第三章 高慢と偏見とヤクザ

ノスフェラトゥ

 翌朝、カミュとフェロドニアで買い物へ。


「カミュ坊ちゃんと、トウタスのあんちゃん。昼間は世話になったな」

 ドワーフの鍛冶屋バラドが、オレに声をかけてきた。


「オレは何もやってねえよ」

「いやいや、『ノスフェラトゥ』を追っ払ってくれたんだろ?」


「ノスフェラトゥ?」

「パン屋を襲った奴らのことだよ」


 ここ最近で、勢力を拡大してきた野党軍団らしい。盗みや殺しなどを請け負い、魔物とも繋がっているという。


「奴らを牛耳っているのがな、どっかの貴族様らしいんだよ。まいっちまうよ」

「どいつなんだ、その貴族って?」

「王都に住む、マーベリック・キャンデロロ男爵じゃねえかって噂だ」


 だが、証拠は挙がっていないらしい。

 この間捕まえたゴロツキたちも、口を閉ざしたままだとか。

 第一、爵位を持った権力者が、どうして魔物などと手を組むのか疑問だ。


「お前の親父さんも、爵位持ちだよな?」

「父、カルンスタイン伯のケースは、魔界で爵位を得たからね。男爵の場合とは当てはまらない」


 ともかく、情報が必要か。

 場合によっては、男爵に挨拶しなければならないかも。


「お前さんは、常連の恩人だ。特別に金を取らないで武器を作ってやる」

 バラドが話を戻す。

「そんな。悪いぜ」

「いいってことよ。タダは一回きりだ。メンテナンスのときは金をもらうからな」


 だったら、遠慮しない。


「やっぱり金は払うぜ。その代わり、作ってほしいものがある」

 オレは、土の地面にイラストを描いた。


「そんなんでいいのか?」

「ああ、オレには必要なんだ」


 首をかしげつつも、「任せろ」と、バラドは言ってくれる。

 腕をグッと上げて、彼は去って行った。


 なぜか、カミュの目の色が変わっている。

「やはりノスフェラトゥがここに!」

 顎に手を当てていたカミュが、考え込んだ。


「どうして、そんなに慌てるんだ?」


「奴らのボスが、ノーライフキング リ・ッキなんだよ! そうか、どうりでリ・ッキの息が掛かった魔物がはびこっているワケだ。彼らを探れば、もっと強い配下を削れる」


 そんな危ないヤツらが現れたとなると、また街で虐殺が行われる。

 止めなければ。


「ボクは盗賊ギルドへ向かう。トウタス、キミも来てくれ」

「おうよ」


 盗賊ギルドを当たる。


 カミュがその辺にいる盗賊から話を聞こうとしていた。


「ノスフェラトゥってのは、どんな奴らだ? この辺に顔を出すのか?」

 堂々と、オレはギルドの受付で問いかける。


 カミュがオレの口を手で押さえた。

「どういうつもりだい、トウタス?」


「こういうのはストレートに言うに限る。それによ、周りをマークしておいてくれ。嗅ぎ回っているのがオレだと分からせる。わざとオレたちを泳がせている様子なら、そのまま情報を集め続ける。もし、変な動きを見せたら、カチコミだ」


 襲撃されたなら、やり返すだけ。


「背後関係も調べる必要があるよ」

「それが本命よぉ」


 カミュは、相手の戦力を削るのが目的だ。あくまでも周到に。

 オレは逆に、大胆な行動を取る。

 そうやってカミュへの注意をオレに向けさせるのだ。


「どうよ、いい作戦だろ?」

「ベタだけど、ナイスアイデアだ、と言っておこうか。こちらも、まともな案は出てこないし。出てきていたら、ここまで苦戦していないからね」


 ずっと、カミュは一人でやってきたんだ。

 これでは限界も早い。


「ノスフェラトゥを追っているの?」

 見覚えのあるダークエルフが、オレたちに語りかけてきた。

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