第18話 田中太郎とエルト

「メデバドー、一緒に散歩するか?」

「我、歩クノ嫌イ、オンブヲ所望スル」


 神崎真冬との一件から二日が経過した今日。

 俺、田中太郎は暇を持て余し、散歩でもしようと相棒を誘った。


「神様ならもう少し威厳を持とうぜ」

「我、可愛イ、威厳ハ必要ナイ」

「まじでお前が凄い神魔なのか疑い始めてるぞ俺」

「我ハ強イ、我、カッチョイイ!」


 俺の部屋のベッドにぴょこりと座っている美少女は神様だという。

 最初こそ神だと信じたが今では自称なのではないかと疑い始めていた。

 こんな残念な奴が死神だとは信じたくない。


「メデバド以外の神様も参加してるのかな?」

「可能性ハ在ル、ダガ、汝ホド力ヲ引キ出ス者ハ存在シナイダロウ」

「あー、半分の力を行使できるんだっけ?」


 つまり、神様と契約する者がいたとして。

 代償により引き出した力は俺には及ばないということだろう。


「メデバドってご飯食べれるのか?」

「我、食事ハ必要ナイ」

「オーケイ、昼ご飯行くぞ」

「汝、神ノ言葉ヲ軽ンジルナ!」


 両腕を挙げて俺に抗議してくるメデバド、神の威厳は皆無だ。

 必要ないってことは食えるってことだ。

 ボッチ飯とか寂しいから無理やりメデバドを連れて行くことにした。


「ほら、おぶってやるから乗れ」

「我、インドア、外、出タクナイ」

「お、おう、分かったよ、俺一人で散歩するよ」


 メデバドは断固拒否の姿勢だった。

 まぁ、契約してから一人になったことないし。

 たまには良いかもしれない。


「ピンチナラ我ヲ呼ベ」

「あいよー、まぁピンチになることなんてまずないけどな」


 そんなフラグ宛らな台詞を吐いて部屋をあとにした。



「なーんか、退屈だなぁ」


 俺はあれから、花が咲き、噴水のある綺麗な公園を散歩していた。

 性欲を失ってから、ナンパやエロゲーといった生き甲斐がなくなっていたからだ。

 なんか刺激が欲しい。神魔戦争に参加してる時点で刺激満載のはずではあるが、今まで脅威になるような存在には出くわしたことがない。


「ん? ……あの子、何してるんだ?」


 噴水を見ると、一人の少女がいた。

 真っ白なドレスにシンデレラのようなガラスの靴。ミディアムくらいの長さで銀色の髪、碧い蝶の髪飾りが特徴的だ。

 顔立ちからして日本人離れ、いや、人間離れした美しさに見える。


「噴水を覗いてるのか? 落ちるぞあれ」


 噴水の周りにあるコンクリートの上に乗り、揺らめく水面を興味深そうに観察している。

 だが、バランスを崩して落ちてもおかしくはない。俺は少し、カッコつけて優しく聞いてみることにした。


「何を見てるんだ? 落ちるぞ」

「そう、なの?」

「お、おう、危ないぞ」


 近くで見るとその美しさが際立って見えた。

 性欲を失い、欲情できないはずの俺が口ごもる程に美しい子だ。


「私、堕ちない、よ?」

「ん、なんか噛み合ってないような」

「?」


 少女は困惑している様子だ、俺、何か変んなこと言っただろうか?

 あ、そうか、ナンパしたと勘違いされているかもしれない。

 『何(俺を)見てるんだ? 堕ちるぞ?』

 『危ないぞ(惚れちまうぜ)』

 とでも聞こえたのかもしれない、どうしよう恥ずかしい。


「ナンパじゃないよ、噴水に落ちそうだったから」

「平気、だよ。けど、ありがとう、ね」

「待ち合わせでもしてるのか?」

「違う、よ。散歩、してたの」


 少し後ろめたそうに呟いた、ドレスだし、結婚式から抜け出したとか?

 けど、ウエディングドレスではないんだよなぁ。それにこの子、誰かに似てる気がする……。


「俺も散歩だ、散歩友達にでもなるか」

「うん、良い、よ」


 嬉しそうにはにかんで頷いてくれた。

 何というか、守ってあげたくなる雰囲気のある子だな。

 この子と会話しているとまるで性欲を失う前の、気がする。


「俺は田中太郎、君は?」

「エルトで、良いよ」

「よろしくなエルト、今日からマブダチだ」

「うん、よろしく、ね、たろう」


 ふと、スマホで時間を見れば、夕方になっていた。


「俺は帰るけど、気を付けて帰れよ」

「うん、バイバイ」


 少し小さく手を振ってくれていた。

 けど、本当に誰に似ているのだろうか、そうだ。


「メデバドだ、アイツに似てる」


 俺は後ろを振り返り、彼女を見て確かめようとするが。

 既に彼女はその場に居なかった、今の一瞬で消えた?



「何処へ行っていたんだい?」

「公園、噴水見てたの、マブダチ、できたよ」

「仮にも時ノ神なんだから、噴水がマブダチはやめよう」

「違う、よ、たろうは人間」


 たろう? 人間? あのアークエルトが僕以外に興味を持つとはね。

 どうやら相当に卓越した何かを持った人間がいたらしい。


「僕以外に君の興味を誘う人間がいたとは、面白いね」

「春草より、変な人間だった」

「ハハ、僕は思ってたよりまともな人間だったのかな?」

「たろう、契約者バトラーなら、危険」


 それほどか……。時ノ神”アークエルト”をしてここまで言わせるとはね。

 もし、本当にいるのなら、いずれ戦うことになるのかな。


「けど、一般人なんだろう?」

「……分からない。何も、感知、できなかった」


 とても会ってみたいね。そのたろう君とやらに……。

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