいで道に迷ってたような……?


「てかさ、今更だけど……。皆はギルバに支配されないの?」


 そう――考えるのめんどくて、ノリで外来たけど。

 契約者は基本、ギルバに逆らえない。

 それどころか、操られて敵になる可能性まである。


「案ズルナ。我ガ近クニイレバ、支配ハ及バナイ」

「ご利益あってまじで神様みたいだな」

「我、神様。フフン、我、カッチョイイ!」


 台詞から小者感が漏れて、隠し切れないメデバドさんマジ流石。

 ただし、近くにいて触ると殺されるので、ご利益(笑)みたいな扱いだった。


「お、敵がお出ましだぞ。皆がんばれ」


 歩いていると、ゾロゾロと人が目の前に集まってくる。

 その全員が、体のどこかしらに契約紋が出ていた。

 目が虚ろで、ギルバに操られてるっぽいな。


「何で貴方は戦わない前提なのかしら……」


 頭に手をあて、ため息をつく真冬ちゃん。

 どうやら周囲には、かなりの数の敵がいるようだ。

 いつの間にか囲まれていた。


「よし分かった。ここは俺に任せて先に行け!」

「貴方が残ったら、私達じゃギルバに何もできないのだけど……」


 人生で一度は言ってみたい台詞をきめた俺。

 真冬ちゃんがヤレヤレと首をふる。

 全員が俺を見て、鼻で笑うと手でしっしっとはらってくる。


「俺の扱い雑すぎない? 結構重要な役目だと思うぞ」


 どうやら雑魚の相手はしてくれるようだ。

 俺はギルバのとこに行くか……。

 メデバドが指をさす方向に向かって歩いていく。


「通行の邪魔だぞ。道で横に並ぶなよ、女子高生以外は許さんぞ」


 俺の前に回り込んでくる敵に、死を付与する。

 敵がいても気にせず歩けるので、ぶっちゃけ皆が残る意味ない。

 まぁ、いてもいなくても変わらないし……。


「田中君は私が守るの……。足手まといにはならないから」


 俺の右手に抱きついてくるゴール。

 とても眠そうな顔でそんなこと言われても……。

 これあれだ。歩くの怠いから俺の腕にしがみついてるだけだ。


「まぁ……。ギルバ相手なら平気だろ、多分」


 前に戦った感じだと余裕あったので、負ける心配はないだろう。

 ゴールを人質にするタイプでもなさそうだし……。


「田中君、それ負けフラグってやつなの……」

「おいコラ、やめろ。自分でもちょっと思ったから」


 幼女(死ノ神)を背中におぶり、幼女(灼聖者)を手でぶらさげ。

 俺は創造神を倒す(筆おろしの)ために進んでいく……。

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