妹はネクロマンサー

 屋敷に戻り、カミュは少女に服と食事を与えた。


 服は、ブルーのワンピースである。

 少女は一〇歳にも満たない。

 カミュもそれを考慮して、子どもの頃に着ていた服を寄越した。

 

 名前を聞いても、少女は首を振るのみ。

 聞けば、番号で呼ばれていたという。ひどい話だ。

 

 少女は、斜め上方向をキョロキョロとしていた。


「何してんだ?」


「幽霊さんとお話ししているの。この人たち、ここで死んだ人なの? 人が寄りつかなくなって寂しかったけど、お化けでも人が増えて賑やかになったねってお話ししてる」


「そっか。ここはさる大物貴族が余生を過ごしていた場所だ。彼が死んだ後、ここを買い取ったんだよ」


 つまり、彼女にはその幽霊が見えると?


「お前、幽霊を話せるのか?」

 ここに元いた老貴族どころか、さっき死んだ子どもたちまで集まっているとか。


「生まれてすぐに捨てられたの。怖いからって」


 幽霊が見えるどころか、実体化も可能だという。

 そのせいで、周りから恐れられ、捨てられたと。


「ドレイ商に拾われて、番号で呼ばれてた。また追い出されると思ったから、霊が見える力は伏せていたの。でも最近バレてしまって、別の人に売られたの。それがさっきの人」


 カミュが倒した商人か。


 魂を食われそうになったが、幽霊が身代わりになってくれたおかげで、彼女は生き残れたらしい。

 その幽霊には悪いことをしたと、少女はしょんぼりした。

 優しい子だ。


「で、カミュよぉ、どうするんだ?」

「孤児院か修道院に引き取ってもらうしかないね。キミのお友達の、セェレって子、シスターだろ? 彼女に仲介を頼めないかな?」


 その方が幸せだろう。友達もできるかも知れない。


「話してみる。あいつは面倒見がいいから、断らないと思うが。ん?」


 しかし、少女はオレの服を掴み、離そうとしなかった。


「分かった。ここにいろ」


 オレが言うと、少女は目が明るくなる。


「ちょっとトウタス?」

 やはり、カミュは反対してきた。


「オレが面倒を見える。養育費はオレの取り分から引いてくれ」


「そういう意味じゃなくて、ボクたちは仇討ちをしているんだ。一般人は巻き込めない!」


 カミュの言い分はもっともだ。

 オレたちの行いは危険が伴う。


「だからって、放ってはおけねえ!」


 彼女は、オレに懐いている。

 たとえ引き離しても、またここに戻ってくる可能性が高い。

 

 オレとカミュの口論を止めたのは、意外にもサティだった。

「分かりました。面倒を見ればよろしい」


「サティまで!」


「ただし、ここに見合う能力があればの話ですが」


 困り顔になって少女は俯く。

「お部屋のお掃除でもいいですか?」


「構いません。ただし、この一帯を一日でできますか」


「多分。えーい」

 立ち上がった少女は、両腕を横に広げた。


 木箱の中にしまわれていた掃除道具が、ひとりでに動き出す。

 ホウキが床を掃き、雑巾が窓を磨き始めた。

 天井までキレイにしていく。


「これは、ポルターガイスト現象かな?」


「うん。さっきできるようになったみたい。こうすればいいよ、って、幽霊さんたちが教えてくれたの。みんな、手伝ってくれるって」

 部屋の掃除は幽霊たちに任せ、少女は自分が使った食器を洗う。


 カミュがハッとした顔になる。


「そうか、トウタス、キミが杯で血を分けてあげただろ? その力だ」


 どうやら、あの杯を少女にあげたのは、間違いじゃなかったらしい。


「もう結構です。あなたの力は十分、分かりました。ここに置いて差し上げます。お仕事は厳しいですが、ついてこられますか」


「はい。よろしくお願いします」

 作業の手を止めて、少女はペコリと腰を折る。


 こうして、少女はこの家に住めるようになった。


「よかったな。じゃあ、さっそく名前を決めるか」


 オレは、彼女の能力を聞いて、一つの名前が頭に浮かぶ。


「タマミなんてどうだ?」

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