インタビュー・ウィズ・ヤクザ
「うーんと、タマミ?」
「そうだ。ダメなら別の候補を」
他の名前をオレが考えようとしたら、少女は首を振った。
「わたしはタマミです。タマミがいい」
タマミに続いて、カミュが言う。「いっそ、タマミ・バウマーって名前にしなよ」
「そいつはいい! 今日からお前はタマミ・バウマー。オレの、トウタス・バウマーの妹だ」
「はい。よろしくお願いします。トウタスお兄ちゃん。それと」
「こういう時は、こうやるんだ」
オレは、カミュに向けて仁義を切るポーズを取る。
「お控えなすって、親分。今日からおいらがタマミのお兄ちゃんとならせていただきやす。どうぞ、妹共々よろしくお頼み申します」
オレを真似て、タマミも中腰になって仁義を切った。
「お、おひかえなすって。タマミ・バウマーと申します。トウタスお兄ちゃんの妹です。えっとぉ」
カミュの名前が分からず、タマミが言葉に詰まる。
「ボクは、カミュ・シェリダンです」
「カ、カミュ・シェリダンおやぶんの下で働かせていただきます。よろしく」
「こちらこそ。タマミちゃん」
「それから」
タマミは、自分を拾ってくれたサティと向き合う。
「カミュ坊ちゃまの執事を務める、サティでございます」
「よろしく、じゃなかった。おひかえなすってサティさん」
サティとタマミの挨拶が終わって、カミュはオレに問いかけた。
「どうして、タマミって名前に?」
「これはな、オレに妹につくはずだった名前だ」
オレが一〇歳になった頃、母が妊娠した。
五が月目で、女の子だと判明。
それから、両親は新しい家族を迎える準備で忙しくなる。
オレに構う暇などなくなった。
このままだと、妹に居場所を取られるかも知れない。
家の近所に、毘沙門天を奉っている神社があった。
オレはそこに向かい、手を合わせる。
「妹が生まれてきませんように」
オレは、神社にそう願ってしまった。
直後、「家族が交通事故に遭った」と報せを受ける。
検査の帰り、運転中に落雷があって、倒木に自動車が押しつぶされた。
両親も、お腹の赤ん坊も。
オレのせいだ。
直後にそう思った。
オレが妹なんていらないなんて願ったから。
自分を責めて、オレは街を出た。
だが、一〇歳程度のオレがまともに生きられるはずもない。
すぐに補導された。
しかし、親分がオレを拾ってくれたのである。
行くところがないと言うと、ウチで働けと言ってくれた。
子どものオレを引き取って、学校まで行かせてくれたのだ。
「だからよ、オレはタマミを放っておけなかった」
毘沙門天の刺青を背負ったのも、常にオレをいさめてくれる存在を求めたからだ。
毘沙門天から、常に罰を受け続けるために。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。あなたのせいじゃないよって」
「え? 分かるのか? こことは別の世界の話だぜ?」
気がつくと、オレは涙声になっている。
「分かるよ。霊にはそういうの関係ないもん」
タマミは、オレの隣に目を向けて、微笑んでいた。
「ずっと辛かったねって。車が潰されたときは痛かったけど、お母さんはずっと守ってくれた。でも、自分は心が弱くて死んじゃっただけだって」
オレの中で、娘を必死で庇う母親の姿が浮かぶ。
「誰のせいでもなかった。運命だったんだよって言ってる」
「本当か?」
オレが問うと、タマミはコクリと首を縦に振る。
「だから大丈夫。これからはずっと一緒だからって」
「分かった。ありがとうなタマミ」
オレは、タマミを抱き寄せた。
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