第9話 日常

「ん、うんぅうう」


 俺は今、ベッドで眠っているのだが体が重い。

 体の上に何か乗っているような感覚と共に目を覚ます。


「なんだ、重いな」

「我、重クナイ!」

「ぎゃあああああああああ」


 目を開けるとドクロ顔の死神が俺の体の上にいた。

 いや、よく見たらメデバドか。


「俺の前では美少女の姿でいろと言っただろ」

「我、コノ姿デモ可愛イ!」

「怖いわ! てかいつ出てきたんだ?」

「汝、昨夜、我ヲ呼ンダ」


 そう言えば寝る前にメデバドを呼んでいた気もする。


 メデバドは俺の言葉を聞くと黒い何かが集まり、前と同じで少女に変身した。

 綺麗な紫色の長髪に黒いドレスを着ていてどこから見ても美少女だった。


「そうだ、俺さ、性欲なくなって一生童貞かもしれないんだ、なんとかしてくれ」

「汝、マダ希望ハ在ル」


 メデバドはその言葉と一緒に俺の息子を指さす。


 俺は自分の息子を確認するとなんとが出来ていたのだ!

 昨日あんなにエロ漫画を見ても反応がなかった息子が立っている?

 そうか! 朝の勃起はだ。


「メ、メデバドさんよ、朝の勃起してる間に童貞を捨てろと?」

「汝ハ欲情ガ出来ナイ、ナラバ、コノ数分デ捨テルシカナイ」

「そんなんできるかあああああああ!」


 どうやら俺は一生童貞らしい。

 いや、神魔戦争の勝者には神を超える力が手に入る、……はず。

 ならば――しかない!


「メデバド、俺が勝ち残れば性欲を取り戻すことは出来るのか?」

「天ノ座ニツケバ可能ダロウ、世界モ自分モ思イノママダ」

「つまり、俺が童貞を捨てるには方法は二つ」


 朝の起きてからの数分でなんとかするか。

 神魔戦争に勝ち残って性欲を取り戻すか。


 この二つしかない、前者に関してはほぼ不可能だろう。


「やってやるよ! 俺の性欲を取り戻す道程を誰にも邪魔させねぇええええ!」

「汝、ガンバ!」


 メデバドは両手を挙げてバンザイしながら応援してくれる。

 コイツ本当に威厳みたいなのがない奴だな、神なのか信じられなくなりそうだ。


「そういえば、俺、召喚サモンした覚えないんだけど」

「我ガ自分ノ意思デ来タ」

「え? 神魔って自分の力でこっちこれんの?」

「否、我ダカラ出来ル、我凄イ、我カッチョイイ」


 だめだコイツ、喋らなきゃ美少女なのに色々台無しな奴だ。

 今の俺は相手がどんな美少女でも欲情はしない、だが綺麗な景色を見て癒されるように美しいものを愛でる感情は残っている。


優勝者シードは俺達以外にもあと十二ペアいるんだよな?」

「否、優勝者シードノ神魔ハ契約相手ヲ見ツケルノガ難シイ」

「どゆこと? 俺まだイマイチ神魔戦争について分かってないんだけど」

「強イ存在デアレバ契約ヲ結ブ相手ノ人間モ限ラレル」


 前回の優勝者であるシードの神魔しんまは今回の契約相手に当たる人間にも適正のようなモノがあるらしい。

 なにより、常に命を狙われる優勝者シードとして契約者バトラーになりたい人は少ないだろう。


「契約できる人間にも制限があるってことか?」

「肯定、普通ノ人間デハ優勝者シードトノ契約ハ危険ガ伴ウ」

「俺の場合は契約してなきゃ死んでたから選択の余地なかったもんなぁ」

「汝、優勝者シードガ相手デモ必ズ勝テル、案ズルナ」


 誰が相手でも勝てる程にコイツがデタラメな存在なのは分かる。

 だが、


「ちなみに前回の勝ち残った十三体の神魔にはお前より強い奴っていたの?」

「否、我ニまさる力ヲ持ツ神魔ハ存在シナイ」

「なら心配ないか、どうせ俺死なないし」

「否、契約紋ヲ破壊サレレバ汝ハ死ヌ」

「……まじで? だから見えない位置に契約紋を入れろとか言ってたのか?」


 ひょっとしなくても眼に契約紋を入れたのは失敗だったようだ。

 弱点を目立つ場所に晒すのは神魔戦争ではタブーとも言える愚行らしい。

 先に言ってくれよおおおおおおおお!


「汝ノ弱点ハ眼ダ、ソレヲ忘レルナ」

「もしかして、眼以外にしてたら俺、無敵だった?」

「肯定、明確ナ弱点ハ存在シナカッタ」

「くっそおおおお! ミスったああ!」


 俺は神魔戦争に置いてスペック的には最強クラスなのに色々と選択を間違えた。

 自ら弱点を作った挙句、一番大事な性欲を完全に失った。


「元気ダシテ、汝、我ガ守ル」


 俺はよしよしとメデバドに頭を撫でられる。

 幼い少女に撫でられるのは複雑だ。

 だが、おかげでショックも和らいで冷静になった。

 弱点が明確ということはつまり、逆を言えば狙ってくる箇所が分かるってことだ。


「俺の脱童貞のためにこれからも力を貸してくれメデバド!」

「我、約束スル、汝ヲ必ズ勝利ニ導ク!」


 メデバドは優しい、今の俺の唯一の心の支えだ。

 俺はメデバドと少し絆を深めたのだった。


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