第53話 時ノ神VS創造神

「つまらん。誰も――わらわの想像を超えることはない……」


 昔から、童がまだ幼子おさなごであった時から、変わらぬ世界。

 想像力、創造性、そんな概念が人の形をしているような、そんな子供。

 そこに感動も喜びもなく、生きている実感すらない想定内の時間。

 反動で、起動哀楽を激しく振舞うも、虚しさばかりの人生……。


ゆえにこそ――灼聖者リーベどもには、期待していたのじゃ……」


 そう――珍しい。童が想像することがなかったモノが二つ。

 一つは、神魔戦争。これには驚いたのを覚えている。

 二つ目は、灼聖者という集団。何故、存在するのかすら知らない。


「”スーパー美少女”の宿命というヤツかのう」


 実は、一つ目の驚きにはオチがあった。

 当初は神魔戦争を知らず、創造神を呼び出しワクワクしたものじゃ。

 所詮は童も人の子であったのだと、安堵した。救われた。


「よもや――、思わなんだ……」


 ”神”とは一種の概念であり、完成された一つの””じゃ。

 故に、二つ存在することができない。一つの概念に神は一体のみ。

 ”創造性”という概念に於いて、童は神を超えていた。


「人でありながら神を凌駕する……。つまり”スーパー美少女”じゃなっ!」


 こんなことを言っては、自分を納得させ生きてきた。

 創造神――アルカ・テラシオンには自我がない。

 童と融合したことが原因なのか、それとも……。

 始祖の神魔を生み出す時に、力を分け与えたことが原因かのう。


「全ての始祖を回収し、世界を造り直す! 覇道はどうで結構じゃ」


 それこそが――童の目的であり、存在理由。

 愛と感動――つまりは”未知”で溢れる世界に変革する。

 とはいえ、戦は好かん。あくまで求めるは平和的な”未知”。

 もっとも、まだ見ぬ敵がいれば、話は違うがのう……。

 

「お前達……ブラッドを探し出せ。この町にいるはずじゃ」


 始祖の神魔で構成される親衛隊に――命令を下す。

 奴らが従うのは、力による屈服ではない。

 畏怖の心であり、新興であり、崇拝であり、未知への恐怖。

 絶対の存在だった創造神すら、ねじ伏せた人間への興味。


「ん、お前……まだおったか。名は何という?」


 小物だった灼聖者を黙らせ、辺りを見回すと女が一人いた。

 こちらを怯えた様子で見ていて、震えているらしい……。

 その契約者の頭上にはドラゴンが舞っている。


「スノウ……だよ……。震えが、止まらない、よ……」


 ふむ、無理もないかのう……。

 魂の格が、存在としての強さが違う。

 始祖クラスの神魔か、あるいは灼聖者のような例外でなければ直視できない。


「童が怖いか? 未知が恐ろしいか……。羨ましいのう」


 こんな風に、弱者として生まれていれば……。

 人生で実感できるのは――既視感と既知感だけ。

 全てが想定通り。童の創造性を上回る事態など稀じゃ。


「スノウといったか。案ずるな、楽にしてやるのじゃ」

「え……? あ……こ、殺さない、で……」

「ふむ、死んでも問題はないのじゃ。世界は変わるからのう」


 童が造る世界には――死人しびとですらも希望がある、救いがある。

 今ある世界とはルールが異なるだろう。

 過去に死んだ、全ての人間を呼び戻してもいい。


「……秒針の音? はて、時計などあったかのう」


 カッチ、カチ、と。何処からか、時計の音が鳴り響く。

 何かが、来ている? しかし、人影は見当たらない。

 この町はボロボロで、時計など残っているはずもないのじゃ……。


「やぁ――初めまして。創造神の契約者……いや神そのもの、かな?」


 ……いつからか、瓦礫の上に座る男がいた。

 茶色いコートに身を包み、その雰囲気は爽やか。

 男といっても、まだ若い青年。二十歳くらいか……。

 本を片手に、月に照らされて――その美しさが際立っている。

 

「お前……何者かのう? 童はギルバじゃ、名は?」


 直感が――訴えている。この男は違う、何かが異なると。

 童をもってしても、理解の範疇にない。

 いや、むしろ……奴にとって、


「へぇ……。凄いね君は。僕を警戒しているのかい?」


 そうだ、本来であれば警戒など有り得ない。

 童は創造神の契約者であり、不完全とはいえ神そのもの。

 だが、童の”創造性”が真に発揮されているからこその警戒。

 この男も同じ”異形”の類ではないか、そう思える……。


「僕は――空蝉うつせみ春草しゅんそう。時ノ神と契約しているよ」


 時ノ神……? なるほどのう。

 優勝者の中に、創造神より上位の神が二体だけ存在する。

 最強の神魔――死ノ神ギ・メデバド。これは、呼べる人など存在せん。

 そして――時ノ神”クロノス”。力は僅差で向こうが上。


「よい、よいのう! 童を殺しに来たか、同胞どうほう!」


 人の形をした異形、化け物。

 生まれる世界を間違えたとすら言える、わらわの同士。

 童も……おごりが過ぎた、勘違いしていたのかのう……。


 何故、考えなかったのか。


「にっしっし……。童も、まだまだじゃのう」


 創造神と融合したことで、”前回の記録”を童は持っている。

 だからこそ――灼聖者という異物には驚いた。

 だが、実際は期待外れもいいところ。

 しかしそれは、この男が原因であり黒幕ならば納得がいく。


灼聖者リーベどもは――お前さんの仕業かのう?」

「ハハ、流石に想像力が豊かだね。……おや?」


 空蝉と名乗った男が、震える女に視線を向ける。

 知り合い? いや、こんな小物に興味を持つ人物には見えんのう。


「スノウさん、だったかな? たろう君の戦いは終わったよ」

「――っ! 本当?」

「うん、速く行ってあげるといい」

「ありがとう……。えーと、セミさんも気を付けて」


 ……助ける意味も、価値も、あるとは思えん。

 この男が、神を呼んだ異形が、人を案じる?

 そんなはずはないと、断言できるのじゃ……。


「空蝉とやら、貴様……?」


 この女の知り合いに興味があるのか……?

 少なくとも、何かがあるのう……。

 五天竜の背に乗って、スノウと名乗った女は去っていった。


「さて、これで――君の力が計れそうだ」


 空蝉の周囲には、無数の時計が出現していた。

 世界が歪み、周囲の瓦礫が修復されていく……。

 いや、巻き戻っている? こちらも、戦闘態勢に入るとするかのう。


「ふん、あくまで人払いとほざくか。まぁよい」


 創造神と時ノ神の力には差は殆どない。

 それ故に、契約者の技量が結果に色濃く出るのじゃ。

 それは――戦術性であったり、経験であったり、”創造性”じゃ。


「この戦いは――。未知とは心躍るものじゃのう?」

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