二代目は男装吸血鬼
カーテンから抜け出して、カーミラさんが挨拶をする。
肩を出した黒のワンピースは、膝上数センチがやや透けていた。美しさの中に妖艶さが混じって、実に蠱惑的だ。
それにしても、カミュにやたら似ている。
カミュと双子だと言われたら信じてしまう。
「カミュの野郎、姉妹がいるなら言ってくれりゃいいのに」
クスクス、とカーミラさんは笑う。
「あの、ボクがカミュなんだけど?」
カーミラさんが、自身をカミュだと名乗る。
「だってお前、髪が」
初めて会ったときは、ショートだったじゃないか。
「くくっているんだよ。帽子で隠せば、ホラ」
カミュは丁寧に、銀色の金髪を結んだ。
オレは、カミュがうなじを上げた仕草にドキリとなる。
「どうかしたかい?」
「なんでもねえ」
心境を悟られまいと、カミュから視線をそらした。
「変なの」と、カミュがベレー帽を被る。確かに、カミュへと早変わり。
なんと、今日一番驚いたかも知れない。
「マジか、女装趣味とかじゃなく?」
「失礼ですよ。カミュ様ことカーミラ・バートリ・カルンスタイン様は、男装の麗人なのでございます」
手をナプキンで拭きながら、サティが部屋の中へ入ってくる。
「お夕食の準備が整いました」
「ありがとう。キミも食べなよ、トウタス」
一晩中歩き回っていたので、腹が減っていた。しかし、ゾンビに満腹感なんてあるのだろうか。
それより、食事って普通の食い物だよな?
「心配ないよ。サティのご飯はおいしいんだから」
「じゃあ、遠慮なく。ところで、オレの背中に、ビシャモン天の刺青があったんだ」
シャツを脱いで、オレはカミュに背中を見せる。
「これは」
興味深そうに、カミュもオレの背中を覗く
「オレも驚いてるよ。地球でオレが彫った入れ墨が、こっちの世界にも彫られている」
トウタス・バウマーだった頃には、こんな入れ墨はなかった。
「キミの場合、刺青と言うより魔方陣に近いね」
一般的な入れ墨は、絵柄が浮世絵に近い。
オレの場合は、外国人がやるような幾何学的な模様を意識している。抽象画のような。
「世話になった姐さんの趣味でよ。前時代的な入れ墨に興味がないんだと」
「その姐さん、というのが、キミの背に入れ墨を彫ったのかい?」
「ああ、今は外国で働いてるよ」
「ふーん、そっか」
顎に手を当てながら、カミュは首をかしげた。
「変な話だったか?」
「ううん。なんでもない。ボクはキミに、ビシャモン天の加護を付与した。それによって、キミの身体は腐らない。背中の刺青は、ビシャモン天の力が、前世の記憶と共に宿ったせいだよ。刺青だけが前世のままになったんだ」
普通のゾンビだと、腐敗が進むのは免れない。カミュの能力では死者を蘇生できるのみ。
オレにはビシャモン天の力が宿っている。
そのおかげで、オレは普通に生活もできるとか。
誰もオレがゾンビだと気づかない。
「それより食事にしよう。もっとキミの話を聞かせてよ。ボクがどうして男装しているかという話もしておきたい。それと」
オレから視線を外して、カミュは顔を赤らめる。
「早く上着を着なよっ」
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